侍の心得3
「疲れた~」
たくはそう言うと、ヘナヘナと座り込んでしまった。
そう、気を消耗して体力を極限まで削られる。
...だが、それは彼らが若くまた、それなりに気も充実していたからである。
武刀集に伝わる話には、もっと悲惨な物があるが、今はまだその話をすることは出来ない...
しかし、たくがそのような無茶を行ったのは、仲間を信じていればこそであった。
「後の敵は、たく達が何とかしてくれる。」
古くさい綺麗事と思われるかも知れないが、そう信じていたからこそこれほどの力が出せたとたくは思ってさえいる。
そう思いながらたくはしばらく休んでいたが...
「そろそろいかないと。」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、たくは立ち上がり走り出していた。
信頼と義務は全くの別物である。
そう、幼い頃から教え込まれてきたため、彼には自分の行うべき義務から逃げ出したり、信頼の名の元に仲間を見捨てていくようなことをとても嫌った。
そして、それは彼も同じだった。
「・ ・ ・あっ、ユウ。」
見ると、ユウが、此方の方へ向かって走ってきていた。
「終わったか?」
ユウが、当たり前のように聞いてきた。
「あぁ、何とかな。」
たくも、そう答えてやった。
「それにしてはボロボロだな。何でそんなに怪我してんだ?」
「仕方無いだろ、相手が無茶したんだから。」
それに、それを言うならユウも同じだ、そう言おうと口に出す前にやめる。
普段でさえユウの方が強いのに、明らかに気の消耗度が違う状態で、喧嘩を売るのは不利だ。
一度売ったが最後、怪我人であれ徹底的に殴り付けて、同じ部活であれば、そこでも、ボコボコニヤラレルダロウ
彼のテニスの腕は、並みじゃない。
昨年、新人大会で全国一だった。
・・・まあ、恐ろしいことを考えるのはやめて、取り合えず、当初の目的を達成しよう。
「...しかし、大分広く作られてるね。」
「...ああ。」
今さらそれかと言いたそうな顔だが、先程よりは、真面目な顔つきになった。
通常、結界と言うのは、ばれにくいようにするため、小さめに作られるのが普通である。
理由は簡単だ、いくら普通の人間が鈍感でも、広い範囲において、その中に人間が入りたくなくなるなど、例えその中心に刀を持って暴れまわっているヤクザの集団や、陰湿な殺人犯がいたとしても、絶対にあり得ない。
それが、大規模なテロで警察が包囲網を張っているなら話は別かもしれないが、そんな事態であれば、その範囲の外側であっても、パトカーが道の封鎖をしていなかったり、県下にその事が報道されていないのは、不自然すぎる。
恐らく、警察か、それでなくとも興味を持った何者かが、その中に入ろうとするだろう。
...実際には、常人はその中に入ることすら出来ないか、さもなくば、急に用事を思い出したり、急に戻らなければならない事態が発生したりするだろう。
...結界とはそういうものだ。
しかし、確実にそれは噂となる。
武刀集は、国家の抱える秘密組織だ。
もし、そこから機密が漏れるような事態になってしまたら、武刀集や、他の似たような組織の存在まで、確実に知られるだろう。
そうなれば、国民に後でその行動を知らせなければならない以上、結果として、確実に彼らの行動は、著しく制限されるだろう。
また、その組織に入り、その力を手にいれてから、何らかの野望を達成しようとする輩も要るだろう。
部隊の一員として認められる最低条件は、やはり、現代兵器の中でも、物理的に物体を破壊するもの...分かりやすく言えば拳銃やロケットランチャー等の、単独もしくは数人で持ち運び可能な大きさの武器を一切無力化出来ることである。
そんなやつが、もし町中で暴れまわれば、数万人単位で被害が出るだろうことは、容易に予測できる。
何らかの火器を無力化できる以上、それと同等、もしくはそれ以上の攻撃法を持っているだろう事は、容易に想像がつくだろう。
攻撃力と、防御力が一致するわけではないにせよ、用心に越したことはない。
何れにせよ、そうなれば、普通の軍隊では手に終えないだろう。 ...まあ、国家のお偉いさん達等の利権が守られると言うことが、大きいのは確かだが。
国家のような組織であれば、利権をもたらす事の方が多いものもある。
この事が、国民に広く知れ渡ってしまえば、独占することは難しくなるだろう。
だが、その力は強力過ぎるが故に、個々人には、とても扱いづらい物だ。
下手をすれば、個人の不手際で一都市丸ごと壊滅することすら、あり得ない話ではない。
...だから、日本政府のしていることを、その事を知っている誰もが見て見ぬ振りをしなければならなくなる。
実際、過去にはこのエネルギーの存在を知ってしまった人たちがいる。
その人達がどうなったかと言うと、全員、よほどの有名人か、さもなくば、その国家にとって有益だと判断された一握りの人間以外は、全員自分達のような組織によって始末された。
その、一握りの人間達は、その国家に協力する事を条件に、命を狙われずにすんでいる。
...半ば脅しに近いらしいが。
まあ、余計な話は後にするとして、問題は、この広さだ。
たかが6人が戦うには、この戦場は広すぎると言わざるを得ない。
もし、これらの力が一般人に知られたとき、動きづらくなるのは彼らも同じはずだ。
どこのどんな組織であっても、今以上の不確定要素を作ることを嫌う。
何があっても不用意には動けなくなるからだ。
すべての人間が力を手に入れたとき、何が起こるのか、その実際は誰にも分かっていない。
自分達の組織に都合のいい人間だけが、力を手に入れる訳では無い。
同時に自分達の組織に敵対しうる人物すら、力を得る可能性がある。
今まで一般人をいいように利用していた、すべての組織が、その大衆の力を利用できなくなる。
物理的な力ではなく、表側に存在する、どのような組織にすら、平然と圧力をかけることができる、集団の圧力だ。
もし、これらを失って、すべての人間がどこかの組織に所属することにでもなれば、最悪“裏”で行われていた抗争のすべてが激化して、地球滅亡の可能性すら、無くはない。
だから、絶対に、一般人には知られてはならない。
その常識が今、完全に無視された形で壊されようとしていた。
...一体、何が起こってるんだ?
