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設定変更に伴い内容を一部変更しました
カーテンの引かれた薄暗い部屋の中、一つのロボットがたたずんでいた。
すらりとした四肢が付いていて、虚無を見つめるその整った顔は少しの幼さを秘めている。時折、はためくカーテンから溢れる光がその黒髪をきらきらと照らしていた。
このロボットはとても緻密に出来ていた。最近一般化したヒューマノイドU-Ry型の機械的な顔に比べて、はるかに血が通っているように見える。端から見れば人間の女の子と見分けがつかないだろう。
そのロボットを愛しそうに眺めていたユリは、思い立ったようにそっとロボットの腕を撫でた。
柔らかくてハリのあるその白い肌は、ユリが記憶するサユリの肌そのものだった。
ユリは堪らなくなり、そっとロボットを抱き締めた。生体温度に保たれているロボットの表面温度がユリを安心させた。
「サユリも抱き締めて」
ユリは愛しそうに呟いた。
声紋を認識したロボットはユリをそっと抱き締める。その行動に愛情は微塵も含まれていない。ただ主人の命令通りに行動しただけだ。
ユリもそれは理解していたが、それでも満足していた。
だって、彼女が真に求める人は、もうこの世にはいないのだから。
ユリには幼い頃からサユリという想い人がいた。サユリはユリが通っていた保育所の同じクラスで、共に遊んでいくうちに好きになったのだ。無邪気にお互いの将来を誓い合ったものだった。
その恋は中学生になっても色褪せることはなかった。この時代、同性での婚姻も認められており、大きくなったら幼き日の約束を果たしサユリと結婚すると密かに息巻いていた。しかし、その想いは遂げられぬまま、サユリは死んでしまったのだ。
ユリは抱き締めていた手を解くとロボットの顔を見つめた。その顔はサユリが死んだときと同じ14歳のものだ。かつては少し見上げるように見ていたその顔も今では同じくらいの高さにある。
「目を閉じて」
サユリの代用品にユリは小さく囁いた。
ロボットは言われるがままに目を閉じる。目をつぶるロボットの顔は身近で見てもサユリにそっくりだ。
ユリは顔をロボットに近づけていく。そして、そっと唇を重ねた。本物を愛すかのごとく愛しそうにそっと。