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ふ、と気がついた時、リタはふかふかのベッドの上で横たわって居た。
リタは起き上がり、きょろきょろと周りを見渡した。
見覚えがあるようで、ない。
見覚えがないようで、ある。
寝ぼけていたのか、ぼーっとしていた視界も次第にクリアになる。
リタは大きなベッドを四つん這いになってゆっくりと端まで移動した。
床を見れば、ふかふかの絨毯が敷き詰められていた。
おそるおそる足をおろし、リタは立った。
いや、立とうとした。
立とうとしたその瞬間、がくん、と膝から崩れ落ち、リタは床に倒れてしまった。
そこでようやくリタは恐怖を感じはじめた。
何も思い出せない。
ここはどこなのか。
自分がなぜここにいるのか。
自分の名前が"リタ”であるということだけはわかる。
むしろそれだけしか分からない。
崩れ落ちた体勢から再び四つん這いになり、リタはゆっくりと扉へ向かった。
見渡す限り、この部屋に一つだけしかない大きな扉。
細かく模様が施された木彫りの重厚な扉。
立てもしないようでは開けそうにないが、それでも何も分からずその場にいるよりはマシだと思えた。
扉に近づき、リタは再び立ち上がる。
今度は扉を支えにしたためなんとか立ち上がることはできた。
リタは重たい扉に体重を押し付けるようにして、重たい扉を開こうとした。
(本来であれば重たくとも一人で簡単に
開けられるだろう扉は、力の入りきらないリタにとってはそれしか方法が思い浮かばなかった。)
しかし、リタが力を込めようとするより先に、ふわっと扉が軽くなった。
そこで初めて、リタは声にならない声が出た。
「っ…!」
「えっ!」
扉を開けた人物も、まさか人が倒れ込んでくるとは思っていなかった。
部屋の主はベッドに横たわり、決して目を開けることなくただ静かに眠っているだけだったからだ。
しかし、驚いたのも一瞬で、リタが倒れ込んできたのを見て、慌ててサッと抱き上げ横抱きにした。
「リ、リタ…?」
リタは自分を苦もなく抱き上げた人物をようやく視界に捉えた。
自分が何を抱き上げているのかを必死に把握しようとしている人物は、その顔にただ驚きを浮かべていた。