弐 船酔い少女とたった一つの優しさ
「へへっ、つ、着いたね ウップ」
「何年たってもその船酔いに対しての弱さは変わらないのな」
「う、うるさいな ウプ」
そう、そのときうちは酔っていた。
「よくそんなんで自分から宮島行きたいとか思ったな」
「だからうるさいっての あんたこそすぐテスト始まるとかうんとか何とか言ってたくせにすぐokしたじゃん。どうせあれでしょ、女の子と二人で観光名所来れてラッキー的な?」
「うん、さっきも言ったけど後で泣くぞ?」
「全く、赤月さんはガードがかたいですねぇ?えぇ!」
「そういう事は女が言うことじゃねぇよ」
そう、うちはたった20分程度の船乗りで船酔いしてしまうほど酔に弱い。
「トイレ行ってきたら?」
赤月が気にかけてくれるのが心地良い
「赤月はやさしいなぁ」
「そりゃどーも」
そしてうちはおもむろに港近くのトイレに飛び込んだ。
数分後
「いやぁ、スッキリすっきり」
「おつかれ」
「じゃあ観光するぞー!」
「どこ行くのさ」
「ふふふ、まぁそれはお楽しみでだな」
「どうせ揚げもみじの店やろ」
「なっ!貴様さてはエスパーだな!?」
「来るたびにあの店行ってたら大体予想はできる」
うちらは歩き出す
揚げもみじとは、名前の通り広島名物の『もみじ饅頭』をサクッと揚げたものである。これを素人が作るとベチャベチャになって逆にうまくないのだが…店の味はさすがプロと言ったとこだろうか、初めて食べると涙が出るレベルで旨い!
まぁうちがそんなことを妄想してるうちについてしまった。
「今日も大繁盛やな」
「さすが、宮島に二軒しかないからね専門店は」
さて何味にしようか?
うちは考えを巡らす。
「俺は王道のこしあんでいいかな」
赤月は考え終わったようだ
「うちは…」
何にしよう、こしあんは食べ過ぎたからそろそろ別の味が食べたいと思ってる自分がいる。ただ所持金が悲しいうちはなるべく冒険することは避けたい。
「俺の半分やるからなんか別の味にしたら?」
「え?いいん?」
「俺もワンパターンじゃつまらんからな」
「じゃあクリームとこしあん、親父さんお願い」
「あいよ!毎度ありぃ」
ものの数秒でホクホクでいい匂いのする無操作に割り箸に突き刺された物体が渡される。
「せっかくやし海辺で食べよ」
「そだね」
うちの提案に赤月はすんなりokしてくれる。
ただこれが間違いだった。
原因は宮島に生息するある野生動物が原因だった……
「おい!茜!揚げもみじ食われてる!食われてる!」
「え!?」
それまでぼーっとしていたうちは引っ張られているような違和感に気づく。
「あっ!」
そこにいる動物は鹿だった。
「あああああ!おいこらぁ!」
うちは勢い良く引っ張る。
しかし揚げもみじは半分食われていた…
「あぁ……」
当たり前だが野生動物が口をつけたものを食べるのは普通に危険だ
「お金も…ないか…はぁ今回は諦めるか」
うちが一瞬絶望すると隣の男がこういった。
「食えよ」と、一言。
彼は自分の持っていたそこそこするお菓子を目の前の女の子に渡そうとしている。
そしてたった一言
「食えよ」
女の子は驚く。
「え…でもそれ赤月の」
「俺が食うよりほんとにこれが好きな奴が食うべきだろ?だから食えよ、たべたいんだろ?」
女の子は言葉をひとつつぶやく
「ありがとう」と
女の子はそれを受け取り食べる。
そしてもう一言
「やっぱり美味しい」
女の子は彼にお礼をいい船酔いで食べたものを吐き出しそうになりながら家へと帰っていった