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[3.2]夏の装い:その弐【浴衣編+木綿着物編】



 お馴染みの「浴衣(ゆかた)」以外の“夏の装い”、いかがでしたか? とりあえず「夏着物編」の復習です。一部、追加の情報もあります。


 男女問わず、夏場に着用する着物は「素材(材料)」や「製法」が異なります。それぞれ着用可能な時期が決まっていますので、キャラに着せる際はあまり冒険しない方がよいでしょう。

 6月から9月の4ヶ月間は、原則として【単衣(ひとえ)】と呼ぶ「裏地(胴裏(どううら)八掛(はっかけ))がない長着」を着用します。6月と9月に着る「単衣(ひとえ)の長着」は、裏地がないだけで原則表地は裏地のある【(あわせ)】の長着と同じ物です。7月と8月は【薄物(うすもの)】と呼ぶ「生地が透けるタイプの長着」を着用します。

 「薄物(うすもの)」として用いる生地は、部分的に透かし織りにする【】と、全体をシースルーにする【(しゃ)】があります。これは帯も同じで、帯の場合はより透けの多い網目状の【()】という素材も使用します。

 いずれの場合も、「外出着としての和装」として着用する場合は【中に襦袢(じゅばん)を着る】必要があります。常に重ね着スタイルです。襦袢も長着と同じく、絽や紗の素材を用いて、少しでも涼しくなるように工夫します。



 とはいえ、やはり重ね着は暑いもの。特に近年は暑さも増してきて、できれば襦袢を重ね着したくない……という気持ちにもなります。しかしながら今回の【3.2】でお話しますが、和装の世界で「襦袢を着ない着こなし」は“部屋着”扱い。本来、外出できません。いわば「パジャマで外に出る」のと同等です。


 ではどうするか。世の中、創意工夫がされています。

 【仕立て衿】もしくは【美容衿】と呼ぶ便利ツールがあるのです。

 これは【本来、襦袢を着た時に必ず見える『衿の部分だけ』を付けて、まるで襦袢を着ているかのように誤魔化す】ための小道具。夏場は大変重宝します。肌着を着た後に、この仕立て衿を巻き付けて、その後で長着だけを着ます。


挿絵(By みてみん)



 この場合、暑いのは衿周りだけですね。和装では『【衣紋】(えもん)を抜く』と言ってうなじ(・・・)辺りの襟ぐりを広くとりますので、思ったほどは暑くありません。少なくとも身体全体で一枚多く着るよりかなりマシです。

 こんな“なんちゃって”な工夫は他にもあって、女性の場合は【うそつき】とよぶ『袖部分だけ重ねる小道具』も使います。女性の長着は、振り(・・)部分が開いているので重ね着の襦袢袖が見えるハズ。それを誤魔化すために、やはり袖だけ重ねるのです。袖部分は振りが開いていて風が通りますので、これも重なってもそれほど暑くない。

 先人たちの工夫、助かりますね。「うそつき袖」は、「見せ下着」としての襦袢を活かす意味でもよく使われます。つまり本来の襦袢とは違う色を「振りから見せる」ために、別色の袖だけ付けるのです。こんなオシャレもまた面白いですね。



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 さて、皆さまにとって一番身近な『夏の和装』と言えば【浴衣】(ゆかた)ですね。

 幼少時から、夏祭りや花火大会、盆踊りなど、夏のイベントには欠かせない“いつもとちょっと違う装い”です。


 では、ここまでお話ししてきました『夏着物』と、今回紹介する『浴衣(ゆかた)』……どこが違うでしょうか?


 一般的に『浴衣』は綿(めん)(コットン)素材で、『着物』は(きぬ)(シルク)というイメージですが、日常着として【木綿(もめん)の着物】というものがあります。また、『浴衣』にも【絹紅梅(きぬこうばい)】という絹素材のものもあります。つまり、素材だけでは区別がありません。

 では製法でしょうか?

 夏着物は“必ず単衣(ひとえ)仕立て”だから……と考えられた方は、素晴らしいです。でも違うのです。実は【木綿の着物】は原則として夏用でも冬用でも「全て単衣仕立て」で作ります。【木綿の(あわせ)】は無いのです。


 素材も同じ、製法も同じ。さて……「浴衣」と「夏着物」の違いは?

