3:異世界のお酒はおいしかったんですが決闘することになりました。
「あ~だりいいいいぃ・・・」
ここは街の中、きちんと門を通って入ってきたのだがなんというか活気が少ないという感じである。そしてギルドへ行って旅人、冒険者になるために審査をしたのだがそこの受付の人にあのチビ神の紋章をみられてしまい
「え!?もしかしてミステリアス様の勇者さん!?本物!?」
と、この言葉を聞いたほかの人たちが決闘を申し込んでくる始末。大体20人位か、それをすべてさばいてようやっと落ち着けるほどになってきた。
(おっさんに重労働はきっついわ・・・)
「本当に申し訳ありません、この事態を予測できなかったもので・・・私の不手際です」
「あ~もういい。うまい酒を今度おごってくれ。それで十分だ」
「あっはい。それにしてもすごいですね、20人すべてに勝ってしまうなんて。あとその銃?というやつですか?その武具もすごいみたいですねいつ魔法が出たかわかりませんでした」
「魔法ではないんだが・・・まあ発射速度を肉眼で見るのは無理だろうなふつう」
先ほどまで酷使していた相棒はきちんとメンテナンスしてリロードしてある。危ないんじゃないかと思われるだろうがうちのリボルバーはダブルアクションを主軸に設計されているため多少引き金に力が入ったくらいじゃ発射できない。それほど引き金が固いのだ。もちろんシングルアクションでも撃つことは可能だ。
「それはそうとこんな騒ぎがあったせいで名前聞いてませんでしたね。私は個々のギルドで受付をやっています、ウエスといいます。冒険者になるのでしたら長い付き合いになりますのでよろしくお願いします。」
「こんな騒ぎになったのはお前のせいだ、お前の。・・・俺は波止場一郎。40近いおっさんだ。」
「えええええ!?40近いんですか!?あの動きで!?」
「うるさいうるさい、ちかくで騒ぐな喚くな静かにしろ。おっさんは静かなのが好きなんだ」
「(いい男だけど結構お年召してるのねえ・・・)申し訳ないです。本当に驚いたので・・・イチローさん?でいいですか?」
かるく「かまわん」と返事してから煙草を口に運ぼう・・・と思ったのだがこういうギルドって大体が禁煙とか禁酒だったかな。とおもいだしそっと煙草をポケットに戻す。酒とたばこ、さいっこうに体に悪い組み合わせだがこれがやめられないのはどうしてかねえ。
「・・・はい、登録終わりましたよ。夕方になってきましたし私も仕事が終わるので少し待っていてもらえませんか?」
「まつのはかまわんが色仕掛けはやめておけ。もっといい男にするんだな」
「そんなんじゃありません!さっきお酒おごれって言ったでしょ、いいところ連れて行きますからお詫びも兼ねて」
「・・・あ~そんなことも言ったな、たしかに。じゃあ待っている。早くしろよ。おれは気が短い」
「そういう人は意外と長いもんですよ」
ふふふと少し笑ってギルドの奥のスペースに入っていく。柄にもなくこんなことを楽しんでいるなと一郎は思った。向こうでは仕事ばっかり、帰ってきては趣味か酒。こんなんじゃあ女もよってこまい。そう思っていた。実際そうであったし。しかしこっちではどうだ、銃は自分が持っていたエアソフトガンをもとにチビ神が実物と同じようにしてくれたしそれ以外の技能についても与えられた。与えられた力ではあるけどこうやってさまざまな人と触れ合うのが年甲斐もなく楽しんでいた。
(この世界では人の命がさらに軽い、そんな場所では相棒はさらに脅威だ。俺が指を引けば相棒は素直に従って弾丸を出すだろうが、それじゃダメだな・・・ゴム弾・・・いやそれでも人に銃を向けるのは変わらない)
人、および話し合えば理解できる人には銃を向けたくない。この世界ではそれが無理であるまた非常に難しいことはわかっている。でも、日本という平和な国で育っていた一郎にとってはなかなか飲み込みにくい案件だった。それでも自分が自分であり続けられれば相棒は答えてくれると、そんなことをなぜか確信していた。
(お前がお前である限り、お前を俺は捨てない。相棒、これからも俺の力になってくれ)
銃を見つめながら考える、相棒から返事が返ってきたような気にさらされるが(中二病かよ)と悪態をつきながら相棒をしまうと同時に。
「お待たせしました、では行きましょう!」
「すげえまったぞ、で、そこは酒がうまいんだよな」
「そこは待ってないよ!とかいうべきでしょう!」
「おっさんに何期待してやがる。そういうのは20代に期待するんだな」
「はああ~乙女の経験したいイベントの一つが崩れていく・・・」
「おい、あったときから歩き始めてるのはいいんだがうまいのか」
「お酒の話ばっかりですね!もう!・・・自分の行きつけでもあるんで味はッ保証します、もう少しです」
