圧倒
眠いよう…
「喋るな」
真子と慎に先に指示しておく。冷静に見えるかもしれないが、内心焦っていた。
ーーーまずい。
アネゴがやられた事もそうだが、ここはまだ敵陣に入っていなかったはずだ。なのに攻撃が飛んでくるとは…。
アネゴが右手を挙げてフィールドから出ていく。その隙に腕時計を確認。敵は近くには居なかった。
「狙撃兵か…!」
そうと分かれば話は早い。新たな指示を出すとしよう。
「真子。木から降りて、ここへ来い。ついでに、ギミックを展開しておけ」
「分かりました」
かなり後ろで、真子が接近してくるのが見えた。
アネゴが居たところなら、射線は通っているはずだ。幸いナメているのか、相手は誰も動いていない。
一応、『盾』を展開して射撃に備えておく。真子はあまり待たずとも到着した。
「方向はあっちだ」
ここまで分かれば、真子の五感ならば捉えられるだろう。実際いけたようで、照準を定めていた。
真子のスナイパーライフルのギミックは、盾の展開だ。真後ろ以外の全方位から守れる。それは、この戦闘ルールならば素晴らしく強いものだった。
だが。
ゴシャア!
「きゃあ!」
どこから出たのか、男がライフルごとシールドを吹っ飛ばして真子の頭にチョップを入れた。
瞬間、真子の反応が消え、真子は手を挙げて帰っていった。
「ふっ!」
更なる攻撃を俺に加えようとする男。しかしそれは俺の『盾』に阻まれた。
無言で『盾』から『剣』にチェンジして斬りかかる。あとは、この間に…
「流石に甘いよ」
パン!
男のハイキックが慎の頭に軽く当たり、慎も失格。
これは、無理だ。
そんな状態で、俺は、『剣』から『拳』に戻した。
「おっと?やる気なくなっちゃったかな?」
男の軽口にも取り合わず、深呼吸する。一度する度に落ち着く。
スーーー。
ハーーー。
瞬間。
男の鳩尾に俺の拳がめりこんだ。
「ゴハッ!?」
仲間たちに軽い攻撃をしてくれたことは感謝しているが、こればかりはしょうがない。倒れこんだ男の頭を軽く蹴って、次なる目標へと走り出す。
俺の頭を占めている感情は何なんだろう。
怒りか?違う。それなら脳はこんなにクリアじゃない。
悲しみか?違う。彼は優しく倒してくれた。
悔しさか?ーーーそうかもしれない。
最初からずっと、相手は俺たちをナメている。それが気に入らない。しかし、怒りとは少し違う感情。
次の敵は木の上に居たので、枝の下から『銃』で撃ち抜いた。たまたま股間に当たったようで、悶絶しながら帰っていく。
ーーーあと一人。
その一人は、当たり前のようにボスで。
当たり前のように、一番強かった。
どれくらいかというと。
気配に気づけなかったくらい。