 これは【中に「襦袢」を着ているかどうか】です。


 分かりやすく言うと、

  ・常に一枚だけで着るのが「浴衣」

  ・常に重ね着(風)にするのが「夏着物」

 です。


 先に紹介したように、夏場は「衿だけ」なんて重ね着もありますが、それでも『襦袢を着ている風』にすることが必要なんですね。逆に『襟元が重なっていない』場合は「浴衣」と見なされます。


 襦袢の衿部分には、通常汚れ防止のために別の布を重ね付けます。これを【半襟】(はんえり)と言います。白や色柄入り、刺繍入り、など、さまざまなお洒落アイテムの一つですが、これは長着の衿と少しずらします。正面から見た時、衿部分が「別の布が二重に重なっている」ことが分かるようにするのです。一般に、年齢が若いほど半襟部分は広く、年齢が高い方は狭くバランスをとります。幅広の方が華やかに見えます。

 この「半襟おしゃれ」については、後日「応用編:小物類」などとして紹介します。



 ともかく「木綿の長着」の場合、この「衿の重なり」があるかどうかで【浴衣】なのか【夏着物】なのかが分かれるのです。

 女性の場合は、衿部分の作り方によって区別できることもあります。多くの女性用長着の衿は【広衿】(ひろえり)と言って、幅広の衿を着る時に折り返す形式です。街着や日常着などでは最初から折ってある【バチ衿】もあります。『浴衣』の襟は、基本的にこの「バチ衿」です。

 しかし男性の場合は、礼装用だろうが浴衣だろうが、全て【棒衿】(ぼうえり)という等幅折り返しなしの衿仕立てです。姿形そのものでは「長着」と「浴衣」の区別はない、といってもいいくらいです。


 繰り返しになりますが、男女問わず夏に“外出”させる時の和装では、必ず襦袢を着せましょう。

 なお、【木綿の長着】は「日常着」です。原則、家の中や“ちょっとそこまで”レベルのお出かけでしか来ません。現代社会なら「近所のコンビニには行けるけど……」程度の服装です。日常的に和装しているキャラにとっての普段着。たすき掛け姿や割烹着(かっぽうぎ)姿が似合う着こなしですが、街場の“ちゃんとしたお出かけ”に着せるのは止めましょう。



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 さて、本題の『浴衣』についてです。

 男女問わず、素材は【綿】が最も多く、他には【(ラミー)】がよく用いられます。また“高級浴衣”として【絹】素材のものもあります。

 「麻」の場合、多くは「(ちぢみ)」です。もしくは綿との混紡素材があります。

 最も有名な素材としては『小千谷(おぢや)縮』、『近江(おうみ)ちぢみ』があります。これらは最初から皺を寄せた素材なので、家庭で洗うのにも適した夏用素材ですね。

 「絹」の場合、これはほとんどが【絹紅梅(きぬこうばい)】です。紅梅織り(格子状に透き織り)の絹と綿の混紡織物で、綿紅梅よりも軽くサラッとしています。しかしながら、水洗い出来ないので、お手入れのしにくさから避けられがちです。


 ほとんどの「浴衣」は【綿素材】です。ただし、それをどのような製法で織り上げるかには幾つか種類があります。これは夏着物もほぼ同じですね。

 最も有名で多くの方がイメージする「浴衣」の素材は【綿コーマ】です。これは綿の平織り。シーツなどをイメージしていただければ良いでしょう。平織りですので、“後染め”で多様な色柄を付けることができます。最もカラフルで様々な模様があります。

 ただし、透け感ゼロですので、意外と暑いです。

 少しでも暑さを逃すために、「凹凸を付けて肌に接する面を少なくする」素材も用います。麻と同じく「縮」や「しじら織り」のものです。皮膚感覚をサラッとさせる目的で、綿と麻を混紡したものもよく用いられます。

 夏着物と同じように“透ける”素材も用いられます。【綿絽(めんろ)】や【綿紅梅(めんこうばい)】が、ちょっと高級な浴衣素材の定番です。


挿絵(By みてみん)



 どんな素材の浴衣を着せるか。これは着用シーンによって変えるといいでしょう。

 まず基本形として【日中のお出かけ】なのか【夜のお出かけ】なのかを区別しましょう。

 花火大会や夏祭りなど、基本的に夕方以降のシーンならば、綿コーマを始めとするどんな浴衣素材でも構いません。透けた色気を出したいなら綿絽や綿紅梅、華やかにいきたいなら綿コーマ、大人の風情を出したいなら綿麻や縮などがお勧めです。

 あまり厳しいことを書きたくはありませんが【浴衣】は本来「日常着・部屋着」の扱いです。よって【日中のお出かけ】に着ることは本来NGです。

 下に襦袢を着ない「浴衣姿での日中のお出かけ」シーンの場合、可能な限り「夏着物と同じ状態の長着」を着用させましょう。具体的には綿絽や綿紅梅と言った透ける素材、麻の縮などの夏用素材、そして「木綿の長着」としても相応しい綿紬(めんつむぎ)(紬風にハリのある手触りの風合いを出した綿織物)が望ましいです。これらは多くの場合、あまりカラフルでは無く落ち着いた色柄のものが多くなります。


 色柄については、「浴衣らしさ」を出したいなら、やはり「藍色(あいいろ)しろ」の二色だけのものが素敵です。地色を藍色にして模様を白で染め抜くか、白地に藍色で模様を描くかです。所々にアクセントとして赤や黄などの色を使うのも素敵です。


