DAWN 霧中の邂逅(前)
視界を遮るのは、何処までも灰色の無機質な壁。息苦しくなるような双璧の隙間に見える空は鉛色だ。雨粒が落ちそうなじっとりとした霧の中、まだら模様の服を身にまとった少年は、一人立ち尽くしていた。
正確に言えば少年は一人ではなかった。だが、立って、空を見上げていたのは少年だけであった。
少年の足元には、足、手、胴体、そして頭、と、嘗て人間であったものが転がっていた。その残骸は、少年を中心に円状に広がっている。噎せ返るような血臭が、狭い路地に満ち始めていた。
「……は……」
肩口で切り揃えられた白髪には、血飛沫が飛んでいた。少年は藍色の目を細め、口元を笑みの形に歪める。
「は、は、ははは、は……」
ともすれば女にも見える美丈夫な顔を狂気に縁取らせ、少年は天穹を仰いで笑う。
「はっ……」
息を思い切り吸ったところで、その声が途切れた。少年はゆっくりと、路地の先を見遣る。黒いロングコートをなびかせ、フードを目深にかぶった人影が近付いてきていた。
それは、痩躯の青年であった。青年は、警戒するような表情になった少年と一定の距離を取って足を止める。
青年はフードを降ろし、微苦笑を浮かべて少年を見下ろした。短く切り揃えられた黒髪に、山猫のような黒瞳が露わになる。だが愛嬌が在る顔というよりは、鋭さが目立つ顔立ちであった。
「お前もか」
青年は言って、ずかずかと少年に近付いた。息を飲んだ少年に構わず青年は少年の前にしゃがみ、その腰に腕を回して持ち上げる。そのまま、小さいその体を肩に担ぎあげた。
「わ、わっ!?」
「暴れるな。乱暴はしない」
青年は言って踵を返し、霧が満ちる裏路地へとその姿を消した。