[1.2]着物のキホン:その弐【襦袢・羽織・袴・足袋】
さて、続いて【長着+帯】以外の衣装アイテムです。
まずは(3)の【襦袢】です。
これはいわば「下着」です。長着の下に着ます。これは男女共に対丈の長さですが、多少長さが足りなかったり長すぎたとしても、腰紐で調整して多少はごまかせます。
とは言っても現代では本当の下着(肌着)ではなく【単に、重ね着する時に、下に着る方】です。浴衣の時を除き、男女ともに【襦袢の上に長着を着用】します。夏でも常に二枚重ね着。暑いと感じるのも無理ありません。
ただし夏の着物は素材に工夫があって風が通りやすいのと、着物は脇や袖など開いている部分も多いので、思ったほどは暑くありません。普通の透けないタイプの布(綿コーマなど)で作った浴衣を一枚で着るより、夏用素材で作った襦袢+長着の方が涼しいこともあります。
時代劇などの艶場では「白い衿の真っ赤な襦袢」が定番ですが、あれはいわば「お仕事用衣装」です。多くの場合は白や淡色系です。
男女問わず、この【襦袢】は“和装のお洒落ポイント”の一つです。特に男性だと、長着は無地でも襦袢は派手派手、なんていうのも珍しくありません。骸骨柄の襦袢とかもあります。女性の場合も、長着に合わせて色を変えたりしてお洒落します。夏用着物だと、長着をシースルー素材にしてわざと襦袢を透けさせる、という高度なお洒落技もあります。いずれにせよ「襦袢」は「見せ下着」です。「普通にしていても、見える」ことが前提です。
というのも、和装の場合は「腰の帯」だけで前合わせを押さえていますので、歩いたり動いたりすればどうしても“裾が割れる”状態になります。要はめくれ上がります。……その時の「ちらりズム」を堪能するのが、襦袢のお洒落なのです。まさしく『見せてナンボ』です。
襦袢が見えるのはOK、しかし生足は見せない、が和装のエロティシズムの一つです。和装キャラが歩いた際、風が吹いた際など、ちらりと覗く襦袢の描写は風情があるので、作中描写にお勧めです。清楚で可愛らしい長着の裾や身八つ口から、目を引くような鮮やか色の襦袢がチラリと見えたりしたら……萌え、ですね。
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【長着+帯(+襦袢)】に加えて、【羽織(はおり)】や【袴(はかま)】を組み合わせて着用することがあります。男女問わず組み合わせますが、多少役割や位置づけが異なりますのでご注意下さい。
続いては(4)の【羽織】です。
長着の上に着る短めの“はおりもの”です。洋装における「ジャケット」や「ボレロ」です。
見た目は【長着の短いバージョンで、前合わせが無いもの】です。長さはいろいろありますが、帯の位置よりも長いことが基本形です。大体はお尻が隠れる長さ、長いものの場合だと、膝裏あたりまであるもの(長羽織といいます)もあります。
この【羽織】は男女でちょっと位置づけが違います。
まず男性の場合。“羽織袴”という言葉があるように、男性の和装では「フォーマルな衣装」の位置づけになります。それこそ洋装の「ジャケット」と同じ扱いです。改まった場に出る場合は、原則として羽織を着用します。
女性の場合。どちらかというと【防寒着】の扱いです。男性と違い、フォーマルな場(特に正式な場)では原則として羽織は着用しません。
昭和の時代には、学校行事に参列するお母さん方が黒い羽織を着用する姿がよく見られましたが、あれは特別です。【黒羽織】と呼ばれる真っ黒な羽織に家紋を付けたものだけは、セミフォーマルな場で着用可です。「長着に黒羽織」は、正式な礼装を持っていない人が「なんちゃってフォーマル」にする為に考え出した装いです。
なお女性の羽織は防寒着ですが、コートと違い室内での着用が可です。やっぱりジャケットと同じ扱いです。
作品描写の際には、男性の場合「洋装でジャケットが必要なシーン」なら羽織を着せましょう。女性の場合は「寒い時に、ちょっとお洒落してお出かけシーン」で着用するといいでしょう。飲食店などの室内でも脱がなくてOKです。