 若い女性キャラで華やいだ雰囲気を出したいなら、綿コーマでカラフルに行きましょう。赤地や黄色地など、洋装ではちょっと避けがちな色合いでも、浴衣だと不思議と馴染みます。大柄で多色使いも若い人ならではです。

 普段、紺の制服姿しか見たことがない女性キャラの、赤や黄色の華やいだ姿……思わず見直しますね。


 男性の場合、色合いはモノトーンが多くなりますが、柄付けは派手でもいけます。無難に無地や縞柄、格子柄でもいいですが、「着物」では「柄あり」をほとんど着ませんので、浴衣くらい「柄あり」でもいいのではないでしょうか。

 『かまわぬ模様』などの、いわゆる【歌舞伎(かぶき)模様(もよう)】、『矢絣(やがすり)』『むじな菊』『麻の葉』『青海波(せいがいは)』などの伝統模様、または『波に千鳥』や『昇竜』『トンボ』なども定番です。ちなみに、作者が見た中で一番好きな男性浴衣柄は、藍地に白の染め抜きの曼珠沙華(ヒガンバナ)で、基本染め抜きでしたが数輪だけ赤だったのがとてもインパクトがありました。どうでもいいですね、はい。



 浴衣に合わせる帯は、女性は【半幅帯(はんはばおび)】、男性は【角帯(かくおび)】です。基本的に、(ひとえ)帯という一枚仕立ての帯です。また、男女問わず【兵児帯(へこおび)】も楽でいいですね。

 「兵児帯」というと、子どもが締める絞りの「金魚帯」がイメージされますが、(ちぢみ)楊柳(ようりゅう)、しじら織りのものは、大人でも十分着用できます。男女問わず、基本二巻きして『双輪(もろわ)結び』という、いわゆる“蝶々結び”にします。

 男性の角帯の場合は、ほとんどが【(かい)(くち)】という、背中に張り付くようなキリッとした結び方です。

 女性の半幅帯の場合は、キリッとさせたいなら男性と同じ「貝の口」か、結びの形が少しだけ違う【()()結び】あたりですね。可愛らしくいくなら【元禄結び】や【文庫結び】などの“蝶々結び”に似た感じの結び方がいいです。これらは帯の端がゆらゆらと揺れますので、動きもでます。その代わり、背に出っ張りますので椅子などに座る際にもたれられません。

 ついでに言うと、後ろから抱きしめる時に邪魔になります。『背後からギューッ』というシーンを入れたいならば、密着できる貝の口や矢の字がいいですよ。



 浴衣の場合、足元は【素足に下駄】です。草履も足袋も履きません。下駄は黒塗りでも白木(しらき)でも特に違いはありませんが、素足に白木だと汗が染みて跡がつきます。

 一方、高級浴衣のように「日中のお出かけ」として着る場合は、【足袋に下駄】が良いです。

 「日中のお出かけ」は、“他人の家に上がる”ことを前提としますので、素足はNG。これは洋装も同じですね。

 素足に下駄の場合、女性キャラならペディキュアでお洒落するのも素敵です。和装の場合、基本的に「手の指へのネイル」はNGです。ですが、浴衣のペディキュアは結構許容されます。下駄の鼻緒(はなお)の色に合わせると無難にまとまりますし、浴衣の色柄に合わせても素敵です。普段出来ない和装ネイルアート、足先のお洒落として楽しんでみてもいいのではないでしょうか。




 馴染みのある「浴衣姿」。だからこそ、作中キャラにも自然と馴染ませることができると思います。夏のひととき、あなたのキャラを、もっと身近に“非日常”へと送り出してあげてみてはいかがでしょうか。素敵な夏をお迎え下さい。






 さて、そんなこんなで予定より長くなりましたが、以上を持って【和装についての、基本的なお話】は終了です。難しい部分も多かったと思います。ですが、ここまでの内容を全て覚える必要はありません。各話の冒頭に、前話部分のダイジェストを記してありますので、それを流し読むだけでも十分です。



 次回からは【こんなシーンで、キャラに和装させるなら?】という、より『作中キャラに着物を着せる』ために必要な情報をご紹介してゆきたいと思います。

 具体的には、行事(イベント)やシチュエーションごとに、「どんな和装姿がありえるか・あり得ないか」といった見た目の特徴、「こんなシーンで和装したキャラは、こんな動作ができる・できない」といった動きの特徴、「このシーン、この和装姿ではここが素敵!」という萌え所の特徴(?)などを、ご紹介したいと思います。

 実際の文章表現・描写は、作者の皆さまが創意工夫されて素敵に描写されると思いますが、その手助けになるような描写例なども合わせてご紹介できればと思っています。

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