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リタが青年をどうしようか悩んでいると、部屋の扉が控えめにノックされ、そしてゆっくりと扉が開いた。三人のメイド服を来た女性が立っており、三人とも頭を下げながら入室した。
「ロデリック様。マーガレットお嬢様のお召替えのお時間になりますので、宜しいでしょうか。」
真ん中の侍女がそう言うと、三人はゆっくり頭を上げた。ぱちりと、リタと目があった侍女は息を呑み、そして、慌ただしく人を呼びにかけて行った。
リタはそこで、自分がマーガレットという名前であることと、青年がロデリックという名前であることを知った。
「あ、あの…そろそろ離れて頂いてもよろしいですか?えー…っと、その、ロデリック…様?」
侍女達が去ったのを見ておずおずと、リタはロデリックに声をかけた。それを聞いたロデリックは顔に絶望を浮かべ、ようやくリタから離れた。よろよろと離れたロデリックは信じられないと言った表情でリタを見ていた。
侍女達が出て行ってすぐ、バタバタと走る音が響き渡り、鳶色の髪をふわりとオールバックにした男性と金色と赤毛の混じった髪を結い上げた女性が部屋に飛び込んできた。
二人はリタに駆け寄ると、迷わずリタを抱きしめた。
「ああ、リタ!良かった…!」
「リタ、君がここに居てくれてこうしているなんて、それだけで私達は嬉しいよ。」
リタは何も言えず、ただされるがままにしていると、再び部屋の扉が開かれた。銀色の腰まである長い髪をゆったりと一つに結んだ男性が静かに入ってきた。
「お嬢様の診察を行います。よろしいですか?」
「ああ、カミーユ様。本当にありがとうございます。」
「ええ。貴方が居なければ娘はどうなっていたか…」
そう言いながらリタを抱きしめていた二人はゆっくりリタから離れた。
「あの…すいません、わたし、一体なぜここにいるのでしょうか?」
リタは遂に口を開き、疑問を口にした。男性と女性は息をのみ、ロデリックは確信した顔に変わっていた。
「リタ、やはり、記憶を無くしていたんだね。」
「そんな!カミーユ様!一体どういうことですの!」
ロデリックの言葉に女性が銀髪の男、カミーユへ問いただす。カミーユは困ったような顔でリタに近づき、安心させるかのように微笑んだ。
「お嬢様、まずはお嬢様が覚えているとこを教えて下さい。」
「あの…その、リタ、という名前だけ。」
部屋の空気がピシリと固まったのを嫌でも感じた。しかし、カミーユだけは微笑み、リタは少しだけ安心した。