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(5)の【袴】です。
長着の上から下半身に着用する“ボトムズ”です。洋装の「ズボン/スカート」みたいなものですが、衣装としての位置づけは大きく異なります。
形としては、男性の場合は両足が別れている“幅広のズボン”形が基本形です。【馬乗り袴】と言います。
女性の場合は、筒状になっている“マキシ丈のスカート”形が基本形です。【行灯袴】と言います。
男性が行灯袴を、女性が馬乗り袴を着用することもありますが、珍しいです。正式な袴の形は「馬乗り袴」の方です。
男性の場合、やはり“羽織袴”ですので、正式な場では袴を着用します。フォーマル度でいうと「羽織」より上です。「長着+羽織」の組み合わせより「長着+袴」の組み合わせの方がフォーマルな扱いです。
女性の場合、袴は「カジュアルダウン」のアイテムです。そもそも男性のものであった袴を、“動きやすくするため”に女性向けに転用したのが始まりですので、本当に普段着扱いです。洋装における「デニム(ジーンズ)の着用」に近い扱いでしょう。
現代では大学の卒業式などでおなじみの「振袖に袴」ですが、本来はセレモニーなどでの装いではありませんね。現代社会では気にする必要はありませんが。
作品に活かすなら、『袴姿なんてはしたないわ』みたいな台詞で卒業式での装いを貶すキャラなどを登場させれば、一気に「ちょっと意地悪なオジョウサマ」キャラに仕上がります。
袴を着用した場合、だいたいお尻の下あたりまで脇にスリットが入ります。立ち姿ではそれほど目立ちませんが、座るとそこから下に着ている長着が覗きます。……これも和装の「ちらりズム」。男性の場合、袴と長着の色を変えると、更に色気が増します。作者の萌えポイントの一つです。(どうでもいい)
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最後に、(6)の【足袋】です。
これは単純に、足元の「ソックス」です。
形は親指と残り四本の指を分ける二股形です。和装の足袋に五本指は原則としてありません。男女問わず形には違いがありませんが、正式な場では必ず「白足袋」です。お出かけ着程度ならば、色付きや柄の入ったもの(色足袋/柄足袋)でお洒落します。
足袋は、かかとから足首までスリットが入っていて、【こはぜ】と呼ぶ金具を反対側の糸のループ部分(「掛け糸」といいます)に引っかけて留めます。この「こはぜ」の枚数は基本が四枚ですが、五枚を好む人も多いです。「こはぜ」の数でこの“ソックスの長さ”が変わります。四枚だと足首を被う程度で、五枚だともう少し深履きです。
礼装ではなるべく肌が見えない方がいいとされるので、五枚こはぜが好まれます。四枚こはぜの場合、歩いている際に少しだけ肌が見える感じです。この「ちょっとだけ見える生肌」を好む“粋な感じ”が好みの関東では四枚が好まれます。関西だと「奥ゆかしさ」を好んで五枚が多いです。
浴衣や普段着として用いる木綿の長着などの場合では、足袋は履かなくても構いません。それ以外では、原則として足袋は必須アイテムです。素足、よくない。
なお「靴」に相当するものは【草履】と【下駄】ですが、セミフォーマル以上では草履を履かせましょう。下駄は「スニーカー」レベルです。下駄の場合は足袋無し/足袋あり、いずれでもOKです。草履は足袋必須。
フォーマル度でいうと【白足袋+草履】→【色足袋/柄足袋+草履】→【白足袋+下駄】→【色足袋/柄足袋+下駄】→【足袋無し+下駄】の順で、カジュアルダウンします。
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まずは基本の「和装の構成」をご紹介しました。
(7)の【帯揚げ】、(8)の【帯締め】は、女性の着こなしオンリーですので、男女別の着こなしを紹介する際に、ご説明したいと思います。
とりあえず、ここまでで一区切りです。
続いては「男女別の「和装としての種類(用途)」について、紹介したいと思います。
後日、話を書き上げて投稿します。