すべての始まり
伯父が居間の椅子に座りビールを飲み始めた。
机にはビールの空き缶が何本も転がっている。
灰皿にはタバコの吸殻だらけ…
どうやら毎日こんな感じなのだろう。
「汚ない部屋だね、こんなんで仕事は順調なの?」
私は嫌味を言ってみる。
伯父はへっと笑いながら
「自分の心配よりも俺の心配かよ、しかも余計な一言付きで。そういうとこお前の親父にそっくりだな」
私は思わずむっとする。
「まあ、始めたばかりだからな。でも、今1件人探しの依頼を受けているんだぜ」
伯父は得意気に言う。
「人探し?どんな人なの?」
「ああ、子供だよ。5歳のな、あ…お前には関係ないことだよ、機密事項だ。それよりも疲れたんじゃねぇか。風呂にでも入ったらどうだよ」
「…」
伯父と私は無言になった。
「わりい」
伯父は気まずそうに言った。
「いや、いいよ。私、幽霊だからそういうの必要ないみたいだし、匂いもしないだろ?」
私はあっけらかんと言った。
私はここに来るまでに自分の体について色々と思い出していた。
疲労感や生理的なもの、食欲などもなかった。初めはそれを混乱によるものだと思っていた。だが、それは違った。私が幽霊であったからだったのだ。私は1人で納得していた。そして私は道中での違和感を思い出した。
「あ、そういえば、伯父さん。さっきここに来るまでに公園があってさ。5歳くらいの男の子がブランコに1人で座ってたよ。夜も遅いのに1人でいることに違和感はあったんだけど、自分のことでそれどころじゃなくて忘れてたよ」
やっと冷静になってきた私は思い出したように言う。
伯父が座ってた椅子から勢いよく立ち上がった。
「なんだよ、びっくりしたな」
「それだ、でかしたぞ。由梨」
「でかしたって…声がうるせぇよ」
私に少しは気を使えよ。
私は呆れる。
しかし、私はこの時はまだ知らなかった。
ここから私と伯父との不思議な関係が始まっていくことを。
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