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[1.1]着物のキホン:その壱【長着と帯】




 さて。

 『着物』には種類があります。

 現代ファッションと同様に、形、素材、用途などによって様々な名称で呼ばれます。これが慣れない用語なので難しく感じ、最初に挫折する要因の一つです。

 ですが、難しく考え覚える必要はありません。創作活動に“エッセンス”として活かす程度ならば、基本だけ押さえておけばいいのです。とりあえず現代を舞台にした作品で登場人物に「和装」させる程度ならば、おおざっぱな種類分けと用語だけ知っていればOKです。まずはそんな【おおざっぱな紹介】をお届けします。


 まず『着物』といってイメージする衣装は、次のモノから構成されています。


 (1)【長着】(ながぎ)

 (2)【帯】 (おび)


 これに加えて、場合によっては次のものが加わります。


 (3)【襦袢】(じゅばん)

 (4)【羽織】(はおり)

 (5)【袴】 (はかま)

 (6)【足袋】(たび)


 さらに女性の場合は、次のものが加わります。


 (7)【帯揚げ】(おびあげ)

 (8)【帯締め】(おびじめ)


 ……他にもいろいろと小物などがありますが、最低限これだけ区別できればOKです。

 それでは、それぞれの「和装パーツ」 ついて、簡単に説明して行きます。作品描写に反映させる際の留意点なども一部紹介しますね。



----------


 まずは(1)の【長着(ながぎ)】です。


 これが「着物の本体」です。

 長さが裾まであり、四角で長めの袖があり、前開きで着ます。前部分は重ね合わせて着ますが(カシュクール風)、男女問わず【右前(みぎまえ)】で着ます。洋装の男性の合わせと同じです。『どっち?』と悩む場合には【右手がスッと(ふところ)に入る方】と覚えるといいです。

 なお和装の場合【左前(ひだりまえ)】で着るのは死者に着せる服だけなのでNG。よって「幽霊さん」に着せるなら「左前」で着せましょう。


 また長着の形は、男女で少し異なります。

 まずは「袖の形」です。

 女性の場合、袖部分の一部(手を広げた状態で胴側になる部分)が縫い閉じられていません。これを【()り】と言います。男性の場合、手首を出す場所以外は袋状に全て縫い閉じです。

 女性の場合、袖に何か物を入れると、この「振り」から落ちてしまいます。袖の中に入れられるのはハンカチ程度でしょうか。

 男性の場合は袋状なので、まず落ちません。ポケット代わりに使う方がいるほどです。出し入れは袖口から行います。ちょっと手にした物などを「(ふところ)にしまう」のもいいですが、「袖の中にしまう」のも、男性着物ならではのシーンです。作品描写でいかがでしょうか。

 袖口にごそごそ手を突っ込んでから、ほいっとばかりに飴玉とか出てくると、意外性がありますね。あまり重い物(財布など)を入れると袖の形が悪く見えるので、軽い物がいいです。スマホを入れる程度がギリギリのラインでしょうか。ちょっと物騒に、袖の中からナイフなんかが出てくると一気にサスペンス。


 二つ目が「脇の形」です。

 女性の場合、両脇から腰下のあたりまで、両側にスリットが入っています。これを【身八ツ口(みやつぐち)】といいます。男性にはありません。

 この「身八ツ口」、女性の着物姿における「エロティシズム」の一つです。というのも、この「身八ツ口」は下に着るものにもありますので、ここから手を差し入れて“直接肌に触れる”ことが出来ます。着物姿で赤ちゃんにお乳を飲ませる場合、たいていはここから飲ませます。意外と生乳(ナマチチ)は見えません。

 和装姿の女性の後ろに回って、両脇から手を差し入れると……脱がずにエロいシーンが書けます。これ以上は自重しますが、和装の場合は「脱がないエロ」が盛りだくさんです。


挿絵(By みてみん)


 三つ目が「長さ」です。

 女性の着物には【おはしょり】と呼ぶ《ダブらせて重ねる部分》があります。大体、胸下から腰骨の辺りまでが幅の目安です。そのため女性の長着は、実際の肩から足元までの高さより、長めに作ります。これを【身丈(みたけ)】と言いますが、目安は実際の身長くらいです。頭頂から肩までの長さくらい、余分に長さがある訳です。

