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おバカで可愛い奴隷ちゃんの巻。

 誰もいない寒々しい屋敷、その廊下を私とご主人様(ゴミクズ)の足音だけが響いて消え、私の冷えきった心を益々凍えさせてゆきます。


 誰か知っている人に会いたいという気持ちと、会ってしまえば泣き崩れてしまうという確信が私の心を振り子のように揺さぶっているのを感じますから、誰も居ない状況はきっと良い事だと思います。


 今朝屋敷を出て行く前に、僅かに残っていた家のものが顔を出さないのは、きっと離れに隠れて様子をうかがって居るのでしょうから、あと少し私の心が絶望を受け入れるまで、隠れていて欲しいなどと、ぼんやりと考えてしまいます。


「う~ん、やっぱロリ用のメイド服ないのか~。メリーの銀髪ロリメイド服姿を見たかったんだがなぁ……」


 ご主人様(ゴミクズ)が気にしているロリという言葉と、メイド服という衣装はよくわからないですけれど、私の部屋には普段着が、生前の母が仕立ててくれた服があったので、そのまま気にせずに着替えてしまいます。


「えっと、私これがいいなって思うんですけど、どうですか?」


「えー、なんつーかスゲー地味、んで、銀髪ロリに緑ってセンスねーと思うわ……」


 命が芽生える春の色、母とお揃いで作った若草色のシンプルなワンピースを見せると、あからさまに不満を露わにするご主人様(ゴミクズ)。どうやらお気に召さなかったようなので、私は少しだけ安心感を覚えてしまいます。


 もしもご主人様(ゴミクズ)に気に入られてしまったら、私と母の思い出すらも汚される気がしますから、彼の好みで無かった事はせめてもの慰みでしょう。


 ですが私はこの醜い小太りの人もどきのドレーです、その好みに会う服を着なければなりませんから、再び困ったように媚びてご主人様(ゴミクズ)の好みを訪ねます。


「え~……、じゃあじゃあ! ご主人様はどんなのが好きですか? メリーはご主人様の奴隷ですから、ご主人様の好みに合わせたいんですけど、やっぱり奴隷なので、どのお洋服がいいのかよくわからないのです……」


 自分は無知な奴隷であると知らせると、ご主人様(ゴミクズ)は妙に得意気になって、しょうがない奴だとばかりに弛んだ頬を歪ませませ、それがかっこいいと思っているのか胸のあたりで右手を左手抱えるように腕を組み、右手で顔を半分隠しながらこちらに言葉を返してきます。


「そうだよだなぁ~、メリーはドレーだもんな、ドレーはまともなキョーイク受けてないし、なんも知らんでもしょうがねーわ。センスがね~とか言ってごめんな、俺が選んでやるよ、ちょっと他に服がないか探してくるから待ってろよ」


 悪意の詰まった肉塊が自信ありげにそう言ってから、衣装部屋を探しに廊下に飛び出して行きましたから、私は次の服を着るために思い出の詰まった服を脱いで、一度だけ静かに抱きしめてからお別れをしました。


 私は大好きだったこの子を、もう二度と着る事はできません。だからせめて見えない所に、あの脂ぎった手の届かない場所に、大切に仕舞っておこうと思います。


「今までありがとう、私ねあなたのこと、本当に大好きだったわ……」


 今までずっと私を包んでくれた若草色に、最後のお別れを告げてから、部屋の隅にある籐カゴの衣装箱の奥にそっと隠してしまいます。


 これならきっと開けられたとしても、地味な普段着しか無いので、あの人でなしが開いたとしても、中身は地味な普段着であると思い、興味を持たないと思います。


「メリー!いいのがあったぞ!って、そんなところでなにしてんの?」


 お別れが終わったギリギリの所でご主人様(ゴミクズ)が帰ってきて、私は少しだけびっくりしてしまいました。


「えっと、あの……」


 悪いことをしていた訳ではないですが、この暴力の権化に先程の事がバレていないかと、私は少しだけ焦ります。


「ん~、どうしたんだ?なんか態度が変だぞ?」


 まずいです、なんでご主人様(ゴミクズ)は妙な所に気が回るのかと、私は舌打ちをする人の気持ちがよく理解できてしまいました。


 ですが、私がここで舌打ちなど出来るはずもありませんから、必死になって言い訳を考えてゆきます。


「えっと、他になにかないかなって探してたんですけど、良いのが無かったので、もしかしたらまた打たれるのかなって、怖くなって……」


 私達の世界、この帝国に国の大切な資産であり労働力である奴隷に対し、その程度の事で鞭を打つ主人などいませんが、この醜い男の中では、奴隷は主人の気分でムチで打たれたり、暴力によって支配される者という考えがあるので、敢えてこう言えばいいと気が付きます。


