[1.3]着物のキホン:その参【素材・製法】
その壱・その弐で「和装の基本構成パーツ」をご紹介しました。すでに色々あって大変ですが、あまり難しく考えず「基本のカタチ」だけをまずは活用すればよいかと思います。
ということで、まずは復習を。
男性の和装の場合、
【襦袢】(見せ下着扱いの下重ね着)を着て、
→その上に【長着】(着物の本体)を着て、
→【角帯】(女性よりは細めのベルト機能を果たすもの)を締め、
→足元に【足袋】(ソックス)を履かせて、
→【下駄】か【草履】を履かせる。これでOKです。
改まった感じを出したいならば、その上に【羽織】(ジャケット扱い)をはおらせ、長着の上から【袴】(ボトムズ扱い)を着用する。
女性の和装の場合、
【襦袢】(見せ下着扱いの下重ね着)を着て、
→その上に【長着】(着物の本体)を着て、
→【帯】(ベルト機能を果たすもので種類は3つ)を締め、
→足元に【足袋】(ソックス)を履かせて、
→【下駄】か【草履】を履かせる。これでOKです。
寒い時のお出かけに【羽織】(ジャケット扱い)をはおらせ、活動的な時には長着の上から【袴】(ボトムズ扱い)を着用する。
以上です。そんなに難しくありませんよ。
男女の違いは【「帯」の種類をどうするか?】ということと、【「羽織」「袴」が果たす役割】くらいです。
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さて「着物用語」と言った際には、様々な【聞き慣れない、着物の種類を現す用語】が頻出します。これらがネックとなって『難しい・面倒くさい』という話になりがちです。
[加賀友禅の黒留袖]
[辻が花の訪問着]
[紗袷わせの付下げ]
[小石丸の綸子の色無地]
[縮緬の絵羽小紋]
[泥大島の紬]
[久留米絣の単衣]
[綿紅梅の浴衣]
ようこそ、暗号の世界へ!
……というのは冗談ですが、上記に記した物は実際の「着物の種類」として表現されるものです。
…………あぁ~、ブラウザバックしないで下さいっ 大丈夫です。こんなもの、覚える必要は全くありません!
『和装を作品のスパイスにする』程度の話ならば、真面目に覚える必要はありません。これは本当に趣味の世界。よほどこだわりをもった作品を書かれる時以外は、こんな種類分けは不必要です。そもそも作中で表現したとしても、読者の方が分からなければ意味がありませんので、あなた自身が『……なに、この暗号……』と思うならば、基本の用語以外は忘れてもらって大丈夫です。
これら【着物の種類】を現す用語は、主に【素材】の言葉と【製法】の言葉と【用途】の言葉から成り立っています。
例えば先に挙げた[小石丸の綸子の色無地]ならば、「小石丸」が【素材】、「綸子」が【製法】、「色無地」が【用途】です。
(この例の場合、小石丸という蚕で作った絹糸を、綸子という製法で織り上げたものを、色無地という種類の長着に作ったもの、という意味です。)
【用途】だけをさして「着物の種類」と呼ぶこともあります。またこれら【用途】による種類分けは、和装の世界では【格】と呼ばれます。いわゆる「ドレスコード」にあたるものです。
……この「格」が、世の中の和装嫌いを生み出しているのではないかと個人的に感じるくらい、面倒な“取り決め”です。初心者キラーです。
よって、ここでは詳しくは触れません。まずは【素材】と【製法】を基本として、【着物の種類が、どんな風に別れているか】だけを紹介したいと思います。
まず「着物」の【素材】ですが、《絹》(シルク)、《木綿》(コットン)、《麻》(ラミー)が基本形です。現代では、これらの代替品としての《ポリエステル》(化繊)が加わりました。また洋装スーツで用いる物と同じ《ウール》(羊毛)も使われます。
フォーマル度では《絹》の一人勝ちです。《木綿》や《ウール》は日常着でしか使いません。また、《麻》は原則夏用の素材です。
正直、着物の場合【素材】は【用途】に直結しますので、あまり悩む必要はありません。特に《ポリエステル》(ポリの着物、と略称されることが多いです)の場合は、素材で区別されることはありません。
作品描写においては、男女問わず、とりあえず《絹》か《ポリ》素材の長着・帯・襦袢を着せておけば大丈夫です。
というよりは、作中描写で素材に触れる必要はありません。あえて触れるとすれば、『日常着であること』を端的に示すことができる《木綿》くらいでしょうか。『木綿の着物を着ている』と書けば、普段着姿であることになります。
