悪魔が惚れた純愛者
『草臥れた絵本 捲るはアゲハ蝶の羽風
曰く出逢いは運命 赤児が愛無く生きれぬように』
…なんて。
はてさて。盲信者の戯言か。
はたまたカミサマの福音か。
水のように溢れ落ちる愛を。哀を。相を。
どうして『呑めた』と云えるのだろう?
親も友も恋人も皆みんな。愛の尊さを説いてくれた。
君が想う人たちが優しく幸せな夢を見れるように、
甘く柔く微笑むように、
蕩けて『好き』と言ノ葉を口にするように、
…するように、なに?彼らは君に何をしろって言った?
反抗しない、裏切らない、泣かない、巫山戯ない、
重い愛を飾って踊るマリオネットになれって?
あァん、最高だね!
造られた桔梗や千日紅を吐きながら、胸の内に小さく咲いていた勿忘草を枯らしていく。
掬いあげても指の間をすり抜ける愛を呑めるはずもなく、花はどんどん死んでいく。
『この世界は、この人生の輪廻は、一冊の書物であり。捲るのはカミサマの遣いであるアゲハ蝶である。曰く、偶然は必然であり、出逢いは宿命であり。赤児が他人の愛情無しに生きることができないように、人が愛に飢えるのは当然である』
けれど誰が愛の形を決めただろう?
カミサマの形でさえ知らないのに。
だから君のその胸の内に燻るソレだって間違ってはいないのさ。
君がその愛の形を抱くのは全て必然だったわけだ。
君は優しい良い子だよ。
君は人を深く愛している。
愛に渇いたと涎を垂らす想い人が哀れでならなくて、だから君は解放してあげようと思った。
渇きを感じなくなるように。
“無で満たされるように。”
殺してあげようと思った。そうだよね?
ああ、泣かないで。
君は何も悪くない。
君は無垢な天使だ。
ほら、見てごらん。
重い月夜に淡い灯。
真白の肌に粧された真紅の口紅。
まるで詩的な絵画のようだ。
こんな素敵な弔いをされて、きっと彼は幸せな夢を見ているに違いない。
愛しい愛しい僕の想い人。
僕は君で、君は僕だ。
君が愛する人なら僕もきっと愛するよ。
さあ、一緒に君が愛する人を救いに行こう。
たとえ世界が君を呪おうとしても僕が護ってあげる。
だから、君は君が愛する人々を優しく殺めればいいさ。
世界は愛に飢えているはずなのだから。