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淡い恋心が狂気に変わるまで  作者: 安倍隆志
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修学旅行

僕の通っている高校は、私立の高校ということもあって修学旅行にはハワイに行った。大半の人は楽しみにしてワイワイと騒いでいたが、僕はどうもハワイという場所に興味を持つことが出来なかった。この時の僕には、付き合っている女性がいた。その彼女の名前は真理だ。男友達と遊んでいる時に知り合い、そのままの流れで付き合うことになったのだ。由美のことはずっと好きだったが、何もする前から諦めてしまっていた。


 そして、真理のことを好きになろうと努力していた。                     




由美は、修学旅行二日目から一人でいることが多いように見えた。そして、何となくだが、悲しい表情をしているような気がした。そんな彼女を見ていると話しかけられずにはいられなかった。


 彼女ができたことで余裕ができたのか、高校一年生の時にできなかったことが自然にできていた。


「修学旅行は楽しんでる??」


と泊っているホテルの近くのベンチに座っている由美に話しかけた。


 少し間が空いて、「うん」と明らかに作ったような笑みを浮かべた。


 何と言い返そうか迷っていると


「隆志君が話しかけてくれるなんて珍しいね。どうしたの??」。


「いや暇だったからさ。」


と少し動揺しながら僕は返事した。


 それから十分ほど修学旅行の初日の話で盛り上がった。


「そろそろ部屋に戻るね。」


「うん、わかった。またね。」


 さっき思った悲しい表情は気のせいだったのだと思えるほど、由美は自然に笑っていた。でも、「楽しんでる??」と僕が聞いた後の返事の遅さが気になって仕方なかった。




 翌日は、ハワイへ来る前に作ったグループごとに自主研修をすることになっていた。予め作っておいたスケジュールに沿って、帰国した後に作るレポートのために資料集めをしなければならなかった。僕がいたグループはやる気のない人達が班長になったために、大変な苦労を強いられた。


 やる気のない班長が目的地までの道のりを調べているわけもなく、必要な道具を調べているわけもなく、忘れ物をしないわけもなく、とにかく大変だった。


 そんなやる気のない人達だとわかっていながら、何ら対策を立てなかった僕にも責任の一端はあるので、あまり文句は言えないが、最初から最後まであまりにもまとまりのないものになった。




 目的地についても入園料を払いたくないなどの理由のために、ほとんどの施設に入らなかったため、かなりの時間があまった。


 そのため、集合場所である免税店で時間を潰すことになり、グループ内で別々に行動することになった。


 僕はお土産で買おうと思っていたマカダミアナッツチョコレートの下見をしておこうと考え、一階のフロアを歩き回っていた。すると、由美の姿が見えた。


 やはり今日も一人でいた。


 由美は明るい性格でいつも隣には誰かいて、人一倍大きな声で笑い、いつも周囲を元気にしてくれるような人物だった。だから僕は驚いた。


 今まで、一人でいる所なんてほとんど見たことがなかったのに、二日連続で、しかも、修学旅行中に一人で歩いているのだ。その表情にはやはり悲しみが感じられた。


 由美を見た瞬間マカダミアナッツチョコレートのことは頭から消えていた。


 そして、気付くと僕は友達の輪から外れ、由美に話しかけていた。


「何か探してるの??」


「ううん。早く着いちゃったからだらだら歩いてるだけ。」


とぼぅーとしながら由美は答えた。


「同じグループの人達とは一緒じゃないの??」


「ちょっと一人で考えたいことがあってさ。」とうつむき加減で由美は答えた。


「じゃあ俺邪魔だよね。ごめんよ。」


「邪魔じゃないよ・・・でも今はごめんね。」と言ってどこかへ歩いていってしまった。


 いけないことを聞いてしまった気がして、由美に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。何で聞いてしまったのだろう、今まで全然話したことなんてない僕にこんなこと言われたって困るだろうなと思った。


 その後、友達と話していても、いろいろなお菓子やキーホルダーを見ていても、由美のことが頭から離れることはなかった。


 心配で仕方なかった。


その日、夕食の席に由美の姿はなかった。クラスの情報なら何でも知っている武田にこのことを聞いてみた。


すると、どうやら由美は、腹痛のため部屋で休んでいるとのことだった。もしかしたら、昨日からのあの表情は腹痛によるものだったのか?と考えた。しかし、すぐにその考えは破られた。


 武田はニヤリとした顔をした後、小さな声で「でも実は仮病らしいんだ。」と誇らしげな表情をした。


「へ??」


と俺が驚いた声を出すと、彼はさらに付け加えた。


「どうやら、深刻な悩みがあるみたいだぞ。その悩みが何なのかは友達にも言ってないみたいだが『その悩みのことで少し考えたいことがあるから、先生には、私は腹痛ってことにしておいて』って言ったそうだ。