「着物の種類」を示す際に、“違い”を出せるものが【製法】です。
一部【用途】(格)に直結しますが、【着物の布地を、どのような製法で作ったのか?】は重要な要素になります。
とは言っても細かい描写は不要です。
大切なのは【織り】か【染め】か、という部分だけです。
【織り】は、布地の模様をあらかじめ染めた糸を組み合わせて表現する作り方です。編み物のように模様を色糸で作ったり、編み方を変えて模様を浮き上がらせたりするやり方です。
【染め】は、無地無模様の布に後から染色して模様を描き出す作り方です。要は“プリント生地”です。
着物の世界では、「織りで作った布地」を使って作る着物の【用途】(種類)と、「染めで作った布地」を使って作る着物の【用途】(種類)が、あまり重複しません。特に「長着」でその傾向があります。
つまり『染めの着物』『織りの着物』という区分が存在するのです。同様に『織りの帯』『染めの帯』という区分も存在します。
作品描写で気をつけていただきたいのが、この『織り』と『染め』の組み合わせを間違えないこと、です。
原則は
【染めの着物には、織りの帯を締める】
【織りの着物には、染めの帯を締める】
の組み合わせです。
フォーマル度は高い順に、「長着」の場合は『染め』→『織り』、「帯」の場合は『織り』→『染め』、です。何故か逆になりますので、ご注意下さい。
しかしながら後述しますが、男性の和装の場合はそもそも「染めの着物」の種類がほとんどありませんので、【織りの着物に、織りの帯】がほとんどです。
もう一歩踏み込んで【製法】を描写に活かすならば、【柄や模様を、どんな風に描くか?】という部分を組み入れると、より奥行きがでます。これらは長着の場合と帯の場合で、一部が異なりますので、ご注意下さい。
『織りの長着』の場合、【紬】と呼ばれる種類が主流派です。有名どころは「大島紬」です。奄美大島(鹿児島県)で生産される絹織物で、高級品の代名詞にもなりました。しかしどんなに高級品でも、和装の世界では「織りの着物」はフォーマルではないので、百万円の大島紬より一万円のポリエステルの染めの着物の方が「格が高い」とされます。高級デニムの扱いにも似ていますね。
『織りの帯』の場合、有名なのは【西陣織】の帯でしょうか。『京都の西陣で作られている【錦織】の帯』のことです。金銀の糸や箔を使って豪華に模様を描くものが多いです。フォーマルな場の帯では、金銀が入ったものを用いるのが基本です。
金銀を使わないフォーマルな帯に【唐織】があります。これは一見刺繍のように浮き上がって見える糸で模様を描く『綾織の帯』です。派手さを嫌うキャラに締めさせる帯にお勧めです。
『染めの長着』の場合、本当に様々な区分があります。基本は【染色技法】と【柄・模様がついている範囲】です。
「染色技法」は伝統工芸の世界。基本形だけ知っておきましょう。
もっとも有名なものが【友禅】(ゆうぜん)です。絵画的に模様を描き出す染色技法です。多色使いで華やかな模様を描くことができます。
次いで多いものが【小紋】(こもん)です。これは型染めの技法。型紙の上から染色して模様を染め描きます。タイル状に同じ模様を繰り返します。
他にも【絞り】(しぼり)や【刺繍】(ししゅう)などがありますが、これらを組み合わせて「模様」を描くのが「染めの着物」です。
男性長着は無地や織り柄が基本形のため、無地以外の「染めの着物」は滅多にありません。
模様を描く範囲が全体に及んでいるものを【総柄】と呼びますが、長着の場合は「総柄」よりも「無地の部分が多いもの」の方がフォーマル度が高くなります。基本的に裾には模様が必須ですが、礼装だと上半身に模様は入っていません。
『染めの帯』は、主に女性用の名古屋帯です。季節感を取り入れた模様を描くことが多く、おしゃれ着として使う場合に最適です。帯に描く模様を季節感たっぷりにしましょう。
……ただし和装の世界は《季節先取り》が原則です。また季節が違う模様をまとうことは避けましょう。冬の季節に蛍柄はやっぱり変です。ここらへんは洋装も同じですね。
作品描写では、男性の場合、模様は無地か縞模様などが基本の【紬の長着】に【織りの角帯】を締める、でOKです。
……女性の場合は色々お洒落に走りますので、後述の女性の和装バリエーション編で紹介したいと思います。