ご主人様がパパになるんですよ?の巻。
貴族のメアリーが死に、奴隷のメリーが生まれたあの日、初めてご主人様と対峙して純潔を失ったあの日以降、私はご主人様の獣欲を受け止める穴として、来る日も来る日も陵辱を受け続けています。
生前のお母様に聞いた教えでは、この行為は数を熟す内に徐々に慣れ、身体の痛みも無くなると聞いていましたが、借り物の力を振るう暴君の蹂躙に、終わりのない苦痛に私の身体が慣れる事はありませんでした。
ですが、お母様が嘘を語ったなどとは思いません。お母様の教えて下さったことは、きっと憎からず思っている相手との行為であり、私が行っている行為は復讐のために必要な行為。
私はご主人様の存在を拒んでいるし、その有り様を否定しています。
この行為は男女の愛を確かめたり、子を成すための行為ではないのですからご主人様の蹂躙に慣れてはいけないし、慣れる気もないのだと自身に言い聞かせ、あれから三月の間、ひたすら閨の薄闇の中で苦痛に溺れ、それでもご主人様の喜ぶ様に声を上げ、媚びた演技を続ける日々を繰り返しています。
「いいぞメリー、最高だ!」
今日も暗い閨の中、息を荒げる煩い汚物に媚を売り、その重たい身体に潰されるようにシーツに押し付けられながら、体内を蹂躙される。
ええ、全ては計画通りに事が進んでいます。
だからこれでいい……。だから……、もっと私に夢中になって、胎に精を注がせればいい……。
汚物に圧し潰され、朦朧とした意識の中でそう思った時、ご主人様の獣欲の終わりが近かったのか、一際激しく責め立てるように腰を叩きつけられ、私の身体は限界を超えます。
幾度と無く迎えたか解らない既に慣れてしまった感覚、意識を失う感覚がやって来て、私は泥のように重く粘質な眠りの沼へといつも通り引きずり込まれ、私は夜と朝の出会う僅かな狭間、夢すら見ない深い眠りに身を委ねます。
こうして沈んだ体を休める僅かな眠り、その終わりを告げる使者がカーテンの隙間からやって来るまで眠り、柔らかな朝日に瞼を擽られて、重い瞼を開いて辺りを見回すと、私の横には醜い肉塊が居て、煩いイビキを部屋中に響かせています。
「……ンゴゴゴ~、ンゴゴゴ~」
そんな凡そ爽やかな朝とは程遠い目覚めですが、私は安堵の息を吐き出します。どうやら今日も無事に悪夢の様な夜を超え、朝の光がやってきたのだと思うのです。
ですがいつも起き抜けは指の一つも動かす気力が湧きませんから、仕方ないので今日も煩いイビキを聞きながら身体を休めていると、私の愛する従者がやって来て、入室のために扉を叩いた音が室内に響きます。
「お早うございます旦那様、朝食の用意が出来ました」
アリサの女性としては少し低い落ち着いた声が部屋に飛び込んでくると、汚物を吐き出すような煩いイビキが止まり、朝食の時間だと理解したのでしょう、もぞもぞと動き出します。
「ん~……、わかった……、入っていいぞ」
「失礼します……、今日も随分と頑張られたご様子、これならお世継ぎも安泰という所でしょう」
獣の汗と性臭の混じった悪臭の中で、アリサは顔色一つ変えること無く、当り障りのない言葉を投げかけます。
「ぐふふっ……、俺はやればできる男、そしてチートのおかげで弾数無限だ。その上ロリビッチといちゃらぶはらませっくすだから、直ぐに出来ると思うぞ、ぐふふ……」
相変わらず良く分からない汚物の言葉を聞いて、アリサの呼吸が少しだけ乱れますが、それでも平静を装った声で、毎朝の繰り返している勤めの言葉を紡いでゆきます。
「大変に結構な事だと思います……。では、いつも通りお着替えは脱衣所に、朝食は食堂で鈴を鳴らしてくだされば、係りの者が持ってまいります……」
「あいあい、毎朝の事だからいわれんでも解ってるって、んじゃ、今日もメリーの事頼んだぜ?」
「はい、承知いたしました」
ご主人様のまるでゴミの片づけを頼むような言葉に対し、アリサは深々と頭を下げて送り出してから、廊下に置いてあった湯桶を持って、飽きた玩具のように投げ捨てられている私を、今朝も迎えに来てくれました。
「おはようアリサ、やっと朝が来たわ……」
「えぇ……、お早うございますお嬢様……。ですが、本当に大丈夫、なのですか?」
