旅立ち 1
皆の視線を受けた勇者と魔王は、既に覚悟が出来ていたようで
「当然だな」
と魔王が言った。
傍では勇者も静かに頷き
「では、直ぐにでも出発し、奴らの秘密を探るために旅立とう!」
逸る気持ちと共に、彼は剣に手をかけ、魔王に出発を促す。
ところが、そんな二人の気持ちを落ち着かせるように、二人を制止する者がいた。
「待ちなさい。
ただ、今のまま二人が潜入を行っても、あっという間に身元がバレて
命を落とすことになるだろう」
予想ではなく、確信を持った口調がその場にいた者達を驚かせる。
結社最強の双璧であろう二人が命を落とす!?
公共機構とはそれほどの組織なのか!?
ならば、何故我々はここにいるのか?
不安と疑問が混ざり合うなかで、答えを求めるために
皆の視線は言葉の主である賢者へと向けられた。
恐らくそのそうなるだろう、と予測していたのだろう彼が
「皆、勘違いをしないでもらいたい」
と言って再び話し始めた。
それにによれば、はじまりの村と宿敵である公共機構という存在は
同一世界にありながら、実際は全く異なる世界である。
それは自分達結社を構築する仕組みとは構造が違っていて
残念なことに、現状のままではその部分を自分達で改革することは不可能だと言う事。
そこで考えうる唯一の手段が、神の御業によって二人には新たな命の息吹を与え構造壁の突破する。
と、ここまで言い終えた時、天井から何やらパラパラと音が聞こえだした。
どうやら雨が降り出して来たらしい。
次第に雨音は激しくなっていく。
不安を感じたのか、村人が窓から外を見た、瞬間
雨は一段と激しさを増し、その視界を遮る。
その様子を見ていた賢者が
「どうやら現れたようだ」
と言い、彼が呟くのとほぼ同時に入り口の扉を叩く音が聞こえた。
入って来たのは祭服に身を包んだ男だ。
彼が部屋に入ると部屋の者達からどよめきが起きる。
そのはっきりとした顔立ちは、結社に属する誰よりも整っていて
部屋にいた者達の羨望と嫉妬を掻き立てた。
「こ、暗号名を……」
踊り子がかすれる声で聞く。
だが、彼に暗号名は無かった。
かわりに、雨の神殿という二つ名を持つことを許された
レーニーという神父で、今回の潜入捜査における神の加護を与える為に
賢者によって招かれたと穏やかに説明をする。
この説明に納得をしたのか、それとも
彼の美しさに圧倒されたのか?
彼女の答えは
「そう。。。。。。」
という一言だけだった。




