看病
筆進まない…
「はい、おかゆです。ふー、ふー…。はい、あーん」
「す、すまん…」
マスクをずらし、粥を口に入れ、少しだけ噛んで、顎が疲れたら飲み込む。やはり風邪は怖い。顎はたった数回噛んだら疲れた。
「…うまいよ。ありがとう」
やはり一度寝ると違うようで、俺の咳はかなり止まっていた。体のダルさも少し引き、歩けるくらいにはなっていた。
しかし、まあ当然というか、真子は「今日はあまり体を使わないでください」と言って俺の身の周りのことをしてくれた。今日の料理当番は俺だというのに…。すまん。
「さ、じゃんじゃん食べてください。最低、この一杯は食べてくださいね」
「ああ。分かってるさ」
ぱくぱくと粥を飲み込んでいく。一回一回真子が息を吹き掛けて冷ましてくれるので、すごく食べやすかった。
三十分後。
「ご馳走様」
「お粗末様です」
真子の助力もあって、俺は茶碗一杯の粥を食べきった。
相変わらず、真子は料理が上手い。ただの粥なのに、俺が作るのとは味が違った。
「じゃあ、これ。薬です。こっちのスポーツドリンクで飲んでください。私はおかゆの余りを食べてきますね」
「ああ。じゃあ俺はもう一眠り…」
するよ、と言おうとしたのだが、手が勝手に真子の腕を掴んでいた。
「あ、悪い…あれ、取れない…。ちょ、ちょっと待ってくれ」
取れない。これじゃまるで、俺が寂しがってるみたいじゃないか。
…いや、正直に言おう。寂しいのだ。でも、それで真子に迷惑をかける訳にはいかない。
「真子。すまん。取ってくれないか。俺じゃ無理みたいだ…」
そう言うと、真子はクスッと笑って、
「じゃあ、すぐ戻ってきますから、待っててください」
そう言って、俺の額にキスをした。
驚くほど簡単に俺の手は外れた。…ラブコメでよく見るけど、本当にあるんだな、こういうの。
我慢できなくなって、ドアに手をかける真子に声をかけた。
「…真子、もう一つお願いをしてもいいか?」
「はい?なんですか?」
真子は「なんでも聞きますよ」という顔で振り向いた。
「その…。風邪を引くとだな。人肌が恋しくなるというか…」
ああ、くそ。初めて言う訳じゃないのに、何故か言葉が紡げない。恥ずかしい。
「その…今日、一緒に寝ててくれないか」
やっと言えた。そう、結構頑張って言った俺だったが、真子はあっけなく、
「当然じゃないですか。何言ってるんですかもう」
と言ってくれた。
そして、真子が粥を食べ終わると、俺たちは、ベッドで仲良く眠りについた。
テストまであと4日!
ーーーおまけーーー
「やっほー!お見舞いに来たよー!ってあれ、出ないな」
「鍵くらい開ければいいんだよ。ほら、見なよこのオモチャクオリティの鍵」
「うわ、本当だ…。亮太のお父さん、一世代違うんじゃないの…」
「邪魔するよ…って、いない」
「部屋じゃない?お楽しみに邪魔するのもいいかもだよ」
「どんな『お邪魔します』だい…あ、この部屋だね。寝息が聞こえる」
「あ、二人とも寝てるや…。果物だけ置いて帰ろうか」
「…なんか、なごむねえ」
「そうだねえ…」