待ち合わせた時よりも一段とウエスの雰囲気が重くなったがそんなことは一郎にわかるわけがなく、初めて飲む異世界の酒という言葉に頭が支配されていた。おそらく支配されていなくとも雰囲気の変化など気づかなかっただろうが。
「ここです、結構評判はいいんですよ」
「こちらの世界の評判なんて知らないがな」
「こちらの世界、ああ、一郎さんは別世界の人ですもんね」
言葉を交わしながら店の中に入ってみると、店内はウエスタン風の飲み屋といえば伝わると思う。丸い木のテーブルが数個とカウンターがあり、カウンター内部には厨房とお酒が見て取れる。
「カウンターがいいな、あそこが飲みやすそうだ」
「へっ?カウンターでいいんですか?」
「いやか?そうかなら・・・」
「ああ、いえいえ。いやというわけじゃないんですよ。この店のカウンターに座りたいって人はなかなかいないんですよ」
「それはどうして?」
「・・・まあこの店のマスターさんとは友人なので大丈夫だとは思いますが、座ればわかりますよ」
いまいち腑に落ちない返答をしてきたウエスに連れられカウンターに席をとる。そうすると奥から近づいてくる影が一つ。
「おお、ウエスちゃんじゃないか。おとなりはいい人かい?」
「違いますよ!マスターさん!この人はあくまで!そう!あくまで知人です!!」
「そう顔を真っ赤にしながら否定されても説得力がないねえ・・・でそちらのお兄さんは?」
「お兄さんと言ってくれたところ悪いんだがあいにくそんな年じゃなくてねこれでもことし38になる」
「あら~随分と年いってるんだね。わたしとあまり変わらないじゃないか」
「そうなのか?とりあえずビールをジョッキで二杯とおすすめのつまみも二つ」
「あいよ~・・・私がふったものの処理を任せるのは申し訳ないんだけどウエスちゃんの処理よろしくね」
「・・・ん?ああ。あれか・・・」
そこにはいまだ一郎さんは彼氏じゃありません!第一ですね・・・と熱弁しているウエスがいた。確かにこのままでは店の迷惑になるなと思った一郎は水の中に入っていた氷を一つ取り出し、ウエスの顔にぶつけてやる。
「いっつめた!何するんですか!」
「いいかげん冷めろ、うるさい。周りで飲んでいる奴らの声が大きかったからいいものの普通では迷惑だ」
「あう・・・」
正論であったがため反論できなくなってそのまますぼんでしまった。はたから見ればかわいいのだろうが、一郎にとっては女の順位が酒より落ちるため気にすることはなかった。
「はいよ~ビール二つと、つまみはこっちで勝手に選んだ奴だけどかまわないよね?」
「ああ、すまないな。じゃあウエス、乾杯だ」
「あ、はい!乾杯!」
カチャン!と小気味よいおとを鳴らしたグラスを口に運び、ビールを流し込む。その味は前の世界でちゃんとビールとして売られているものとなんら変色はなく、よく冷えていてのど越しもよかった。この酒を飲む前に、20人と戦っているため労働後、という意味合いもあってか非常にうまかった。
「・・・くはあああああ!これだあああ!」
「うを!イチローさん、そんな大きい声も出すんですね・・・」
「たりめーだろ、やっぱ最初はビールだな!すまんかみさん、次度が強いやつひとつ頼む!」
「あいよ~」
ビールをほとんど飲み終えた一郎は、次につまみへ手を伸ばす。前の世界では焼き鳥と呼ばれる代物だった。おいしそうだと思ったそれを一つつかみ口へ運び咀嚼する。
(なんでこう、酒と焼き鳥は相性がすごいんだろうなあ)
感動の嵐が巻き起こっている横でウエスは一人、一郎を観察していた。
(イチローさんすごく幸せそうな顔しでる、決してすべてを顔に出さないけど、渋くて・・・なんというか。若い男には出せない渋みを含んだカッコよさっていうのかな?ああでも・・・・)
考えれば考えるほどきりがない、なんで私は自分よりも20近く年上のことを考えてるんだろう?まさかほんとに気になってる?なんて考えていると
「かみさ~ん、つぎは16度ぐらいのないかな。あとはつまみでから揚げってあるかい?」
「16度ぐらいだったら米酒でよければあるよ、から揚げももちろんあるよ」
「あ~たのむわ」
「ちょっとちょっと!どんだけ飲んでるんですか!のみすぎですよ!」
「ここに来てから飲んでないんだ!少し飲ませてくれよ」
「少し!?これのどこが少しですか!!」
一郎の前には数えきれないほどの酒のジョッキやら何やらが散らかっていた。いったいこれは私が考える時間が長かったのか、彼の飲むスピードが速かったのか。そんなことを思っていたが、おそらくその両方だろう。強引にでもやめさせようとウエスはグラスを力いっぱい引っ張る。そんな時店の扉が再び開き
