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ご主人様と奴隷ちゃんの出会いの巻。

 私の住む世界にとんでもない外敵があらわれました、それは異世界から来た『テンセイシャ』と言われる人外の力を持つ存在です。


 テンセイシャは今まで無かった『マホー』っていう超常の力を使ったり、『スキル』っていう大した経験を積まなくても直ぐに強くなる能力を持っていて、奴らが来たことで超常の化け物達が跋扈するようになり、その化け物たちの住処『ダンジョン』が各地に生まれる様になりました。


 まさにそれだけでも悪夢といえるような状況なのに、テンセイシャは元から住んでいる私達を『ムノーシャ』って呼んで、その中でも気に入った女を『ドレー』として肉欲と我欲のままに扱うのです。


 今の私はそのドレーの一人、何とか領地を奪われまいと支えてくれた民や家臣に応えようとしてテンセイシャの猛攻に耐えようとして、結果としては完全に失敗した貴族家、その末娘が私でした。


 何故、世界は違えど同じ人間で、言葉まで通じるはずの、テンセイシャ達が私達を攻撃したのかは分かりませんが、テンセイシャは帝国の有り様に不満を感じ、強大な力で持って攻撃を始めたと聞いています。


「帝国は大体『ゲーム』じゃ悪だから、こいつらが俺を理解できないムノーなのも帝国のせいだろうし、やっぱりミンシュシュギじゃないのは駄目だから、俺が知識チートで改革して平和な世界を作るしかないな」


 これがの歩く災害の一人が、最初に滅ぼした村で言った言葉だったそうで、平和を破壊しながら平和を作ると宣言した主張、その不可解な言葉を理解できる人はこの世界に居ませんでした。


 私達の世界は確かに多少の問題はあれど、それでも統一帝が世界統一を果たされてから大きな戦乱もなく、ご子息の憲政帝が立派な法を制定し、その後は大賢帝と小賢帝が二代を掛けて基礎を作った事で、まさに百年の天下泰平を謳歌していたのです。


 それを知らないテンセイシャは、恐れ多くも偉大な祖先の努力に異論を唱え、再び大きな戦乱を起こしたのです。


 貴族として、領土をよく治めた我が家の父を敬愛し、私を領地の宝と愛してくれていた民は徹底抗戦を唱え、父や家臣もその意見に賛同して、皆で抵抗の旗を上げてくれました。


 父の元に多くの義勇兵が集まりましたが、やはり田舎の貴族家には十分な装備が無くて、彼らに着せる装備は直ぐに不足します。


 けれど、民は自らの仕事道具や野良着でも構わないと父に告げ、そのまま戦列へと加わってくれました。


 彼ら見せる国を愛する献身的な姿に、私を始め家族は何度も感動て涙を流しましたし、あの不躾な侵略者に勝たねばならないと言い残した父が、先陣を切って戦場に向かう背中を見送りました。


 ですが彼我の戦力は、私達が想像した以上に隔絶していたのです。


 例えるならまさに子供がドラゴンに一人で挑むような無謀な物、私達の抵抗は文字通りの鎧袖一触、そう言うしか無い程に虚しいものだったそうです。


 不条理に立ち向かった3万の人々は、テンセイシャの掌から生み出された業火よって一瞬で灰になったと、陣の後詰をしていた事で難を逃れた末の兄が、涙ながらにそう語ってくれました。


 義憤に立ち上がった義勇兵や父、我が家を支えてくれた家臣の全てが灰になったと聞いた私は、これ以上テンセイシャが私を愛し育んでくれた領地や民を殺さないように、私は私達の帝国の労働奴隷とは違う、ただの愛玩動物であり肉欲の捌け口であるドレーになる事を決心します。


 私の決心を知らぬなら、絶大な暴力に屈し媚を売った、そう勘違いされる方もいるかも知れないでしょうが、力に恐れたからではないのです。


 これは女にしか出来ない方法を行うために、私は自らをドレーに貶める事を決めて、ただ男に媚を売るドレーにしか出来ない方法で、復讐を果たす為に決め、復讐の内容を話した時、兄は自らの無力を呪い涙を流してくれましたから、それだけでも私は少し報われたような気になりました。


 兄を始めとした家族、こんなに無力な私を愛してくれた民、私を育んでくれた全てを守れるなら、この身も心も魂も全てを使ってでも、その全てを守りたい、そう私が決心出来るほどに、兄の流した涙は美しいものでした。


