9:勇者と戦いました。
Q:火狐はどうしたの?
A:ネタが・・・ネタが・・・
「あら~?弱小国がようやく勇者を召喚したと思ったら使えなさそうだなんてねえ~」
まさしく姫様、というような風貌で出てきたのは
「まあ私としたことが、神羅国、王女ヤナギと申します。以後お見知りおきを」
挨拶、しぐさなどがおそらく完璧なんであろう(一郎は基準がわからない)行為を見せた後、後ろにいる女性に目を向ける。
「・・・始めまして。雨宮春といいます。・・・魔法が得意です」
抑揚のない、声で自己紹介をした彼女が勇者の中で唯一の女性なのだろう。
「・・・そなた」
二人の自己紹介が終わったところでヤナギが質問をぶつける。
「得物はどうした?というよりなんの勇者なのだ?」
なんでも勇者は得物をはなさず持っていることが多いらしい。元の世界とは違うようにこの世界ではいつ命が狙われてもおかしくない。
「あ~、持ってますよ。たしかに。みなさんのより小さいんです」
「おや随分低い声なのですね。・・・小さい・・・とすると暗器・・・」
神羅の姫様は思考をめぐらせながら席のほうへ行ってしまった。
「次は僕たちですかね。パンゲア王国王子をやっています。ソルと申します。こちらはゲニア王国の王カイといいます」
「只今ご紹介にあずかりました、ゲニアのカイです」
「パンゲアの勇者、藤堂博。よろしく」
「ゲニアの勇者、春日部博人だよ。よろしくね」
全六人、すべてが集まったところで一郎は懐から小さい厚紙を取り出す。総数は人数と同じ、6枚。
「え~、元会社員で中間管理職の波止場一郎といいます。あ、これは名刺です」
配られた紙にはちゃんと波止場一郎と書かれている。
「あんた・・・社会人なのか!?」
「と、年上でしたか・・・」
「・・・ほえ」
博、博人、春の順で多種多様な驚き方をしている。するとローテッドから
「一郎、中間管理職がわからないんだが・・・」
「あ?そうだな・・・この世界だと参謀?なんて言えばいいんだろうな・・・王と他人をつなぐ伝令役、かな?」
「結構地位が高かったんだね」
「いやそうでもないな」
そんな話をしていると
「あなた私より年上なんですの!?」
ヤナギからそんな声がかけられる。
「ああ、そうだが」
「そんなんで勇者なんか勤まりませんわよね。さすが弱小国に現れた弱小勇者ですわね」
「そうかい、そこまで言うなら一郎勝負してやってくれ」
「は?いやだわ」
「・・・そこはいらっとして突っかかるところだろう・・・」
「社会人になるとそれくらいは言われなれないとやってられんぞ」
他人からの悪口などは常日頃、である。
「やっぱり、私たちの勇者に対抗できる勇者ではないのですね!所詮暗器使いなどそんなものです」
「・・・すまん、やっぱりやってくれないか」
ローテッドは顔で平静を保っているが握られた手からは血が出て震えている。相当怒りの感情が高いようだ。一郎はそれを見ると社会人らしく
「・・・報酬は?」
「酒だ、最上級の。飲み放題にしてやる。庶民料理もいっぱい出してやる」
「最上級じゃなくていいからのった。でヤナギさんよ、できれば戦闘許可と場所の提供を提案するぜ」
「さん・・・ですって・・・。まあいいわ、そうねうちの勇者の力も見せてあげたいし。春やっちゃいなさい」
「え・・・でも」
「でもじゃない」
春をにらみきかすとそのままいいくるめるように
「いい?弱小国なんて相手にしている暇はないの。こっちは獣が強いのだから。」
それを聞いていた、ローテッドが今にも切りかかりそうなほど怒っている。ここで行動しないのはさすが上の人間というところだろう。これ以上になると止められるかわからなかったため一郎は話を切り上げる。
「じゃあ、あんないしてくれるか」
「・・・あなたには敬うという心がないの?」
「じゃあお前は何をしたんだ?その若さで。他人が尊敬できる仕事をしたのか?王だから尊敬されるなんて考えているならそれはアマちゃんすぎないか」
「それいじょういってみろ、お前の国をつぶすぞ」
「激情は肯定と近い意味をもつぞ」
「・・・春。あいつを殺しても構わん。いや、殺せ」
「い、い「殺せ」・・・はい」
あれは反乱がおきるな、なんて考えながら闘技場まで歩いている横で
「あんのめぎつねめえええええ!いちろおおおおお、あいつをおおおおおお!」
ローテッドがぶっ壊れていた。