「ここにわれらが領土の神、ミステリアス様の紋章を持った勇者がいるとの報告を受けた。情報をもっている方は教えていただきたい!」
その掛け声と同時に全員が一斉に一郎を見る。ここに見方はいないのか、みんな知らないでいいじゃないかと悪態をつきながら目の前に向かってくる女騎士であろう人が言葉を続ける。
「お前がその情報を知っていると見た。教えてはいただけないだろうか」
「あ~、それは「なにを隠そうこのイチローさんがその勇者ですよ!!」・・・ウエス、こんだけ飲んだから金は俺が払うつもりだったが全部お前につけとくわ」
「ひど!」
「自分の言動を恨め」
「・・・お前が・・・勇者だと?」
「もうこいつか言ったから隠せないんだろ?・・・一応手の甲にその神様とやらの紋章はあるぞ」
「確かに、それではあなたが勇者ということになる。ほかの3国は若い勇者が召喚されたと聞いたが我が国はおっさんだな」
「たしかにおっさんだな・・・傑作だ。おっさん勇者なんてな」
「・・・皮肉のつもりなんだがな」
「人間であるならば、俺より年下と見える。そんな奴に皮肉を言われても痛くもかゆくもないってことだ」
「気に入らんな、貴様」
「口調が変わっているぞ、御嬢ちゃん。早く要件を言ったらどうだ」
「・・・貴様が勇者なのかどうか決闘をしよと思う、ついては王城の演習場で行いたい。王の眼前でもある。本物なのであれば3国と同様に我々この世界の人々は相手にならないはずだ。」
半分強制の王城へ来い。という命令。酒が入っているせいか少し気分よく一郎は答える「かまわんぞ」と。それと同時にウエスは心配そうな顔を浮かべ一郎に食い掛かる。
「イチローさん!あいては王国騎士の中でも最強と言われた戦姫ですよ!勝てるわけないじゃないですか!」
そう、勝てないのだ。勝てるわけない、勝負は目に見えている。そんな物言いをするウエスに一郎は少し怒りを含めこういう。
「・・・銃はファンタジーの中では剣に勝てない。随分と長くそういわれてきたな相棒」
「あの・・・イチローさん?」
「じゃあどうだ?その銃がファンタジーに準拠したら勝てるんじゃないか。俺の世界で剣が銃に勝つことなどほとんどないだろう」
「・・・おい、勇者もどき。貴様は私の剣が弱いというのか?」
「おいおい、おこるなよ子猫。俺の世界はって言ったろ?でこの世界ではここに準拠した銃がある」
腰部についているホルスターからリボルバー、相棒を抜き見せる。ひどく目立つわけでもなく、そこに静かに立たずむその銃はまるで相手を威圧しているかのようで。
「もともと銃のほうが剣より殺傷性が高い、ある程度の距離を持てばな。じゃあ殺すという動作に限って言えば相棒のほうがすぐれてるって言っただけだ。決して猫ちゃんの剣がダメな剣だとは言ってないぜ」
「・・・わかった。貴様は死にたいようだな。明日だ明日。ここに迎えが来る。逃げるな、そんだけの大口をたたいたんだ」
そう言い残すと、お付の者たちも含めみなぞろぞろ帰って行った。そこに残ったウエスと客は一斉に
「「「「「「あんた死ぬ気か(ですか)!?」」」」」
うるさい、としか思わなかった。明日はこの老体に鞭を撃つんだ。早めに寝るとする。
「かみさん、ここ宿もやってたな。一泊していく。」
「あいよ、しかしホントに大丈夫かい?相手はかなり強いよ?」
相当ではなくかなりといった時点で相手の実力がすごいことがわかる。できれば戦わずにグータラしていたかったが一郎も酒がまわっていたせいか饒舌になり、相手を煽っていた。失敗したなと思いつつもウエスに目をやると
「なんて約束をしているんですか!あんなのイチローさんが死んじゃうも同然じゃないですか!!」
初めて一郎は女の涙というものを見た気がする。ウエスは泣いていた。その理由がわからないほど一郎はバカであるつもりもなかった。
「なんで、俺が死ぬんだ。第一「なんでもくそもありません!しんだらどうするんですか」・・・」
初めての気迫に一郎は何も言えなかった。否いうことをはばかられた。今行ってしまえばすべてが嘘、言い訳になる気がして
「どんな人でも、会った人が死ぬのは悲しいことです。しかも、真っ向から王の前での決闘なんて生死問わずなんですよ!?わたしは耐えられない、イチローさんがが死ぬのが!」
「・・・じゃあ蘇生魔法ってあるか、または回復魔法。そしてウエスはそれを使えるか?」
女性経験のない一郎が出した唯一の返答、それには
「・・・ギルドは医療所の機能も含んでいます、なので私含めほとんどのギルド関係者が使えます」
「じゃあよかった、明日俺についてきて、俺が死んだら蘇生させてくれ」
「・・・えっ」
急に決まった同行人の誕生であった。
初めて1話で6000字近く書いたかもしれない・・・
お読みくださりありがとうございます。