表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユリとロボット  作者: ニワトリ小僧
3/3

3

設定変更に伴い内容を一部変更しました

 学校は憂鬱の中で過ぎていく。


 ユリはじっとそれを堪え忍んだ。そして、一日の学業が終わるが早いか、喧噪の教室を飛び出した。それから、逃げるように足早に校舎の外を目指す。


 外に踏み出すと空に赤みがかかり始めているのが見えた。その夕暮れを目の当たりにするとなんだかユリは、昔の情景を思い出した。サユリとの楽しかった日々を。

 その情景が今の自身の孤独を強調して、ユリは泣きそうになった。

 それを必至にこらえて校門へ向かう。黒塗りの車は、時間通りにそこに停まっていた。

 ユリは、悲しさを胸一杯にして、その車に乗り込んだ。


 ユリは、一刻も早くロボットに会いたかった。今日は学校でとても嫌なことがあったのだ。だから、早く慰めてもらいたかった。

 一人ぼっちの車内の中、はやる気持ちだけが膨らんでいく。


 ようやく自分の家に到着するとユリは、車から転がるように飛び降りた。扉の前へ急いで駆け寄り、網膜をスキャンする。生体情報を認識し、自動で開いていくドアをユリは、焦れったく待った。そしてドアが開くと、はやる気持ちを抑えきれず、靴も脱がずに玄関を抜け自身の寝室へ向かった。サユリの待つ寝室へ。

 自身の寝室へたどり着くと扉を勢いよく開け放つ。


 サユリの姿をしたロボットは、確かにそこに佇んでいた。窓から零れる弱々しい夕暮れの赤がぼんやりとその白い肌を照らしている。充電中だったのか、うなじにはコードが刺さっていて、機械的な表情を浮かべていた。

 ユリはそんなこと気にせず、ロボットの胸に飛び込んだ。途端、優しい温かさに包まれる。いつでもこの温かみと、包み込むような柔らかさにユリは安心させられるのだ。


 ロボットの胸の中にいるうちにユリは、いつの間にか泣いていた。声を上げて泣いた。学校でとても嫌なことがあったからだ。そして、もういないサユリを感じられるから。

 しばらく泣きじゃくっていると、気分が落ち着いて来た。悲しみは、ほとんど涙として流れ落ちていった。

 それでもユリは強くロボットを抱きしめ、胸に顔を埋めたままでいた。


 「ユリのこと愛しているって言って」


 ユリは、胸に顔を埋めながら、涙を含んだ鼻声でささやいた。

 でも、いつまで立っても言葉は復唱されない。いつもなら返ってくるはずの虚しい愛の言葉が返ってこないのだ。

 不審に思ってユリは顔を上げた。間近に見えたサユリの顔は、無表情であった。


 「どうしたの? サユリ」


 抱きしめていた手をほどき、ロボットの柔らかい頬をなでながら、そう尋ねた。

 するとロボットはゆっくりと口を開く。そして――


 「ひさしぶりだね。ユリ」


 ロボットはそう言ったのだ。

 その言葉にユリは面を食らった。U-Ry型のこのロボットが、あらかじめ組まれた音声反射の言葉以外を自発的に発するなどあり得ない。

 驚いて固まるユリをしっかりと見据えて、ロボットは続ける。


 「――会いたかった」


 サユリの姿で、サユリの声を操って、ロボットは静かに微笑んだ。

音声反射とは、特定の行動をロボットへ行うとロボットが音声で反応すること。


例えば、ロボットに「行ってきます」と言うと「いってらっしゃい」と反射する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