[2.4]和装の種類:その肆【女性バリエーション:準/略礼装編】
----------【補遺(前書き)】----------
【第一礼装(正礼装)】【第二礼装(準礼装)】【第三礼装(略礼装)】の区分は、『国際儀礼』における「服装規定」に準じた区分です。
なお正式なプロトコールでは、民族衣装の第一礼装の多くは『最高位の「ホワイトタイ」よりやや下、「ブラックタイ」相当』とされます。
(※日本における「勲章親授式」(文化勲章などの授与式)では『男子にあっては紋付羽織袴もしくはフロックコートもしくはモーニングコート』『女子にあっては白襟紋付もしくはロープモンタント』と決められています。女子の「白襟紋付」は「比翼付き色留袖」のことです。実は宮中では「黒留袖」は着用不可です。余談。)
正式には、正礼装が「フォーマル」、準礼装が「セミフォーマル」です。
分かりやすい例としては、結婚式の主役(新郎新婦)は「正礼装」、披露宴への招待客は「準礼装」に相当します。第三礼装(略礼装)は『平服でお越し下さい』というシーンだと思って下さい。結婚式の例なら、ガーデンウェディングやレストランウェディングへの参列が近いでしょう。いずれにせよ【礼装】は、『正式な招待状でもって、招く/招かれる』場における衣装です。参考にして下さい。
女性和装のバリエーションは、よく言えば豊富、悪く言えば細かく分かれすぎているので、説明事項がどうしても多くなります。もう少しお付き合い下さい。
ということで「礼装(フォーマルウェア)」の復習です。
礼装は【黒留袖】か【色留袖】か【振袖】です。「振袖」は未婚女性の第一礼装、「黒留袖」は既婚女性の第一礼装、「色留袖」は既婚未婚を問わない礼装です。留袖は原則「紋付き」です。
留袖(黒・色いずれも)は上半身部分に模様がありません。帯下の部分だけです。振袖は長着全体に華やかな模様が入ります。いずれの場合も『絵羽付け』という一幅の絵画のような染め模様です。
結婚式などの式(セレモニー)や華やかで正式なハレ舞台での和装です。帯は織りの袋帯。ある意味、派手に華やかにいきましょう。
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ということで、続いて【準礼装】【略礼装】です。『準礼装』は「フォーマルとセミフォーマルの中間」、『略礼装』は「セミフォーマル」です。こちらも原則として『染めの着物』です。
洋装において『(スカート丈が短くてもよい)フォーマルドレス』や『(上下に分かれた)フォーマルスーツ』相当の扱いです。
(う)【訪問着】(ほうもんぎ)
:女性の「第二礼装(準礼装)」です。一般的に「着物」といった時に想像される長着です。ある意味、定番であり基本の長着です。
「準礼装」として用いるならば、正式には『紋付き』にする必要があります。多くは「三つ紋」(背中側に三カ所)か「一つ紋」(背中の衿足真ん中に一カ所)です。『紋なし』(家紋を入れていない)訪問着は本来『略礼装』(第三礼装)扱いです。しかしそこまで気にする必要はありません。
形は「留袖」と同じですが、模様の入る位置が違います。「訪問着」は通常、下半身部分(帯より下)と、前身頃の一部(肩から胸元あたり)と袖の一部に模様が入ります。前身頃や袖に模様がないものもありますが、多くは下半身部分から模様全体が絵画的につながる『絵羽付け』と呼ばれる描き方をします。これが訪問着の特徴です。
現代社会で一番登場する「着物の種類」ですが、登場したのは明治以降です。既婚未婚を問わず、セミフォーマル以下のシチュエーションならばどんなシーンでも適応可能です。
招待客として出席する結婚式、見合いや結納といった慶賀シーン、入学式や会社の創立記念パーティーなどの“改まったハレの日”のシーン、歌舞伎鑑賞やお茶席などといった“ちょっと頑張った感のあるお出かけ”のシーン、などが考えられます。とりあえず『少し改まった場で作中キャラに着せる』なら、訪問着が無難でしょう。
(え)【付下げ】(つけさげ) ※「付け下げ」「附下」とも表現されます。
:女性の「第三礼装(略礼装)」です。「訪問着」より少しフォーマル度を下げたセミフォーマル衣装です。和装に慣れた人ほど、よく着用します。
形や模様がある場所(下半身および一部の上半身と袖)は訪問着などと同じですが、「訪問着」との違いは【模様(柄)の付き方】です。訪問着は「絵羽模様」で全体の模様が一幅の絵画のようにつながっていますが、【付下げ】は基本的に【つながっていない独立した模様が、複数描かれている】模様の付き方です。“柄が飛び飛びになっている”状態です。訪問着に比べると『柄がうるさくなく、落ち着いた雰囲気』になります。
