本番
今回短めです。
開始前の握手の後、配られた通信機を耳に付ける。本当、この学校ハイテクだな…。
「開始位置はこちらで決めますので、『ベアリング』の皆様はこれにお乗り下さい」
司会が促した先にあるのは、リムジンだった。
「…」
リムジンだった!
「ちょっ、亮太、見て見て!フカフカだよ!」
馬鹿な!何の緊張もなしに飛び乗っただと!?
「僕亮太の隣!」
「あたしはどこでもいいよ」
「私は亮太くんの膝の上です!」
空気が割れる音がした。
「…ギャグ?」
ためらいがちに慎が聞く。馬鹿だな。慎。それは愚問というものだ。
「大真面目です!」
真子がギャグを言うはず無いだろ。
「…じゃ、じゃあ呪うか!」
乗ろう、のフリをしてるが、アネゴのこの台詞は多分呪うだ。
「シートベルトをお付け下さい」
あ、青筋出てる。
俺たちの拠点に着いた時点で、耳にある通信機から放送がかかった。
「ではここで、勝利条件及び敗北条件について言います」
司会も疲れてるのか、若干日本語がおかしい。
「これは、ハンディマッチになります。『十字砲』の皆様は、『ベアリング』の全員を失格させることが勝利条件です。『ベアリング』の皆様は、それに加えて相手の拠点に侵入することも勝利条件となります」
「…なんかナメられてないかい?」
「実績が違うだろ」
アネゴが若干怒っている。
「では、開始します!よーい…はじめっ!」
司会の合図と共に俺とアネゴは真ん中を走り出した。真子は狙撃のため、慎は木の上を跳び移っていくため、それぞれ木に登る。大丈夫だ。腕時計に見せかけた発信器のモニターを見ると、まだ結構遠い。
「アネゴ。できるだけ俺と離れないでくれ。二対一で戦う方が効率がいい」
アネゴが木の上を歩く慎を気遣ってか、チラチラ上を気にしていたので、釘を刺しておく。アネゴは「分かってるよ」と返し、前だけを見るようになった。
「ん…。そろそろか」
この発信器、色を分けて俺たちの方にも付けている。しかも、失格になった者は反応が消える優れものだ。というわけで、今慎と真子がどの辺にいるかの確認をしてから、敵を確認した。
小柄な男だ。制服の中にパーカーを着ているようで、フードが見えていた。
ヘッドショットに行くか、それともこのまま総攻撃をするか。
真子も慎も既にこの辺りに到着している。この距離なら、後者だな。
「真子、頼んだ」
「はいっ!」
真子が小さい声で元気よく返事するという器用な芸当をやってのけた。念のため、俺とアネゴは回り込んで敵の後ろへ。慎は敵の真上に行ってもらった。
パァン!
銃声が鳴り響く。その瞬間、通信機から声が出た。
『安藤さんを撃破しました。これは、撃破したチームにしか聞こえていません』
…よし。
ーーーそう思ったのが、失敗だった。
次の瞬間、アネゴの通信が消えた。