初めて犯されたあの日、アリサに策の事を話しましたから、今の状況が私達にとって良い状況だと、彼女も理性ではわかっていると思います。
ですが昨日のご主人様は、何を思ったのかいつも以上激しく私を攻め抜いたので、室内はいつも以上に酷い状態なっています。
きっと心優しい私の従者は、この部屋の惨状を見て感情を我慢できなくなったのでしょう。彼女を安心させるため、私は重い体をよじって起こし、なんとか彼女の方へ視線を向けます。
「大丈夫、私はまだ大丈夫だから、そんな顔しないでアリサ……」
そんな彼女に心配させているのを理解していますが、それでも語らなければならない事を口にします。
「それにね、私の身体は未熟だから確証はないけれど、ここ二月ほど月のモノが来てないの」
私にこびり付いた陵辱の残滓を拭き取るため、側によってきたアリサの頬に手を当てて、私は自身の建てた計画の第一段階が、目の前に来たかもしれないと告げます。
「まさか……、本当にあの汚物の種を宿したと……?」
「きっとそういう事だと思うけど、ただ来てないだけかもしれないわ。だから一度調べてみましょ?」
私がアリサに告げた言葉は、彼女の表情を複雑に歪ませてしまいます。私があの汚物の種で子を宿し事実は、きっと彼女にとって耐え難い苦痛だと思います。
そんな私の優しい従者の心が少しでも傷まぬ様、私は彼女をそっと抱きしめて、悪女らしく耳元で囁きます。
「私の腹に宿った子はね、きっと世界を救う勇者になるの……。だからお願い、私の生む子がまっすぐに育って、いつかあの醜い悪夢を討ち滅ぼすよう、アリサと一緒に育てたいの……」
「お嬢様から最初に計画を聞いたあの日から覚悟をしていましたが……、私は汚物がお嬢様を玩具のように扱うのが悔しいし、お嬢様がその種で子を宿す事が悔しいのです……」
アリサはそれだけ言うと大粒の涙をこぼし、その雫は私が身体に巻きつけたシーツへと消えてゆきます。
「ごめんねアリサ……、でも異界から来た魔王を打ち倒した勇者は、魔王に侵された村娘の子供だったわ。だから私達が世界を救う為に残された方法はね、これしかないの……」
「ですがっ!ですが……、ならば誰が……、誰がお嬢様を救ってくれるのですっ!どうしてお嬢様がっ、お嬢様がそんな目に合わなければならないのですか!私はそれが分からないのです!」
ああ……、本当にアリサは優しくて、素晴らしい従者です。
私はその言葉だけで、彼女がそう思ってくれるだけで救われているのに、彼女はきっと私の全てを救いたいと願ってくれているのでしょう。
だけど私は世界のために、貴女の思いを踏みにじって、この身体を復讐の道具にしている悪女だから、アリサにはここで私のことは諦めてもらいましょう。
「貴方という従者がいれば、私は最後まで帝国貴族の誇りを胸に生きられる。貴族の娘としてこれほど幸せな事はないわ……、だから私は貴方と出会えて幸せなの、本当に心からそう思ってるのよ」
「お嬢様は……、ずるいです。そう言われてしまったら、私はもう何も言えません……」
「私は世界のために魔王を騙し、自分の子供を武器にする悪女。そう貴女に言ったはずよ、もう忘れてしまったの?」
そんな風に冗談めかして私が言うと、アリサは頭を上げ、我が家のお仕着せの袖で少し乱暴に涙を拭いてから、酷く不器用な笑顔を浮かべて口を開きます。
「すいません、お嬢様。私はそんな悪女に仕える召使いであると、それが己の望みだと忘れそうになっていました。これからは二度とこのような我儘など口に致しません、どうか御許しくださいませ」
アリサの告げた言葉に、私はいつか見た歌劇のような振りをして、少し鷹揚な雰囲気で応えます。
「私の愛しい従者、私は貴方の罪を許します。だからどうか私の罪深さに呆れずに、最後の日まで、その忠義を私に捧げなさい」
「ええ、悪女のお嬢様。私の全てを貴方様に捧げましょう、それこそが我が人生の喜び、それこそが全てであると、私は今、神に誓いましょう……」
そんな朝日の下で交わされる二人の戯曲を、小鳥たちだけが朝を喜ぶ歓声を上げながら、楽しそうに見ていたのでした。