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「ルールはなんでもあり。お互い最大限の力を出して行ってください」
司会が大雑把な説明を行う。
「女を殴る趣味はないんだがなあ。どうしたもんか」
そんななか、春という子が声をかけてくる。
「あ、あの!魔法を撃ちますので避けてください!」
この子もアマちゃんだなあなんて考え
「なあ君、怪我や痛みを経験したことは?」
「え?ありませんけど・・・まさか」
なんとなく気づいたようだ。
「そ、そんな!ほかの二人だって手加減してくれていたのに!!」
「正直に言おうか、俺の武器は手加減ができる武器じゃない」
懐から見せる黒い塊は、現代の人ならだれでも知っているもので
「・・・銃」
「死にたくなけりゃよけろ。それしかねえ。酷な話だが」
こうして模擬戦という名ばかりの争いが始まった。
そのころスワローテイルは主様の本気が見れる!と興奮して試合開始前に疲れ果てて寝てしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~男勇者 二人SIDE
「あのおっさん、春に勝てんのかね。暗器使いなんだろ?」
「さあどうだろうな。あの人の戦い方見てないし」
男二人は始まる戦いを会場内の貴賓席から見下ろす。そして、一郎が出した武器を見て・・・顔面が蒼白になった。
「おい、今すぐ辞めさせるぞ。この試合。あの武器はダメだ。オーバースペックだ」
暗器ではなくあれを取り出した。ということはその勇者である可能性は高い。つまり扱いがうまい。ゆえに
「外す、なんて考えられない!急いで止めるぞ!」
「わかった!」
一緒に見ていた博人も動く。しかしすでに試合は始まってしまった。
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春SIDE
(な、なんで?なんでこんなことになってるの?)
相手は大人。それもある程度の社会経験をしてきた人。さらにその人の武器が銃。勝ち目などなかった。
(よけられるわけない!そんな弾なんて目で見えるわけない!)
銃にまったく詳しくわないがある程度のことはわかる。それゆえ、動けなかった。行く場所に弾が当たっているのだから。
(こんなの魔法の発動なんかできない!)
魔法は発生から発射のラグがある。発生は約2秒、そこから狙って発射するのに約5秒。どっちをとっても銃のほうが優秀であった。
ほぼ絶え間なく続く銃声と銃弾。当たり所が悪ければ死ぬ、そんな雨の中ようやく完成させた魔法は。
「遮断!」
防御魔法であった。
(耐えてください耐えてください耐えてください)
銃弾は・・・はじかれた
「ん?防御壁かじゃあ、弾を.44マグナムにして・・・どうだ」
バァン!との銃声。その一発で障壁に相当な負荷がかかっているのがわかった。
二発目、障壁はこわれた。
(嘘・・・これでも最高度なのに・・・)
防ぐ手段がない。そんな絶望感が春を襲った。
「魔法も、防弾ジャケにはまけると・・・」
悪魔が、真顔でそういった。
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王達SIDE
「なんなんだこれは!」
叫ぶヤナギ、それをみて大爆笑するローテッド。
「ははははははははははは!さすがだ一郎!」
「認めん!認めんぞ!なんだあの魔道具は!発生も発射も見えない!卑怯ではないか!」
「はぁあ?あれは魔道具ではないよ。ヤナギ」
「ならばなんだと!」
鬼の形相で見つめるヤナギに対して、満面のゲス顔でローテッド
「銃だよ。向こうの世界の武器さ」
「銃・・・」
「もちろん詳細は彼しか知らない。製造法も教えてもらっていない。あれを大量生産するつもりはないから安心して夜寝るといいよ」
ローテッドは最高の日だといわんばかりに笑いが止まることなく、ヤナギは机をたたいていた。
「蚊帳の外だな」
「だね」
パンゲアとゲニアは通常通りであった。そこに扉が開き
「王!即刻試合を中止してくれ!春が死んでしまう!」
「そうだ!止めるべきだ!」
博と博人、二人の勇者が試合の中止を求めてくる。しかし
「そ、そうだなz「それはないだろうヤナギよ」・・・」
遮ったのはもちろんローテッド。
「さきほど殺してもいい、といったのはお前が最初だ。その責任はある。ゆえに勇者が死んでも問題はないな?」
「くそ!・・・」
