弁当
午後のテスト直前、昼休み。俺たちはせっかくだからと屋上へ来ていた。見晴らしもよく、ここで食べるなら弁当も美味そうだ。
ただし…。
「亮太くん、はい、あーん♡」
「あ、あーん…」
友人の前で「あーん」を強要されるという羞恥プレイがなければの話だが。
「どうですか?亮太くん。おいしいですか?」
「あ、ああ。美味いよ」
「そうですか!良かったです!時間もかけられなかったので美味しくないかと心配してたので安心しました!」
パアア、と顔を輝かせる真子。そ、そんな目で見ないでくれ!素直に喜べない俺がおかしいみたいになってくる!
「アツアツだねえ~」
「結構いつものことじゃないか」
二人からのイメージもいつしかこんな感じだ。嫌だっ!バカップルなのは自覚してたけど、人に言われるのはなんか嫌だっ!
「そ、それより、二人は弁当食わないのか?」
話を逸らす意味も込め、俺たちを眺めている二人に聞いてみる。実際二人は弁当に手をつけてないのだ。
「そりゃだって…。僕たちがここで二人で食べると亮太たちと同じカップルなんだって思われるじゃん」
苦笑いしながら慎が言う。嫌なのか?
「少なくともアネゴは満更でもない感じだと」
チャキッ。
光と見紛う速さでアネゴの腰から銃が抜かれ、俺のこめかみへとロック音。流石に死を覚悟した。
こんなところで人生を終わらせるのも嫌なので、話を逸らすことから真子への反撃に指針を変える。手始めに、弁当箱の中の玉子焼きを箸でつまみ、真子へと勧める。
「はい、あーん」
「はむっ!」
一秒の躊躇もなかった。
「ん、確かに美味しくできました!なかなかの出来です!」
もきゅもきゅと租借しながら自分の料理を味わう真子。…くそ、しょうがない。最終手段を使おうか。
唐揚げをつまみ、今度は自分の口に入れる。真子はそれを目を逸らさずにじっと見ている。チャンス!
俺は、真子の唇に自分の唇を押し付けた。
横で約二名が固まる事態。しかし構ってられるか。今日は真子に羞恥心というものを植え付けて見せる!
「んむ…ちゅ、ちゅううう」
口内の唐揚げを真子の口に移そうとしたとき、異変が起こった。真子が激しく俺の口を吸ってきたのだ。
俺の唾液と真子の唾液が混ざり合い、舌は絡まる。唐揚げは俺の口から真子の口へ舌先で踊りながら移された。
「ん…ぷはっ!」
唐揚げが渡りきったところで俺たちの唇は離れる。名残惜しいと思うが、そんなことより、真子は恥ずかしいと思ったのか…!
「…おいしいです」
妖艶な顔でそんなことを言う真子に、俺の理性は切れた。元々溜まってたんだ、我慢できるか。押し倒し、真子の服に手をかけ…。
「「ごほんっ!」」
二人分の咳払い。それで俺たちの目は覚めた。
「…ぼくたち、といれにいってくるね!にじかんくらいかえってこないから、ごゆっくり!」
「「行かないでえっ!」」
その片言な日本語に、俺と真子は羞恥を覚えた。思いとはそぐわなかったが、真子に羞恥心を植え付けるのには成功したわけだ。
…釈然としない。




