奴隷ちゃんの変身シーンの巻。
母の残した紅いドレスは、まったく手直ししなくても私のため仕立てたように、足らない所も余る所もなく、しっかりと身に付ける事が出来ました。
と言っても私は未だ12歳ですから、大人の熟成した女性と違い、女として出るべき所が全く育って居ませんので、あくまで丈と体型さえ似ていれば大丈夫だと、着る前から事前に分かっていました。
ですがご主人様を褒めるためにも、敢えてなにも分かっていないふりをします。
「すごい! このお洋服、私にピッタリの大きさです。ご主人様は私の事をちゃんと見てくれてるんだなって分かって、すっごく嬉しいです」
「ぐふふ、俺はメリーのことをちゃんと見ているからな、もちろん身体のサイズだって把握しているさ」
ええ、よく見ているのは知っています。先程だって私が思い出の詰まった服に着替える所を、ご主人様が鼻の穴を大きくして、鼻息を荒くして、頬を緩ませて見ていたのだって知っていますよ。
よくもまぁこの凹凸のない子供の身体で、そこまで激しく発情出来るなと思いますけれど、そうした倒錯した趣味の持ち主なら、私の復讐には近道になると思いますので、今は笑顔で応えてあげましょう。
「わ~い、とっても嬉しいなぁ、じゃあじゃあご主人様~!このお洋服はご主人様の趣味にあっていますか~?」
先程より下卑た視線を感じますから、きっと大きな問題が無いとは思いますけど、こうしてお馬鹿さんな質問したら媚も売れますし、なにより子供の裸に興奮する獣の趣味を、倒錯的な趣味を持つご主人様の思考を、自身が理解する助けになると思いますから、ここで質問しない手はありません。
「う~ん、確かに似合っているとは思うんだがな、やっぱり長すぎるな、女の子のスカートってさ、やっぱちょっと動くとパンツ見えそうな奴にニーソいいんだが、この世界はかぼちゃパンツだからなぁ……」
ああ……、やっぱり聞いてもよく分かりませんでした。
ですが言葉から推測すると、はしたなく足を出せと言っているのは理解できますし、ご主人様の世界では、きっと女はご主人様ような暴力的な男によって、脚を出す形の下着を強要されているのでしょうね。
それでもニーソと言うのは、多分こちらにはないものだと思いますので、私は自分が考えても解らなかった部分だけを、改めて確認することにします。
「ご主人様は短いスカートが好きなんですね!でも私、にーそ?っていうのは聞いた事ないし、よく分かんないから、どんなものか教えて欲しいのです」
馬鹿な女が好きと聞いたので敢えて馬鹿っぽくなるように、顎に指を当てて小首を傾げながら訊ねてみます。
「ニーソは太もも位の長さの靴下で短いスカートと合わせると絶対領域とパンチラが萌えるし短いスカートと少女とニーソの組み合わせというのはまさに神の想像を超えた最高に美しい組み合わせだ」
ちょっと聞いた途端に目を見開き、大きな声で唾を飛ばして一息で言い切っている辺り、ニーソという衣服が汚物の大好きなものだと理解出来ましたし、形も冬に履くタイツを短くしたような物なのだと思います。
それなら工夫をすれば何とか作る事も出来そうなので、今度どこかで作っておくべきだなと、私は女児に興奮する獣の好物であると、記憶の片隅に刻んでおきます。
「わ~、さすがご主人様ですね、何でも知ってて凄いです! でもでもぉ、私じゃニーソって見たことないですから、今度は街で探してみませんか?ここに無くても街の職人さんなら知ってるかもしれませんよ~?」
「そうだな、ここの衣装はどれもこれも丈が長くて微妙だし、俺のメリーをもっと可愛くしてやりたいし、明日探しに行こうか」
「はい! メリーも可愛くなれるって、明日を楽しみにしていますね~」
私がここで変に焦りを見せれば、妙に目敏いご主人様はきっと訝しむと思い、あえて喜んだふりをしましたが、母が教えてくれた内容を考えれば、明日はきっと痛くてろくに動けないでしょうから、少しまずいかもしれません。
今晩起こるであろう激痛の事を考えていると、目の前のたるんだお腹から、くぐもった獣の唸り声のような音が聞こえてきます。
「あ~、そういや昼飯くってねーな、ここ貴族の家だし、飯くらいなんかあるだろから、飯にしようぜ?メリーは飯作れるか?」