壁、机と目につくものをたたいていく。神羅の国は勇者がいなければ獣を押し返すことすらきつい。ここでなくすというのはつまりそういうことであった。
「な、なら!ソル王!出撃許可を!」
「だめ。これは決闘方式だ。参戦は認められないね」
「ゲニアも同じ意見だ。行っちゃだめだよ博人」
そういう二人の王の言葉には、ここで神羅を潰す。そんな雰囲気が含まれていた。
「だ、だまって春が死ぬのを「じゃあ君たち」・・・なんだ」
またもやさえぎったのはローテッド、こんな言葉を口にする。
「僕が許可する、参戦の。君たちが一郎を止めるといい。彼はいい歯車だからね。わかってくれると思うよ」
「・・・わかった、いくぞ博人」
「了解した」
ダッシュで部屋から出ていく二人そのあと、パンゲアやゲニアから批判が来る。
「こっちまで飛び火するのはやめてもらえないかな。貴重な戦力なんだあれでも」
「そうだよ、君のところ見たく合理性で考えらえるならまだしも感情的なんだ彼らは」
すこしむすっとしていたが、それでも完全に起こっているわけでなく
「大丈夫だよ、一郎はいいビジネスパートナーだ。僕がしたいことの大半を予測してくれる。殺しはしないだろう。君たち勇者は殺しに来るだろうけど」
ははは!と高笑いを浮かべ、いまだにヤナギをバカにしている。
「彼の豹変ぶりは健在だね」
「ですね」
王達の部屋からはずっと笑い声が聞こえていたという。
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「おーおー、勇者二人も参戦か。おっさんいじめはよくないな」
「だまれ、お前だってそうだろう」
「まあ、そのへんは言い返せないかな」
「じゃあおとなしくやられろ!」
槍、博人が突っ込んでくる。一直線直撃コース。
「一直線すぎんな~」
軌道をずらし、懐に入る。槍は左手でつかんだ状態。
「鎧来ててよかったな、今から打つのは.454カスール。ハンドガンの中じゃ火力は一級品だ。貫通しないことを祈るぜ」
先ほどの銃声よりも大きい音が鳴り、博人の体が一瞬震えるがその後止まる。振動による一時的な心停止だったため負荷が大きく、体が立てなくなって倒れた。その隙を狙う剣、博。
「ここだ!」
入ったと思った斬撃は、バックステップでよけられ、剣に銃撃を受ける。腕がしびれてまともに剣がふれない状態での一言。
「お前も鎧来ていてよかったな」
博はここで呼吸が厳しくなり、倒れた。一郎から言わせれば「銃撃の衝撃様様」である。最後、こんだけ時間を与えたのだ。春はもちろん一撃必殺級の魔法を用意していた。
「燃え盛れ!炎神!」
銃を使っているため火系の魔法はNG。よって一郎も技を披露する。
「Dies irea」
そのあとに放った銃弾は魔法をかき消した。最大級の。
「う・・・そ・・・」
「おしまいだ、嬢ちゃん」
恐怖で失禁、および気絶のダブルコンボであった。
「あ、しまった。女性にこんなことさせちまった・・・」
今更である。
その後おわったとみるや、オーステッドが満面のゲス笑顔で走ってきた。
蹴っ飛ばした。
ヤナギはこっちをにらんでいたが話すこともないので無視していた。
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「いや~いや~、さすがだよ!さすがうちの勇者だ!」
「とおぜんです。主様が負けるはずありませんからね」
ローテッドは酒をがぶ飲みし、スワローは「主様の試合が見れなかった・・・」との落ち込みからようやく回復、晩餐を開いていた。
「しかし、庶民料理で酒ってのもいいね!楽しい食事だよ!」
本当にそう思っている顔はまるで子供のようであった。
「そうそう、一郎。今日はもう何もないけど明日は明日で別の会談があるから」
「もうやらんぞ、こちとら人生最盛期超えてるんだ」
「まあまあ、主様ここはひとつ・・・」
「お前は俺の戦闘が見たいだけだろ。おれは酒飲んでグータラしていたいな」
「そ、そんな」とこの世の終わりみたいな顔をして倒れるスワロー、それを慰めているローテッド。なぜか意気投合する二人。正直イラッときた。
「明日はどうなるんだろうねえ」
今日の出来事を含め、あしたの他国の動向が気になる一郎。
「あ、そういえばあいつら全員成人してねえじゃん」
最後のセリフは一郎であった。
今回ちょっと長いですかね?
ここまで読んでくださって、お疲れ様です。