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[3.1]夏の装い:その壱【夏着物編】

■お知らせ■

今話より参照資料画像を用いています。データ通信環境にはお気を付け下さい。

※過去掲載分(【1.1】~【2.5】)にもそれぞれ追加しています。よろしければご参照下さい。



 長かった【女性和装バリエーション】編。お疲れ様でした。

 とりあえず「洒落着・街着編(カジュアルウェア)」の復習です。


 改まった場でない外出着「カジュアルウェア」の場合、和装では“ちょっと気張った感”のある『洒落着(しゃれぎ)』と、“今日はお出かけ”シーンの『街着(まちぎ)』に分かれます。厳密な区別はありませんが、多くの場合『帯の種類』で変化を出すことが多いです。

 『小紋(こもん)』という「染めの長着」か、『(つむぎ)』という「織りの長着」のいずれかが基本です。フォーマル度は小紋→紬、の順です。

 「小紋」は染色による柄付けで、色とりどりの地色や模様を表現することが出来、洋装のプリント生地で作る衣装同様、華やかで彩りのあるものが多くあります。洋装におけるブラウスやカットソーなどに似て、デートなどのお出かけシーンで大活躍です。帯は地味目の織りの名古屋帯、染めの名古屋帯、そして半幅帯まで幅広く使うことができます。

 「紬」は先染め糸を用いて織り柄を出す方法の柄付けで、比較的地味で大人しい色柄が多くなります。洋装におけるニットやデニムに相当します。シャキっと感のあるキャラや“普段から着物”キャラに似合います。帯は染めの名古屋帯か半幅帯を締めます。

 いずれの場合も【長着一枚、帯三本】という和装世界の言葉通り、帯で雰囲気をがらりと変えることができますので、色や柄合わせを工夫することで「オシャレ感」や「このキャラらしい雰囲気」を目一杯主張できる素敵な小道具です。



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 ということで、一通りの「和装の種類」を説明してきましたが、本題である「シーン別、キャラ和装させるには?」の話に入るまえに、もう一つだけご紹介することがあります。

 それが【夏の装い】についてです。


 すでに説明してきましたが、和装においては【重ね着】が大原則です。少なくとも、下着となるシャツ類(専用のものは【肌襦袢】(はだじゅばん)と言います)を着て、その上に「襦袢(じゅばん)」を着て、そして「長着(ながぎ)」を着て、帯を締める。

 前身頃の重なりを踏まえると、4枚ほど重なった状態になります。(肌着+襦袢+長着×2) さらに帯が2巻き分、女性は“おはしょり”が加わります。

 ……想像するだに『暑い』ですよね。

 さらに、基本の長着は【胴裏】(どううら)や【八掛】(はっかけ)と呼ぶ『裏地』が付きます。薄い絹布とはいえ、7枚重ね以上です。暑いです。


 当然、夏にこんな重ね着をすると地獄の暑さです。

 洋装では素材を変えたり、袖や脚部分の長さなどで調整しますが、和装の場合は「肌を見せない」ことが基本のため、常に「長袖・長ボトムズの二枚重ね」です。


 とすればどうするか。

 素材や仕立て方法を変えるしかありません。これは男女共通です。



 まず基本となる変化が【裏地の有無】です。


 通常の「胴裏(どううら)八掛(はっかけ)」が付いた“裏地付き”の長着を【袷】(あわせ)の着物、といいます。

 それに対し、裏地を付けない仕立てをしたものを【単衣】(ひとえ)の着物、といいます。夏のシーズン、基本は【単衣(ひとえ)】です。

 「単衣(ひとえ)の着物」は、裏地があるかないかだけの違いでして、表地部分は「(あわせ)の着物」と変わりません。留袖・振袖から紬に至るまで、すべての種類に「単衣」と「袷」があります。


 ですが「単衣の着物」――和装の世界では注意が必要です。

 というのは、厳密な慣習に従うと【単衣の長着の着用は、6月と9月のみ】なのです。一年でわずか2ヶ月しか着られません。近年は都市部を中心に高気温化が激しいため、ずいぶん大目に見てもらえるようになりましたが、それでも単衣は「5月中旬」から「10月上旬くらい」まででしょう。いくら暑くてもゴールデンウィーク(GW)に単衣はNG、なのです。


 「単衣が6月と9月」だとすると、夏真っ盛りの「7月・8月」は? と思われますね?