その雰囲気を活かして『ちょっと控えめにしたいハレの日』の際に着用するケースが多いです。基本的に着用シーンは「略礼装」としての訪問着と一緒、つまり「紋なし訪問着」がOKなシーンなら問題ありません。逆に『訪問着ではちょっと悪目立ちする……』ような場でも着用が可能なので、便利な長着です。
なお「絵羽付けの着物」(訪問着や留袖など)は、その柄行きを確認する意味もあり【仮絵羽】と呼ぶ『仮縫いして着物の形にしてある状態』で店頭に並びますが、付下げ以下の着物は原則『布生地を巻いてある状態』の【反物】です。“呉服屋さん”のイメージで一般的な「巻物状の着物が、棚に並ぶ状態」でお馴染み。原則、長着は“オーダーメイド”です。『誂(あつら)える』と表現します。
(お)【色無地】(いろむじ)
:女性の「第二礼装(準礼装)」もしくは「第三礼装(略礼装)」です。基本的には「付下げ」とほぼ同格、もしくは少しフォーマル度が下がります。しかしながら一番“使い勝手”がよい長着です。
名称の通り【後染めの模様が一切無い】長着です。白生地を基本的に一色に染め、さまざまな色の雰囲気を楽しみます。
色無地は「紋」によって【格】が変わります。一つ紋や三つ紋を入れれば「紋無しの訪問着・付下げ」より格が高くなり、「準礼装」として紋付き訪問着に次ぐ格式を持ちます。「紋なし」の場合は付下げよりも格は下で「略礼装」もしくは「洒落着」です。
着用シーンは訪問着や付下げとほとんど変わりませんが、色無地の特性は【慶弔問わずに着用できる】ことです。その色さえ相応しいならば、結婚式のようなハレの場でも不祝儀の場でも問題ありません。遺族以外が着用する【色喪服】(黒では無い喪服)は基本的に色無地です。柄がなく落ち着いた雰囲気になることから、茶席(茶道のセレモニー)でもよく着用されます。また無地なので「帯」が大変映えます。帯を目立たせたい時などに、あえて色無地を着ることもあります。
色無地は「色染めされた無地の長着」ですが「模様が全くない」訳ではありません。【地紋】といって、白生地そのものを織り上げる時に“織り文様”を入れるものが多くあります。洋装のジャガード織りです。
色無地に限らず、この元となる「白生地」には様々な製法があります。有名なものは以下のものでしょう。
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【縮緬】 (ちりめん)
:「シボ」という小さな凹凸がある生地です。ざらざらした感触です。
【綸子】 (りんず)
:織る際に経糸を浮かして模様を浮かび上がらせた生地です。滑らかで光沢あるツルッとした感触です。
【羽二重】(はぶたえ)
:非常に細い糸で真っ平らに織り上げた(平織りの)生地です。滑らかで艶があります。礼装(留袖や男性の黒紋付羽織袴など)は、大抵この生地を使います。和菓子ではありません。
【塩瀬】 (しおぜ)
:やや太めの緯糸をしっかり打ち込んだ生地です。滑らかですが少しシャリっとした固い感触で、主に染め帯に使われます。
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……他にもありますが、とりあえずこれだけで十分です。
このうち【綸子】は複雑な文様を描き出すことが出来ます。特にハレの日用の色無地では、華やかさを演出する為に【文様入りの綸子地】が好まれます。これを【紋意匠綸子】と言います。
「紋意匠」には、『紗綾形』(卍形を斜めに崩した形)、『葡萄唐草紋』、『正倉院文様』など、心躍る様々な意匠がありますが、とりあえず省略します。最も一般的なのが紗綾形で、礼装の襦袢などは基本的にこの文様です。時代劇の閨シーンで、殿や奥方が着ている白い夜着が大抵これです。
訪問着・付下げ・色無地は「染めの着物」ですので原則「織りの帯」を合わせます。
作中でキャラに着せるならば、『訪問着』なら【袋帯を二重太鼓に結ぶ】のが無難です。
『付下げ』なら上記に加えて【名古屋帯をお太鼓に結ぶ】か【名古屋帯を洒落結びにする】のが良いでしょう。
『色無地』の場合は、さらに【染めの袋帯や名古屋帯を合わせる】ことが出来ます。ただし「染め帯」と合わせる場合は略礼装ではなく『洒落着』ととらえた方がよいです。
「略礼装」は現代社会において、一番「和装が無理なく登場するシーン」で着用されるものです。現代を舞台にしたドラマなどで着用されるものは、ほとんどがこれです。(また、水商売の方が着用するものは、多くが訪問着や付下げ。オーナーママさんやチーママさん達だと、黒留や色留の場合もあります。)
ある意味、目にする機会も多いので、『あ、なんか素敵!』と思ったものの色柄などを覚えておいて、作中キャラに着せてみるのがいいでしょう。
ただし、色無地以外は【素材・模様の季節が合っているか】(季節を外していないか)【その場の用途に相応しいか】には注意が必要です。この【季節感】については、後日の話で改めて説明します。何せしゃれていますが、煩いので……。