 そうして私は帝国貴族の娘という身分を隠し、ただこの領地一番の美しい奴隷としてご主人様(ゴミクズ)の元にドレーとして売られる工作を始めますが、周りは反対意見が沢山ありました。


 ですが私が理由を丁寧に話して、どうしても此れ位しか上手く行きそうな方法がないと語ると、みな一様に悔しさや情けなさを顔に表しながらも納得してくれて、我が家と関わりのある奴隷商も協力してくれることになりました。


 最後の晩、一緒に寝てくれた母は、望まない家に嫁に出すよりも悲しいと私を抱いてくれましたが、私は皆のために生命と身体を捧げられるのであれば、貴族としてこれ以上の誉れはありませんと、強がって嘘を付きました。


 どうしてこうなったのでしょう、何故私がこうしなければならなったのでしょう、愛しの婚約者を裏切る事だって、今は悲しくて仕方ありません。


 私の強がりを母は理解していたのでしょう、父が戦に行く時と同じように、誇らしく思い寂しくありませんと我慢する嘘を付いた夜と同じように、母は優しく私を抱きしめてくれたので、これから離れてしまう温もりを忘れないように、母以外の誰にも聞こえないように、小さく嗚咽をあげて泣いたのを覚えています。


 そうして一晩母の胸の中で泣いた翌日、私は奴隷商の粗末な馬車に揺られ、テンセイシャの元に売られるドレーになりました。


 もしこれが貴族の婚姻なら、豪奢な馬車に乗り綺麗な衣装に身を包み、沢山の結納の品に囲まれて、これから来るであろう新しい生活で、いかに幸せになるため努力するかを考える時間になった筈でしょう。


 ですが今の私は、家畜用を改造した粗末な馬車に乗り、所々破れて汚れた衣服に身を包み、これからの復讐をどう成功させるかを必死に考える身分です。


 だとすれば、こうして泣きはらした顔はとっても悲惨に見えるし、この見窄らしい格好は保護欲をさそうでしょうから、全てが悪いことばかりでもありません。


 奴隷商は必死で私を悪し様に扱う見事な演技をしてくれて、その熱演にまんまと騙されたテンセイシャは、私を自分の『ハーレム』へと加えてくれましたが、私を確実に売るためにわざと酷い扱いをした奴隷商は殺されてしまいます。


 彼は最初から自らの死を覚悟をしてたのでしょう、テンセイシャに見えない様に、私に向かって唇だけで武運長久を願い、微笑みながら炎の中で死んでいきました。

 

 奴隷商の命をかけた献身に、今は何も応えること出来ない身の上が悲しかったですが、テンセイシャは私を助けたと、さも得意気に興奮して私を抱きしめます。


「君を傷付ける奴はもう居ない、僕が君を幸せにしてあげるよ!」


 耳元に響く妙に裏返った声が気持ち悪いけど、私は満面の作り笑いと媚びた声で小太りのご主人様(ゴミクズ)に媚を売り、彼を抱き返します。


「ああ、ありがとうございますご主人様、私は貴方に出会えて幸せです!」


 これが私が主人様ゴミクズに媚を売る復讐者(ドレー)になった時の最初、絶望の人生の始まりです。


 テンセイシャを私という存在に妄執させ溺れさせる事で、情で絡めとって手綱を取り、肉欲に溺れさせて時間を奪う事で、他に目を向けさせ無いことになりまりますし、私の目的も近くなっていきます。


 だから私は目的を果たすまでは、どんな理不尽な事を言われても彼を褒めなければならないし、その寵愛を一身に受けなければならないのですが、その姿はきっと醜悪でしょうし、傍から見れば命惜しさに媚を売っている馬鹿な女にしか見えないでしょうから、きっと多くの人から蔑まれるかもしれません。


 ですが、テンセイシャの寵愛こそが私の復讐にとって一番の近道となるし、そうしなければ短気で短慮なご主人様(ゴミクズ)は、八つ当たりに妙な理由をでっち上げ、無駄に命を奪い街を破壊するのを少しでも減らす機会になるのです。


 だらこの世界の未来は私の媚に掛かっていると、私は今日も完璧な笑顔と、テンセイシャの喜ぶ鼻にかかった甘ったるい高い声で、今日も小太りのご主人様(ゴミクズ)に媚を売ります。


「さすがですご主人様!」


 不快感で吐きそうだけど、私は負ける訳にはいきません、この世界に残された最後の武器はこれしか無いのですから……。 

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