 男性の場合は、この「おはしょり」を作りません。肩から足元までのジャストサイズで作ります。これを【対丈(ついたけ)】と言います。


 この「長さの違い」があるため、次のような事態が生じます。

 女性の場合、身長より5~6cm前後までの違いならば、おはしょりを調整することで無理なく着用できます。ちょっと頑張れば10cmほどまでは何とかなります。よって、身長が155cmの人は、身長145~165cmの人のための着物を借りて着ることが出来ます。『着物の貸し借り』は普通にOK。

 着物の場合、幅の違い(スレンダーな人と、ふくよかな人の差)は、あまり気にしなくても大丈夫です。さすがに5号サイズの人の着物を19号サイズの人が着るのは無理がありますが、一桁程度の号サイズ違い(7号←→15号とか)ならば前合わせの調整などである程度何とかなります。

 男性の場合はそうはいきません。対丈(ついたけ)ですので、身長が違い過ぎると着用した時に足首が見えてしまい、いわゆる「つんつるてん」状態になります。和装の場合、この「つんつるてん」は大変みっともないこととされますので、NGです。


 男女問わず、足首は見えてはいけません。基本的に「地面より少しだけ浮いている」程度の長さに合わせます。よって男性の長着の場合、同じ位の身長(せいぜい2~3cm)でないと貸し借りは厳しいでしょう。

 ちなみに手首にかけての袖の長さを【(ゆき)】と言いますが、これも手を横に広げた状態でちょうど「手首の骨」が隠れる位がベストです。長すぎて手のひらまで隠れてもダメですし、手首が完全に見えてしまうのもNGです。その意味でも、身長が違い過ぎると貸し借りは難しいです。女性の場合、例の「身八ツ口」のおかげで、多少ごまかせます。


 【長着】は、【用途・着るシチュエーション】に応じた種類分けがあります。これはややこしいので、別の機会に男女別に簡単に種類分けを紹介します。



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 続いて(2)の【(おび)】です。


 着物を締めるいわば「ベルト」です。用途などに応じた種類分けがあります。以下、簡単に紹介。


(あ)【袋帯】(ふくろおび)

 :女性の用の帯で、少し長め。大体4.5mです。フォーマルな場で使います。


(い)【名古屋帯】(なごやおび)

 :女性の用の帯で、やや短め。大体4mくらい。ややセミフォーマル~カジュアルな場で使います。


(う)【半幅帯】(はんはばおび)

 :女性用の帯で、長さは名古屋帯とほぼ同じ。その名前の通り、幅が袋帯や名古屋帯の半分。基本的にカジュアルな場で使います。浴衣(ゆかた)に使うのは大体こっち。


(え)【角帯】(かくおび)

 :男性用の帯です。幅が10cm程で長さが約4mが主流です。素材(布)によって用途が変わりますが、フォーマルからカジュアルまで全ての場で用います。


(お)【兵児帯】(へこおび)

 :男女ともに用いる帯です。ショールやマフラーのような柔らかい布地で作り、カジュアルな場で気軽に使います。『子ども向けの帯』というイメージの方が強いですが、男女問わず大人も使えます。


挿絵(By みてみん)


 男性ならば【長着に角帯】が基本形です。

 女性の場合は、【長着に袋帯】だと改まった場、【長着に名古屋帯】だと“お出かけ”レベル、【長着に半幅帯】だと“お家で着物”や“ちょっとそこまで”レベルです。なお、女性の場合、長着の素材や種類によって合わせる帯の種類にはある程度の制限がかかります。慣れない内はあまり気にしすぎずに、基本形を外さないようにだけ注意しましょう。


 時代劇のお約束で【帯をほどいてクルクルクル~】『あ~れ~ぇ、ご無体な~』といったイメージがありますが、基本的に着物の帯はそんなにクルクル巻いていません。基本は二巻(ふたま)き。

 帯の結び方にもよりますが、帯が二重(にじゅう)に重なっているのは、前側と脇程度です。背中側は半分くらいは一巻き分しかありません。そして帯の布地は「兵児帯(へこおび)」を除いてデニムやコート地並以上の厚みがある素材生地ですので、それほど「ギュッ」とはしまっていません。着付ける際も“添わせるように”と表現されるほどです。

 よって『帯を()く』シーンの描写だと、どう頑張っても『クルクル』と2回分の擬音が限度です。実際は『クルっ』と半分ほど身体が回るだけで解けます。というか、帯の結んでいる部分を解くだけで『ドサッ』と足元に輪になって落ちます。……夢が一つ崩れましたね。残念っ。




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