私は貴族の娘ですので、下々の仕事を奪わぬように躾けられ、厨房に入る事すら窘められていましたから全く料理はできません、この世界の奴隷だって、料理専門という者は僅かしかいませんから、ここは上手くごまかすしかないでしょう。
「えっと、私はお掃除の労働奴隷だったので、実はお料理は全くできないんです。ですから屋敷にいる料理の出来る方か、専門の奴隷を探すのが早いんだけど、でもご主人様が私のご飯を食べたいって言うなら頑張って作ります!」
こういってしまえば、料理ができない理由にもなりますし、出された料理が口に合わなくても、料理が出来る人間は希少だと伝えれば、料理人を助けることが出来るかもしれませんから、ここで伝えておくのがいいと思います。
「あ~、知識の独占でショクギョウセンタクノジユーを奪ってるんだな、さすが帝国汚い、汚すぎるわ、やっぱ帝国は滅ぼさないかんな」
ですが帰ってきた言葉は、何故か帝国を批判する内容で、何故料理の事なのに帝国が汚いという発言になるのか理解が出来ません。
普通に考えれば調理法と言うのは料理人の財産だし、国が個人の財産である知識を奪う方がよっぽど残酷だとは思いますが、目の前の獣が住んでいた世界を今までの行動から察するに、恐らく弱肉強食の恐ろしい物なのでしょう。
だとすれば私達の当たり前など一切通用しないでしょうし、こんな者達が集まる国なのですから、弱い者は知識や誇りすらも奪われて殺されるのかもしれませんし、もしもの時は体を張ってでも料理人を守らねばいけないでしょう。
今はこのご主人様が言うドレーの身分でも、本当の私は誇り高い帝国貴族の娘です。
ならば民の命を守る義務がありますから、己の生命を惜しんで恐怖に負けてはいけないし、そうしなければ義に殉じた家族に申し訳が立ちません。
だから例え何があっても、ご主人様を止めようと心に強く誓います。
「あ、でもでも、料理する人はその知識でご飯を食べていますから、無理に教えろっていうのはやっぱり駄目だと思います~」
「うーむ、まぁ言ってることは分かるけどさ、やっぱ知識が無いと何も出来ないからな、そこはやっぱり知識を独占する奴が悪いし、そういう政治を考える帝国が悪だと思うな」
ああ、やはりこのご主人様に、まともな返事など期待できません。
別に知識が欲しいのであれば師事を仰げばいいだけで、それが無理な職業でも丁稚奉公をすれば少しづつ教えてもらったり、師匠の技を目で見て覚えることは出来ますから、奪うことしか知らない獣に何を言って理解もらえないのだと、私が理解してしまいました。
「あ~ん、やっぱり賢いご主人様のいうことは難しいです~、おバカなメリーの頭じゃ、よくわかんなくなっちゃいましたー」
歩み寄る気の無い人と話すのは苦痛ですから、これ以上気力を削られる前に、私は話を別の方向へ持っていってしまいます。
「あぁん、なんでわっかんねーの……、って、そうだった、ドレーのメリーじゃこういったセージの話は無理だよなぁ~、すまんすまんすっかり忘れてたわ~」
あからさまに見下した笑顔を浮かべたご主人様が、こちらを見ていますが、敢えて気付かない振りをして、お腹が空いたと演技をします。
「ご主人様~、メリーはさっきから沢山頭使いすぎて、もうお腹ペコペコです~、だからお昼にしませんか~?」
「あ~そっかそっか~、んじゃ俺も腹減ったし飯にしようぜ!まずはここに居る料理人を探すか~」
こんなのは酷い嘘で、さっきから少しもお腹が空いてなどいませんでしたが、ご主人様が食事しようと言ったので、そのまま乗ってしまいます。
「わ~い!ごっはん~、ごっはん~うれしいな~♪」
むしろ今まで奴隷商と兄と母、三人を目の前で見殺しにした後なのですから、悲しみと苦しみで胸がいっぱいになってますから、はっきり言えば食べたいとすら思えませんが、そんな気持ちを抑えこみ無理矢理演技をします。
私は目的のために生きなければなりませんし、これからの復讐の事を考えるなら、少しでも身体を大きくしないと、この小さな身体は志半ばに死んでしまうからです。
だからどんな苦しくってもご飯を食べて、毎日健康に気をつけて、早く大きくならないといけませんけど、その理由をご主人様気付かれてはいけませんし、私は馬鹿な奴隷の振りをして、思い出の詰まった私室を後にします。
もう一度部屋の片隅にある籐籠へ、大切な思い出との最後のお別れの視線を送りながら……。