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双子姉妹の何もないお話

作者: 空き缶文学

 高等学校の靴箱に一通の手紙が入っていた。

 その靴箱を使っている少女は首を傾げて手に取る。

 紺のスクールブレザーと紺と黒のチェック柄スカート姿の少女は封を開けずに靴箱へ。

 少女は全く気にする素振りも見せず、上靴に履き替えて廊下を歩いていく。

 その後、同じ制服を着た少女が靴箱を開けた。

 黒髪でロングの少女は漆黒の瞳を細めて靴箱の中を覗く。

 一通の手紙が入っているのに気付き、なんとなく取り出してみる。

 裏表と何度も見返すが、名前は書いていない。

 疑問に思いながらも手紙を持って二階の教室へ向かう。

 自分のクラスの教室へ入ると、まだ数える程度しか生徒が来ていない。

 その中で窓から景色を眺めている暗い茶色のセミロングの少女に声をかける。

「ねぇ愛海、なんか靴箱に手紙が入ってたんだけど」

 名前を呼ぶと、同じ漆黒の瞳を輝かせた少女が振り返った。

「手紙? あはは古風だね。愛莉のことが好きな人は古い人かも」

「まだラブレターって決まったわけじゃないんだから」

 愛莉は困ったような表情を浮かべて手紙の封を開ける。

「一目見たときからアナタのことが好きです、放課後体育館裏に来て下さい……と、あれ、ラブレター」

 一部を飛ばして手紙の内容を呟いた愛莉。

 ニコニコと笑顔を浮かべる愛海は、少し考えて複雑な顔を見せた。

「なにその顔?」

 愛莉は首を傾げて、ラブレターを学生鞄の中へ入れる。

「ちゃんと放課後まで覚えてるかなって、愛莉は忘れやすいからさぁ」

「さすがにそれはないでしょ。確かによく忘れ物とかはするけど、今日はちゃんと鞄も持ってきたし」

 自信満々に革製の学生鞄を見せびらかす愛莉に呆れてしまう。

(それは自慢するとこじゃないっての……成績は優秀なのに、なんか残念なお姉ちゃん)

 心に秘めた思いは口に出さず、愛海は笑って済ます。

「あ」

「どうかしたの? 愛莉」

 愛莉は学生鞄を覗き、口をへの字にして肩を落としていた。

「教科書……忘れた」

(ああぁ……残念なお姉ちゃん)

 愛海は呆れ顔を見せずにもう一度笑う。

 教科書を忘れた愛莉に全教科を貸して、愛海は授業中居眠りに徹した。

 お昼休憩。

 眠りを貫いた愛海は大きく背を伸ばして、欠伸をする。

「コラっ!」

 突如頭上に伸しかかった重みのある物体に愛海の頭は下がってしまう。

 頭を撫でながら見上げると、そこには愛莉に貸した教科書とそれを持つ愛莉の怒った姿。

「気持ちのいい目覚めを壊すなんて罪は重いよぉ、しかもアタシの教科書で」

「貸してくれたことにはありがとう。でも、居眠りは感心しない、別に私は無くても授業なんてわかる」

 愛莉の睨みに愛海は頬を膨らまして口を尖らせる。

「まぁいいけど、私は購買でパンを買いに行ってくる」

「え、お弁当も忘れたの?」

「ええ」

 目を細める愛莉に何も言えず、愛海は先に昼食をいただくことに。

 卵焼きや白ごはん、肉団子、サラダ。

 ひと口ずつ食べながら愛海は辺りを見渡す。

 他のクラスからも友達と昼食を取る生徒が何人か教室に来ている。

 その中から少し視線を感じた愛海は男子が集まっているグループを見た。

 すると、男子の一人と目が合う。

 爽やかさとはかけ離れた体格のいい男子で、目は細くて眠っていると勘違いしてしまう。

 愛海がじっと目を合わせると、気付いたのか視線を逸らされた。

(もしかして、あの手紙はあいつかな……アタシのタイプじゃないし、愛莉には悪いけどこのまま黙ってようっと)

「そんなに睨んでどうしたの?」

 購買から戻ってきた愛莉はパンを二個持っている。

「ううん、べつにぃ」

 他愛のない会話で時間は潰れ、休憩はあっという間に終わった。

 弁当箱を片付けた愛海は無言で愛莉の様子を眺めるが、特に変わった事もない。

「次は体育だから早く着替えに行かないと、ほら、ぼさっとしてないで行くよ」

「うん、わかったぁ」

(これは絶対忘れてるよ、ラブレターをもらったことすら忘れてる)