なんなんだろうな~悩みって、何か深刻そうだよなぁ~ハワイに来る前はいつも通り元気だったのにな。悩みなんか一つもありません的な顔で笑ってたよな。


気になる気になる~」


と声を弾ませていた。


 武田に少し苛立ちを覚えたが、尋ねたのは自分からという理由と早く由美の元に行きたいという思いから、芽生えた感情を捨て去った。


 夕食は大きな会場でのバイキング形式だったのと、トイレは、会場の外についてあることなどから、僕が会場から出て行くのを不信がる者は誰一人いなかった。


 武田から聞いた情報を頼りに、僕は由美が泊まっている部屋を探した。行かない方がきっといいのだろうと僕はわかっていたが、心配で仕方がないという気持ちの方が勝ってしまった。


 エレベーターを出て、すぐの部屋だったので、思っていたよりも時間をかけずに発見することができた。


 僕は勇気を振り絞ってドアをノックした。


 するとすぐに、「は~い。」と由美の声が聞こえた。


 その後に少し間が開いたため、のぞき穴から僕の姿を見ているのだろうと想像した。開けたくないのか、しばらくドアは開かなかった。やっぱり迷惑だったのだろうかと考え始めた頃、扉はゆっくりと開き始めた。


 由美の顔を見た瞬間、僕は驚いた。明らかに先ほどまで泣いていたというように目が赤くなっていた。しかし、それを由美は隠しきれていると思っていたのか、平然を装っていた。


「どうしたの??皆ご飯食べている時間でしょ??何かあった??」


「お腹痛いって聞いたからさ。大丈夫かなぁって」


「全然大丈夫、もう良くなってきたからさ。もうそろそろ皆に合流しようかなぁなんて思ってた所だよ。まだ終わってないよね??」


「あぁまだ終わってないけど、本当に大丈夫??」


「大丈夫。ちょっと準備するから先に行ってて。」


といって半開きだったドアを由美は閉めた。


 本人が大丈夫と言っているのだからこれ以上は追求できないと思い、僕は夕食会場に戻ることにした。予想通り、誰にも怪しまれることなく席に戻ることができた。ずいぶん長いトイレだったなぁとか多少突かれはしたが、由美を心配して会いに行ったとは誰一人思ってないようだった。


 しかし、ただ一人、僕を疑う人物がいた。


 武田だ。


 それは無理もないだろう。僕は武田から由美の話を聞いたすぐ後に会場からいなくなったのだから、怪しまれても当然だ。


 しかし、彼はそのことを誰にも言わなかった。彼は、確実な情報しか人には言わないというポリシーがあるらしい。


 夕食が終わった後、武田からいくつか由美に関する質問をされたが僕は上手い言い訳を食事の最中に考えていたので、困ることはなかった。武田も僕が言ったことをすっかり信じ込んだようだった。




 由美のことが心配だった僕は、仲のいい女友達にこのことを相談してみることにした。ハワイでは日本から持ってきた僕の携帯は使えないので、夕食会場を出る際に呼び出しておいた。


 夕食が終わって一時間ほどしてから約束していたので、部屋の友達と雑談をしたのち、買い忘れがあったと言って部屋を出た。


 約束の場所で待っているとすぐに彼女が来た。彼女の名前はさゆりだ。


 「どうしたのさ。いきなりびっくりしちゃったよ。」


とさゆりは満面の笑顔で僕の方を見た。


 「いや対したことじゃないんだけど相談があってさ。」


「彼女のこと??」


「違う。由美のこと。」


「由美のことは諦めたんじゃなかったの??だから今の彼女と付き合ったって言ってたよね??彼女のこと傷つけたら駄目だっていったよね??やっぱり諦められないの??」


「今の彼女のこと好きになろうと努力してたけど、やっぱり由美が好きなんだ。ごめん。  いろいろと相談に乗ってもらって決めたのに、 俺、日本に帰ったら、今の彼女と別れる。


やっぱり、好きな気持ちを我慢しながら付き合う方が彼女に失礼だと思うんだ。」


僕は、今まで答えを出せなかったことが嘘のように、決めかねていた心に決定を下すことができた。


「そうだね。相談っそれだけ??」


 僕はさゆりの冷たい反応に少し戸惑いながらも、話を続けた。


僕は今までの話がなかったかのように、自然な口調で今悩んでいることを話した。


「由美さん、ハワイに来てから少しテンションが低いような気がしない??どう思う??俺は何かあったんじゃないかって思うんだ。」


「気のせいじゃない??」


と冷たい口調で言った。さゆりは由美の親友でいつも一緒にいる友達の一人だった。さらに同じ部屋だということもあって、絶対に何かを知っていると過信していた。


「本当にそう思うか??」


「ちょっとおかしいなぁとは思う。でも気になるほどのことではないわ。」


 この言葉でさゆりは本当に何も知らないのだとわかった。


 少しの間沈黙が続いた後、さゆりは僕と今付き合っている彼女の話の件で説教を始めた。僕はさゆりの言っている通りだと、自分の行為に関して心から反省した。


 さゆりのおかげで、心のどこかにあったわだかまりが少し取れたような気がした。

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