 この時期には、一般に【夏着物】と称される『素材が袷や単衣の長着とは違う、単衣仕立ての長着』を着用します。ほとんどの場合、生地が透けるような製法の素材(白生地)を用いるため【薄物】(うすもの)と称します。


 つまり年中の和装は、


    ~5月:裏地の付いた 【(あわせ)

  6月   :透けない素材の【単衣(ひとえ)

  7月・8月:透ける素材の 【薄物(うすもの)

  9月   :透けない素材の【単衣(ひとえ)

  10月~ :裏地の付いた 【(あわせ)


 と変化します。まさしく「衣替(ころもが)え」です。


 【薄物(うすもの)】のシーズンであっても、「襦袢」は必須です。夏であっても二枚重ね。涼しさを出すためには、素材に工夫が必要です。


 一番顕著な変化が、材料そのものを変えてくることです。具体的には【(あさ)】を使うようになります。洋装でも同じですが、麻は夏の素材。袷では使用しません。

 和装で使う麻は『苧麻(ちょま)』(英:ラミー)という種類で、繊維として強い上に織ると絹のような光沢を出すことができます。準礼装や洒落着に用いる麻素材は【上布】(じょうふ)とも呼びます。


 材料以外の変化は、白生地の製法です。具体的には「織り方」を変えてきます。どのように変えてくるかというと【隙間を作って、風を通す】形です。


 代表的な「隙間の作り方」は二つです。

 1) 『凹凸をつけて、肌に触れる部分を少なくする』方法

 2) 『生地を透かし織りにして、風を通す』方法


 1)の代表例が【縮】(ちぢみ)や【楊柳】(ようりゅう)、【紅梅織】(こうばいおり)です。

 【(ちぢみ)】と【楊柳(ようりゅう)】は、いわゆる「クレープ織り生地」のことで、「縮」は生地表面に細かな(しわ)が、「楊柳」は長い縦皺が出ます。【紅梅織(こうばいおり)】は、太糸と細糸を一定間隔で織り込んで表面に縦横格子を作り凹凸を生じさせます。いずれも「全体としては隙間はないが、肌に触れる面積は少ない」生地です。


 2)の代表例が【絽】(ろ)と【紗】(しゃ)です。

 【()】は、部分的に透かし織りにしたものです。透ける部分を『絽目(ろめ)』と言います。この絽目が縦ストライプ状のものを【経絽(たてろ)】(縦絽)、横ストライプ状のものを【横絽(よころ)】と言います。格式としての違いはありませんが、一般に「横絽」の方が“透け感”が高いようです。逆に「経絽」は絽目が目立ちにくいので単衣のシーズンに前倒しで着ることができます。

 【(しゃ)】は、全体的に薄く透き通るように織られたものです。いわゆる「シースルー」素材。風が通って、夏でもそれほど暑くありません。その代わり、おもいっきり透けますので、長着の絵柄と襦袢との色合わせなどが大切になります。

 なお贅沢な夏の装いに【紗袷】(しゃあわせ)というものがあります。これは字のごとく【紗素材を二枚重ねて袷仕立てにしたもの】です。重なることによる“モアレ”(干渉縞)を楽しんだり、異なる柄を重ねて遠近感を出すなど、かなり高度に楽しみます。ただし、この【紗袷(しゃあわせ)】は「単衣のシーズン(6月と9月)」の着物で、多くの場合6月だけの着用です。(9月だと季節感が“遅れる”ため)



挿絵(By みてみん)



 これらの素材は襦袢も同じです。

 基本的に襦袢は「単衣」仕立てです。袖部分だけを二重にするものを「袖無双(そでむそう)」と言います。麻の襦袢や、絽・紗の襦袢なら、コットン素材のTシャツより、はるかに涼しいです。



 とはいえ、いくら素材がシースルーや凹凸ありだったとしても、襦袢との二枚重ねである以上、暑く感じます。確かに暑い時もあります。

 しかしながら、すでにご紹介したように、女性の場合は「振り」や「身八ツ口」があって腕には風が入りますし、脇が開いているので意外と熱はこもりません。一番暑いのは、帯がしまっている腰の辺りですね。後は風が抜けて涼しいです。男性の方が、開いている部分が少なくて暑い時があります。この場合、胸元の衿合わせを大きくとったり、裾を開き気味にしたりと、工夫します。