 愛海は呆れつつも何も言わずに愛莉の後ろをついていく。

 全ての授業を終えて放課後、部活のない生徒達は教室から出ていき、愛海と愛莉も帰宅部なので足早に靴箱へ。

 靴箱の扉を開けた途端愛莉は動きを止める。

「どしたの、何か忘れ物?」

 期待を込めて愛海は尋ねてみた。

「う、ん……何か約束をしていたような、確か靴箱になにかが入っていた思うんだけど」

 頭を捻らせて考えている愛莉。

 愛海は口元に笑みを浮かべてその時を待っている。

「ま、気のせいね」

 思わず姿勢がガクッと崩れてしまう。

(うわ、約束事も気のせいで済ませちゃったし……どこまで残念なんだろ)

「ねぇ、朝の手紙は?」

 痺れを切らした愛海の一言で愛莉は目を大きく開眼させた。

「それだぁ!!」

 愛海に指を突き出して声を張り上げた愛莉は学生鞄の中からラブレターを取る。

「ホントに忘れてたんだね、大丈夫?」

「大丈夫よ、多分。でもこんなラブレターなんてもらったことないし、恋愛なんて私には無縁の話だし、どう返事をすればいいのか困る」

 相手の顔も知らないのだから不安なのだろう、愛海は相手が誰なのか知っているが言わない。

「まぁ家系のこともあるから、断ればいいんじゃない? お前に神主が継げられるのかぁって」

「神社のことは隠しておいて、丁重に断る。それが一番なんだけどね」

 真剣に悩む愛莉の姿に、愛海は込み上げてくる笑いを隠そうと手で口を覆う。

「アタシはここで待ってるから、早く行ってきたら?」

 にやけながら愛莉の背中を押した愛海。

「もう、まぁなんとかなるか」

「そうそう」

 大きく手を振って体育館裏を目指す愛莉を見送り、愛海は昇降口で待機をする。

 ほとんどの生徒が足早に帰っていき、聞こえるのは部活に励む声。

 寂しく静かな空間を壊すように廊下の床を叩くような音が響き渡ってきた。

 勢いよく走っているのだとわかった愛海は昇降口から校門まで駆けだした。

「あ、い、みぃいいいい!!」

 呼ばれているが、愛海は返事もせずに走る。

(おお、コワいコワい)

 校門まで走り終えた愛海はすぐに立ち止まり、振り返った。

「おかえり、愛莉。ちゃんと断ってきた?」

 息を切らして膝に手を当てた愛莉にいつもの調子で声を掛けると、愛莉に睨まれてしまう。

「何がおかえりよ、愛海、あんたラブレターを私の靴箱に入れ直したのね!」

「うん、だって興味ないし、結構体格が大きい人だった?」

「え、ええ、大きくてラグビー部の人……って誰なのかも知ってたの!?」

「うん、あとでわかっちゃった。しかも全然タイプじゃなかったし」

 愛莉は大きく息を吐いた。

「えげつないわ。相変わらず黒いね、愛海のお腹は」

「そりゃどういたしましてぇ、でもちゃんと断ってきたでしょ?」

「断る以前の問題! あっちも困ってたし、後でちゃんと謝りなさい」

 謝罪を求められた愛海は強く首を横に振って拒否を示す。

「ハァ? なんで謝るの、絶対イヤ。もう早く帰ろう」

「ハァじゃない、告白なんて勇気いるんだから、体格の割には気の弱そうな人だったのよ」

 姉らしく怒る愛莉に、愛海は目を逸らして頬を膨らました。

(こういうところは面倒だよねぇ……はぁ)

「はいはい、気が向いたらするよ」

「できれば今日中に謝ってほしい、私も恥をかいたし、彼なんてもっと」

 納得できない反応だったのか、愛莉は腕を前で組んで動かない。

 面倒と思いながらも愛海はその後、ラブレターを靴箱に入れた男子に謝りに行った。

 ついでに告白されたが、はっきりと断った愛海は校門で待っている愛莉のもとへ。

「ちゃんと謝った?」

「うん、ちゃんと謝ったよ」

(しつこいと困るから素で断っちゃった。男のくせに泣くとか……ないね)

 内心の気持ちなど声に出すつもりはなく、愛海は愛想を振り撒くように笑顔を見せた。

「これは黒い時の笑顔だわ」

 愛莉の目は誤魔化せなかったが、愛海は気にせずに仲良く二人で手を繋いで帰っていく。

 

 終わり。

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