第四話 お茶会イベント 作戦決行!
悪役令嬢イブリンとは仲良くなれるのか……!
ゴーン…ゴーン…ゴーン…
美しい大聖堂の鐘の音と共に、私にとっての戦いの時は幕を開けた。
うちの庭には、人、人、人。
うちの庭は、さすが公爵家!と言いたくなるような、東京ドーム2つ分くらいの広大な物。
普段は、お母様自慢のバラ園や、温室、お父様自慢の、大っきぃ~な湖の周辺に作ったゴルフ場があっても、まだなにもないスペースがあるのだが……
今日はその場所がお茶会の会場となっていて、大量のお茶菓子が置いてあるテーブルのまわりに、ところ狭しと人が並んでいる状態だ。
優雅にお茶会……どころではないが、皆作り物の笑顔で社交性をアピールしている。
大変だなぁ。ご夫人たちは。
私もあんな風になるのかしら。
「皆様!本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!!いきなりではありますが、私、アリア・クリスティから嬉しいご報告がございます!!マリア、おいで!」
あぁぁぁぁ。お母様。本当にするのね……。
私は緊張でカチコチだ。
ただでさえ作戦が上手くいくか緊張気味だったのに、大勢の人の前で紹介されるのだから。
すぅーーはぁ。
大きな深呼吸をして、壇上のお母様の隣に立つ。
大丈夫、ウラノスとアイテールの紹介をするだけだ。私は笑顔で立っていればお母様がどうにかしてくれるはず。
なんてったって、私はたったの4歳なんだ。
いくらしっかりしているといっても、4歳の子供にマイクを渡すことはしないだろう……。
と、思ったのに!!
この状況はなに!?
「皆様こんにちは。私、アリアの長女のマリア・クリスティでございます。昨日、2人の精霊に加護を貰うことができました。名前は………
視線がいたい!!
むりむりむりむり!!
お願いだから、こっちみないでぇ!
ウラノスも、アイテールもなんでそんなに楽しそうなの!?
お母様!ヘルプミー!
……………………………
「というわけですの!私の自慢の娘を今後ともどもよろしくお願い致しますわ!!」
結局、紹介がすべて終わるまで代わってくれなかった……お母様、スパルタ過ぎるよ。
でも、いいこともあった。
1つ目は、イブリンとエドワードのいる位置がわかったこと。
2つ目は、ゲーム開始時に強制発生する、エドワードでのゲームプレイ説明をたぶん回避できたこと。
説明をするだけなのに、エドワードの好感度が5分の1溜まるのだ。
エドワードルートは好感度が上がりやすいため、他ルートを目指す初心者は大体この説明のせいで、ゲーム終盤まで乗り切れない。
特に私は、イブリンと仲良くなるためにも、レオ様と結婚するためにも、エドワードに好かれるわけにはいかない。
今回は、マリアに加護が与えられるという、話と違う事が起こったから発生しなかったのかしら。
それとも、今から?
でも確実に、これまでならもう発生してる。
安心していいのかしら……。
とりあえず、イブリンと仲良くなりたいな……。
レオ様がどうこうというより、実はイブリン自体の性格や、顔も私はお気に入りなのだ。
優しくて、可愛い。
お世話焼きなところも点が高いだろう。
成長すると美しく、上品な令嬢になる。
どうせなら、いがみ合うよりお互いの恋を応援できる友達になりたいな。
いや、ぜっっったいなる。なってやる!
そんな強い意思をもって、イブリンの元へ向かった。
いた!チョコレートケーキを食べている可愛らしいイブリンの姿が見えた!
距離的にはそんなに離れてないけれど……
なんせ、この場にはたくさんのご夫人たちがひしめきあっているのだ。
この状況で1メートル進むのだって、4歳児には一苦労です。
「助けようか?」
色んな人ドレスの裾で揉みくちゃにされて、今にもこけそうな私を見て、アイテールが心底楽しそうにしながら話しかけてきた。
うぅーーー。頼りたくはないけれど……
「……お願い……。」
「りょーかぁーい」
びゅおぉぉぉぉ……突然に強風が吹く。
私の前にいたご夫人たちが風に押されて、私の前に道ができた。
ああ、アイテールの手助けはこれか。ナイス!
猛ダッシュでイブリンのところまで駆け抜けると、イブリンの肩が、ビクッ!とはねた。
そんなにビックリしなくても……とも思ったが、揉みくちゃになったせいで、綺麗にセットされていたはずの私の髪はボサボサになっていた。
これで走ってこられては落武者のようで怖いかもしれない。
「なんですの!?」
「あ、あの!ごめんなさい!驚かせてしまったみたいで……。私、マリア・クリスティと申します。ほら!」
顔に張り付いていた髪の毛をしっかり後ろに戻して耳にかけた。
今の私なら、いつも通りお人形のようで可愛らしい公爵令嬢に見えるだろう。
「まあ。そうでしたのね!こちらこそごめんなさい。イブリン・シュゼットと申しますわ。」
「突然なのですけれど、私、あなたとお友達になりたいのです!……やっぱりこんなに急ではダメかしら……?」
「お友達……?私と……?」
「そうです!あなたと!!」
…………。
沈黙が流れる。
あちゃあ、やらかした、勢いで友達になりたいとか超絶ストレートに言っちゃった。
引かれたかなぁ。引くよね、怖いよね……
「ふはっ!おかしな人!私とお友達になりたいだなんて、今まで言われたことがありませんわ!ふふっ、私の事はイブとお呼びくださいませ」
いけたーーー!?とにかくやったぁ!!
愛称で呼んでいいって!イブだって!可愛い!
「へへ!イブ!私の事は、マリーと呼んでくださいませ!いちご味のカップケーキ、もう食べましたか?」
「いちご味……!まだですわ。」
「では食べに行きましょう!確かあっちです!」
イブは、大のお菓子好きらしい。
なんて可愛いの……!!
いちごのカップケーキを、もきゅもきゅ食べてる!!
「限定50個、今一番人気のパン職人マダム・フローレンスのアップルパイだよー!!」
配達のおじさんの声だ。
わ、イブの顔がキラキラ輝いてる!
「イブ、貰いにいこうか?」
「いいんですの?ならぜひ貰いにいきたいわ!」
私とイブは、はぐれないように仲良く手を繋いでアップルパイを貰う列に並んだ。
「ギリギリだったねー!」
「本当です!私たち運が良かったですわね!」
「ええ!もうないのかー!?」
「す、すみません!!生憎もう今日の分の生産もこれで終わっておりまして……!」
「残念だ。私も食べたかったのだが。」
「すみません!!後日お届けに参りますので……」
マダム・フローレンスのアップルパイは今、確か2年待ちを言い渡されるほどの人気店のはず。公爵家でもそれは変わらない。
だから、食べたかったからと言って、後日届けに来てもらえるはずがない。
そう。普通の人なら。
でも、私はその我が儘が通る人を知っている。
私のドレスの裾をきゅっと引っ張ってイブが呟く。
「マリー、私、あの人に一目惚れをしたようですわ……」
ああ、やはり回避はできないのか。
そこにいたのは紛れもない、王太子エドワードその人だった。
次回、エドワード回です