佐藤誠(享年45)
「で、どんな未練があって成仏できないんだ、その男は」
私は望に詳細を聞く。
「うん、何でも奥さんに不倫されて財産も持ち逃げされたんだって」
それは災難だな。
「それで?」
「自暴自棄になって自殺したんだって」
「自殺か…」
「自殺って成仏できないのかな」
自分の体を見返しながら望が言う。
「どうだろうね、そのおっさんはどうしたいって?」
「逃げた妻と不倫相手に復讐したいって」
「はぁ、じゃあダメだ」
「やっぱり」
「前にも自分の母親に復讐したやつがいたよ。そいつは死んでるのに生きている人間を殺した…」
私は忌々しい事件を思い出しながら話す。
「その人はどうなったの?」
「目の前から消えた。この世に天国と地獄があるんなら地獄に落ちたんだろうな。でもそいつは満足した顔をしてたけどな」
「由梨ちゃんは復讐を手伝ったの?」
「まさか。そいつは私に嘘をついてたんだよ。結局そいつに殺された母親も成仏できずに未だに殺害現場にいるしさ」
あれから確認はしてないけどまだあそこにいるのだろう。
「そうなんだ…」
「ああ、だから死んだやつの復讐には関わらない方がいい」
「じゃあ、ダメだね」
「そうだな、ほっとこう」
「そんなあっさりなの」
「そうだよ、見かける人ひとりひとりに声なんかかけてらんないよ、私は」
そんな慈善活動するくらいなら自分の今後を考えたい。
「そうか、じゃあ由梨ちゃんに声をかけてもらった私はラッキーだったんだね」
望が急にそんなことを言うから私はリアクションに困った。
「たまたまだよ」
「たまたまでもいいもん。さてと、じゃあ私その人にごめんなさいしてくる」
「えっ、いいじゃん。ほっとけよ」
「だって一度話を聞いたのにほっといたらそれはそれで何か起きそうじゃない?」
「うーん、それも一理あるような気もするけど…」
「安心して由梨ちゃんは巻き込まないから」
このまま行かせていいのか?
私達、死人同士は触れることができる。もし首を絞められたらどうなるのだろう?
死んでるのに無理やり成仏?させられるのか?
「おい、やっぱりだめだ」
「何で?」
「そいつに恨まれたらどうするんだよ、私たちは生きてる人には触れられないけどよ。ほらこんな風に」
私は軽く望の首に手を掛ける。
「ちょ、ちょっと?」
「首を絞めることだってできる。あんたそいつに殺られる可能性だってあるんだぜ」
「でも、もう死んでるしなぁ、どうなるのかな?」
「私も知らないけど、成仏扱いになるならまだいいけどさ」
「そいつにはここの場所は教えてないんだろ?それならやっぱりほっとこうぜ」
「うーん、なんだか複雑な気分だよ」
「じゃあ散歩でも付き合えよ」
私は望を連れ出した。
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