たくは、少し考えてみるが、全く理由が分からない。
まあ、考えただけで全てが解れば、誰も苦労しない。
それに、実働部隊である彼等には、それが分かったところで、何の意味もない。
ただ、上の指示に従って、戦うだけだ。
そう思い直し、今、自分達に出来ることを、模索する。
そうこうしているうちに、目的地についた。
何故か色々場所を変えていたため、先回りして待ち構えるのに苦労した。
やはり、予想通り西仁達が此方の方へ向かってきた。
「おい、手を貸そうか!!」
ユウが、西仁に向かって叫んだ。
西仁は、見るからに苦戦していた。
「いや、良いです。俺一人で何とかします。」
いつの間にか2丁拳銃に持ち変えていた西仁が、必死の形相で叫ぶ。
だが、実際は今にもやられそうだ。
無理もない、実力云々ではなく、攻撃が全く聞いていないのだから。
確かに、この三人の中では、彼が最も未熟だ。
だが、それは非力と言うことではない。
少なくとも、上級部隊等の中でも10本指に入るらしい。
その、上級部隊と言うのが、どれだけの規模の部隊なのか、誰も知らないが。
ジッチャン辺りなら知っているかもしれないが、所属の違う自分達に機密は話せないと言うことらしい。
何せ、将来的には入ることになっているらしいので、現在所属がその中になると言うことらしいが、今は、まだ訓練中扱いらしいので、上級部隊の事を殆んど教えてもらっていない。
...実際には、本部や重大なパワースポット近くに住み込みで働いている、武刀集の殆んどは、上級部隊の所属らしいが。
だが、そんな、武刀集でも指折りの実力者が、珍しく押されている。
銃ゆえに、近接格闘に弱いのは分かる。
けれども、当たっているはずなのに、全く攻撃が聞いていない等、あり得ない。
あれがただの銃であれば分かる、武刀集等の“裏”特殊部隊とは、先程もいったとおり、銃等の持ち運びができる火器を、何らかの方法で無効化する事が出来る実力の持ち主である。
それくらいはまず当たり前と見なしていい。
だが、あれは、地磁気を利用して、そのエネルギーを何倍にも高め、気によって威力を増す、一撃必殺といっても過言でない力を持った、使うものによっては、ミサイルすら比較にならない威力を出す、特別な銃だ。
磁気は、人間の“気”と密接な関わりがある。
正し、磁気=気と言うわけではない。
ただ、何故かは知らないが、磁気によって肩凝りを直せるらしい事が知られている。
科学的根拠など皆無だが、実際にそう言った、知識は一般人のなかにも溶け込んでいたりする。
だが、地磁気の異常のある場所に人間が行くと、体調を崩すことがある。
その様な人間を見ていると、気の異常が見て取れることがある。
体調を崩した時も、確かに気の異常は出るものだ。
低度な能力者等は、それが理由で能力が一時的に使えなくなることがある。
ホルモン異常、精神的なダメージ、何らかの暗示、体の不調etc.
これらは全て、能力者が能力を使えなくなる原因だ。
あくまでも一時的なものに過ぎないから、普通は能力を何処かの段階で取り戻す。
だが、人によっては不安のあまり二度と戻ってこなくなることもある。
だから、武刀集の殆んどは、この知識を幼い頃に叩き込む。
だが、磁気異常の時の気の乱れは、明らかにそれらのものとは違う。
まるで、気そのものが、何らかの能力によって外部からの影響を受けたとしか考えられないくらい、気にしか異常が無い。
体の異変がある時は、その乱れによって引き起こされた事象であると考えた方が、案外治療が早くいく。
彼の銃は、その理論を応用したものだ。