 帯も、夏の素材に代わります。麻の帯はやはり夏の物です。

 通常の帯は袋状で最初から二重ですが、夏の帯は【単帯】(ひとえおび)もしくは【夏帯】(なつおび)と呼ぶ、一枚仕立てのものを締めます。

 素材は長着と同じで、()(しゃ)の素材、そして「一枚織りの帯」です。もっとも有名な夏帯素材が【博多織(はかたおり)】です。独特の柄(「献上独鈷柄(けんじょうどっこがら)」といいます)が有名ですが、様々な柄を織り出して模様を描きますので、夏にお勧めです。浴衣帯の定番ですね。

 もう一つ、夏用の帯素材に【羅】(ら)があります。専用の織機で作る「ネット状の絹織物」です。格子目が粗い織物ですので、(しゃ)()以上に、透けて風が通ります。さすがに長着にするには透けすぎ、またシャキッとした強い生地ですので、多くは帯に使います。



 男女問わず、夏の暑い時期、汗もかかずにキリッと和装で現れるキャラなど、凛然とした雰囲気があって素敵ですね。女性なら日傘、男性なら帽子がよく似合います。

 『意外と暑くないよ』なんて涼しい顔で語らせると、ちょっと見直したりするかも知れませんね。

 また暑さを逃がすために、振りを開いて風を入れたりする時に見える二の腕や、日に透けて見える襦袢や脚元など、色気満載です。男性の胸元も、開いていても下品にならず自然な感じなので、ちら見え上等!です。



 夏の装いにおいて、さけて通れないのが「透け感」。

 これを「見えている!」にせず「見せている!」にする注意が必要です。また「暑苦しい」と思われないような色使いなどもに注意しましょう。

 まずは色合い。

 基本的に白っぽい色が涼しげに見えます。逆に、寒色系の濃い色も意外と涼しく見えます。面積の大きい長着では、暖色系はなるだけ濃い地色を避け、帯や柄の一部分に使ってアクセントを効かせる方が素敵です。

 日中のお出かけの場合、どうしても日差しで透けやすくなります。場合によっては身体の線が透けて、下着が見えてしまいます。特に紗の場合はかなり透けますので、濃い色の方が安心です。逆に、夕方から夜のお出かけの場合は、白っぽい色が周囲の暗さに浮かび上がって、とても映えます。透けもあまり気になりませんので、白が強い紗や絽がお勧めです。

 透けることを前提とした「襦袢」への工夫も大切です。

 紗の場合は、下の襦袢の色が間違いなく透けるので要注意です。もしくは「襦袢がメイン!」の逆転発想で、無地の紗の長着に、派手な柄の襦袢を着るのもオシャレです。特に男性にお勧め。




 『夏の和装』というと【浴衣(ゆかた)】くらいしか身近ではありませんが、だからこそ「ちょっと、いつもと違う」という雰囲気を出すことが出来ます。

 夏休み、透ける夏着物をまとったあの人に出会ったら……ドキッとすること間違いなしです。半袖やノースリーブだと見慣れた二の腕が、なぜか着物の袖からのぞくと(なま)めかしい。ハーフパンツや短パンの太腿には何も感じないのに、長着や襦袢からのぞくわずかなふくらはぎにはドキッとする。

 和装って不思議ですよね。

 ぜひともシチュエーションに応じて、あなたのキャラを「ドキッとアイテム」にして下さいませ。




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【2.5】の前書きで記しました【日常着編】の「木綿の着物」および【浴衣】については、次回【3.2】でご説明いたします。

《予告》

[3.2]夏の装い【浴衣編】


その後、【4.x】として『シチュエーション別、キャラに和装させるには?』をお届けします。

具体的には「こんなシーンや行事(イベント)で、キャラにこんな和装させると素敵!」「こんなシーンで和装キャラは、こんな風に動くよ!」「このシーンで、この和装は駄目だよ!」「このシーンでの和装キャラは、ここに注目!(萌え)」という感じの紹介になるかと思います。

……多分、作者の好みが満遍なく反映されますので、あくまで「参考意見」としてお楽しみ下さい。


まずは『夏のイベント』として、浴衣が大活躍の「花火大会や夏祭り」からスタートする予定です。

先に挙げた『浴衣編』と同時期にお届けする予定ですので、今しばらくお待ち下さい。

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