訪問3
田中ェ…
懐から投げナイフを取り出す田中。こいつはナイフ以外使わないのか。
その武器を見て、武器を盾に変形させておく。しかし田中は構わず投げてきた。
難なく弾き返す。が、一つだけ服を掠めた。それを見ていけると判断したのか、田中はどんどんと投げる数を増やしていった。
「チ…」
スマホをしまい、苦手なものの銃を取り出して撃ってみる。これで当たってくれれば、向こうも『篠原は遠距離戦が苦手だ』という考えを改めるだろう。
結果は良好。上手く向こうの腹に当たった。どうやら腹に入れていたのはこのナイフだったらしく、投げたナイフの部分に当たったようで、ダメージが与えられた。聞いていた通りかなりの威力があるらしく、田中は苦しそうに呻いている。
しかし、そこで油断したからか、俺の右腕にナイフが一本当たった。服から赤い液体が滲む。正直、重いからって防弾チョッキを着て帰らなかったことを後悔した。
「君は遠距離戦もできるのか…騙されたよ」
腹の痛みから立ち直った田中がまたも不敵に笑う。なんなんだこいつは…?俺はかなりこいつにダメージを与えているはずだが、こいつは俺にナイフを掠らせただけだ。まだ不敵に笑える理由が分からない。
「正直君はどうやって倒せばいいのか分からないよ…。腕も折られたし、今のところできたことは天野さんをああやって無力化できたくらいだ」
田中がちらりと真子を見る。真子は自分の体を抱いて必死に性欲と戦っていた。
「まあ、ここで天野さんを連れて逃げるのはあんまり簡単な方法とは言えないんだけど…」
そこで田中が言葉を止める。なんだ…?急に話を始めた挙げ句、ここで止めるか普通?
「そういえば知ってる?篠原君」
何が狙いだ?何をしている?
「今日僕が使った薬って口から入れたけど、口から入れる薬って結構少ないんだよね。普通は尻から入れたり…」
ーーー時間稼ぎ?
「血管に入れたり」
そこまで気付いたところで、俺の体は崩れ落ちた。
「気分はどうだい?」
上から見下ろしてくる田中。なかなか高尚な趣味を持っているようで、その顔は愉悦に歪んでいた。
「現代医学ってすごいよね。ものの一分で全身痺れさせるとかさ。時間稼ぎもほとんど意味無かったよ」
頭を掠めるのはついさっきの投げナイフ。あれに薬盛ってたのか…!
「僕もあんまりいけると思ってなかったんだよね、本当は。近距離で戦ったら本当に鬼神のような強さだったし。だから遠距離にシフトしたらあら不思議。防戦一方だったよね」
田中の言葉を聞き流しながら、そろそろアネゴが来ないかと考える。いや、無理だ。メールを送ってから約20分。アネゴの家からここまで、どれだけ急いでも30分かかる。不可能だ。となると、この状況を打破できるのは…。
「…何とか言えよ、ボケがっ!」
渾身のキックが俺の鳩尾に的確に入る。体を丸めて咳き込む事しかできない自分が歯がゆい。そんな弱った俺に、田中は愉しそうな笑みを浮かべながら蹴りを入れていく。
「ギャハハハハハハ!お前はそこで見てろよ、天野さんが俺に犯される所をよ!」
「…キャラ変わってるぞ、大丈夫か」
軽口を叩いて少しでも時間を稼ぐ。大丈夫だ。あいつがここに来るまでの時間は稼げた。これで…
「ふぐえっ!」
バキャッ!
派手な音。田中の頭に振り下ろされる皿。それを持っていたのは…
「…誉めてください、亮太くん…」
媚薬の効果で身体中が紅く染まった真子だった。
お疲れ真子ちゃん。よく頑張った。