「ああ、やっぱりメリーはひどい目にあっていたんだな、やっぱりドレーショーをぶっ殺して正解だったな!安心していいぞ、俺はムカつくことを言う奴と、自分に敵対する奴は殺すけど、自分の言うことを聞く奴は大事にするからな!」


 要するにご主人様(ゴミクズ)が気にならない奴は殺すという発言で、どうやって安心すればいいのか全く分かりませんが、それでも私は安心したフリをせねばなりません。


 会話が出来ても言葉が通じず、心が異常に狭い災害に少しでも不満を言えば、すぐに腹を立てるでしょう、少しでも不満な態度を見せれば、言う事を聞かないと考えるでしょう、わずかでも気に入らない反論をすれば、簡単に敵対者になるのですから。


「よかったぁ、やっぱりご主人様は優しいから大好きです―」


 私は心とは裏腹な言葉を言いながら、媚びた笑顔でご主人様(ゴミクズ)のたるみきった3段腹に飛び込みます。


 あれだけ沢山嗅いだ成果なのでしょう、私の鼻は布に染み込んだ獣臭に慣れて馬鹿になったようで、最初の頃のような苦痛は感じなくなってきました。


 これでたった一つだけですが、今晩の夜に訪れるであろう苦痛を減らす事ができました。


「ぐふふふ、もっと褒めてもええんやぞ、俺は世界一優しい男だからな!」


 この程度で世界一優しいなどと言うのなら、ご主人様(ゴミクズ)が生まれた世界はとても恐ろしい世界なのでしょう。これ以上の恐ろしい存在が、文字通り世界中を埋め尽くしているのでしょうから……。


 恐ろしい異世界の事を考えたせいか、私の身体は震えを覚え小刻みに動いていしまいます。


 これは大変な失態です、益々不審な態度を取ってしまった自分の詰めの甘さに焦りが湧きますが、これなら何とかごまかせるとばかりに、私は何かを言われる前に早口でこう言います。


「ご主人様が服を持ってきてくれるって、喜んで裸で待ってたら寒くなったので、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいので、ご主人様の体温で温めてくれませんか?」


 私は震えを何とか止めようとしながら、恐怖で歯の根が合わなくなった口を必死に動かして、この震えは寒さのせいだと訴えます。


「ぶふ、なんだメリーは本当におバカさんだなぁ、寒いならあの地味でダサい服でも着たまま待ってればよかったのに」


 私の大切な思い出と私自身を馬鹿にするご主人様(ゴミクズ)は上機嫌なので、私は賭けに勝ったと笑顔でこう言います。


「はい、メリーはおバカさんなので、ご主人様のいうことが解らなくって、時々変な事を言っちゃうかもしれません。だけど、おバカだからしょうが無いって、優しく許してくれると嬉しいです」


「うんうん、メリーはそのままでいいし、女の子は馬鹿な位が可愛いからな、俺はそんなメリーが大好きだよ。だから今は十分暖かくなったら着替えるといいさ」


 きっと私自身を好きなのではなく、従順で与し易い女が好きという意味であると思いますが、こうして反論に疑念を抱かせぬ言葉を告げたので、例え私が少し反論を言ったとしても、相手が馬鹿だから解らなかったと納得してくれる事でしょう。


 こうしていれば私は殺されず、その狂った考えを誘導できる様になると思いますので、ここで早めに手を打てたのは幸運ですし、本当に今の季節が冬で良かったと、この偶然を与えてくれた神様に少しだけ感謝しました。


 そして今晩、私に振りかかる試練の痛みに耐えられるよう、私が絶望に泣かぬように神様へと祈りを捧げます。


 しばらくして恐怖に打ち勝った私がご主人様(ゴミクズ)から渡されたのは、随分と古い型の社交会用のドレスで、恐らく母が幼い頃に着ていた物だと思います。


 我が家は質素倹約を心がけていたので、母は暇を見つけては自分の若い頃のドレスを解いて、今風の型に仕立て直して私用に使っていましたから、目の前にある紅いドレスは母が手を付ける前の物だと思います。


「やっぱさ、銀髪ロリには黒と赤の派手な奴が似合うからな、だから、これを持ってきたんだ!どうだ可愛いだろ?」


「はい、とっても可愛いです、早速着替えますね!」


 今の私と同じ年頃の母は、背格好や顔立ちが似ていると、生前父は良く言っていましたから、多分手直しをしていなままでも着ることが出来ると思います。


 そして何より、母が袖を通した服に包まれるのなら、今晩の恐ろしい獣欲の宴にも、きっと耐えきる事が出来ると思います。


 こうして私は母の為に作られた衣装に身を包み、殿方としての魅力を一切感じることな出来無いご主人様(ゴミクズ)に、出会ったその日に純潔を奪われる覚悟を決めたのでした。

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