第1話 女神との邂逅
「おお、勇敢なる若者よ、汝の尊い犠牲により、あの少女は救われ……犬ぅ?」
そこは何も無い白い空間。
ぽつりと浮かぶ白い光の球と、その前に浮かぶ白いローブをまとった美しい女性。その背中には大きな白い羽根が付いている。
「ワン! ワン! ワン!」
その白い光の球は、雄々しく吠えていた。
(御主人様! 御主人様はどこ⁉ 御主人様)
そして、声とともにその意思が空間を満たす。
美しい女性 ―― ここに人間がいれば女神か天使と呼ばれる存在だと思ったであろう女性を無視して白い光の球 ―― 哀れトラックに轢かれ死んでしまったチョコの魂は、パニックになって吠え続けていた。
「落ち着け! 犬よ! 落ち着け! ……ってなんで、人の魂の選別する場所に犬の魂が来ちゃったの? こんなの、私の管轄外よ!」
本来、田舎道で少女を助け死んでしまった若者の魂に、特別な力を付与して悪魔の勢力が台頭しつつある、とある世界へ勇者として転生させるはずだったのだが……
「もう、五月蠅い! 良いのね? システムが何も言って事は、この魂を送っちゃっていいのね⁉」
耳を塞ぎなら、女神はそう叫ぶと、
「汝! そなたはこれより、そなた達から見て異世界と呼ばれる……あー、もう犬だから解らないわよね! とりあえず力を上げるから、さっさと行って頂戴!」
と、ヤケを起こしたのか、その両手でチョコの魂を包み込むと何やら赤や青、緑に黄色といったいくつもの光を送る込み、そして上へと放り投げた。
「ワン! ワン! ワン!」
チョコの魂は投げられた勢いのまま上空へ昇ると、やがてグングンと速度を上げどこかへ消えていった。
「……ふぅ……やっと静かになった……って、はい? はい⁉」
額から汗を拭った女神は、何かに反応し、ローブの胸元からスマートフォンのような物を持ち出して耳に当てた。
「えー、もう送っちゃいましたよ。だいたい、そちらの手違いじゃないんですか……え? そうですよ。予定通り、力も与えました! って、そんなに怒鳴らないでくださいよ。私、悪くないですよね……えぇ……そんな事を言っても、そんなのそちらで責任を……はぁ……えぇ、面倒……いえ、違います。こちらも忙しいですしぃ……」
どうやら、チョコの魂の扱いで、どこかと揉めてしまったらしい。
だが、すでにチョコの魂は旅立ってしまった。
―― 異世界へ。