侍の心得2
「あたれ~この鬱陶しい奴に」
心の中でそう願う
…しかし、それだけで一度もかすりもしなかった刀が当たるはずもない。
だが、その時、三人の頭の中に予期しなかった人の声が響いた。
(だらしないの~、それでも武刀集の端くれか?)
この声には聞き覚えがある。
以前にもこう言うことがあった確か...
「ジッチャン!!」
三人の声が重なる。
また、頭の中で声が響く。
(良いか、三人とももっと冷静になれ、どんな相手でも隙は必ずあるもんじゃ。焦ったら自分の剣技にもそれが現れてしまうでの~、そう言った二重ループに陥るでないぞ~。)
そう言って、またプツリと切られた。
まるで電話の通話を一方的に切られたときのように。
三人とも、動きこそ止めないが、呆気にとられている。
動きを止めないのは、戦士の本能の成せる技だ。
だが、次の瞬間にはまた三人の身体中から闘気が溢れて、皆思い思いの返事を返す。
ユウは、この瞬間に気づいた、自分の攻撃がパターン化していたことに。
どういう事かと言うと、彼は、チャンスがあれば、自分の力量の全てを注ぎ込んでいた。
そこまでは良い。だが、その攻撃がパターン化していたのだ。
相手の攻撃を受け流してから、次に攻めるまでの時間、刀の軌道、そして体の動きがすべて同じだったのだ。
そうなってしまっては、いくら
剣が速くとも、それは問題ではない。
例えば、前述したことが全て分かっていて、自分が攻撃にさらされる瞬間、つまり自分の攻撃が受け流される瞬間が2、3秒前にわかっていたらよほど体制が崩れていない限り十分に対処する時間はある。また、パターン化された攻撃は、相手の足の動きに合わせて動けば、十分に避けられる。
これに、戦士の勘と言うか、戦いなれたもの特有の勘さえあれば、どんな攻撃でも避けてしまえるだろう。
ならば、結論は簡単だ。
此方も相手の予測にない動きをすれば良い。
幸い、向こうも攻撃がパターン化している。なら此方が付け入る隙がある。
ユウは、先程と全く同じ攻撃をしていた。
当然、相手もそれに合わせた動きになった。
相手が自分の動きに合わせて下がった。
だが、彼はそれを狙っていた。
ユウは、体を捻って思いっきりキックを放った。
相手は予期していなかったらしく、もろに土手っ腹に喰らい吹っ飛ぶ。
そこにすかさず呪文を唱える。
「此の地を纏める風神よ、我が意に従い風を起こせ。”神刃斬業“」
風が起こり刀に纏わりつく。
それが光の軌跡を残しながら敵に吸い込まれるように引き寄せられる。
敵は辛うじて反応したらしく短刀を出して防ごうとする。
しかし、双方に予想外の出来事が生じた。
刀と刀がぶつかり合い光が弾ける。
しかし、彼には敵の短刀が自分の刀で断ち切られる瞬間が確かに見えた。
「!!くっ」
敵は呆気なく吹き飛ばされ転がった。
ユウは呆然と立ち尽くしていた。
通常、刀で刀を斬ると言う技術は存在している。だが、それは“オリハルコン”や、“イロカネ合金”と呼ばれる特殊な超常の金属で鉄や錫等の普通の金属でできた刀を斬る技術だ。
少なくとも、相手の刀がそんな物で出来ているとすれば、もうすでに斬れていたはずだ。
彼自身は知らぬ事だが、敵の刀は鉄で出来ており、それに大量の気が込められていたために、通常より遥かに頑丈に為っていたにすぎない、だから今まで斬れることこそ無かった。
しかし、実はそれも時間の問題であった。ユウの持つ日本刀はとある名人の編み出した幻の合金、“オリイロ”と呼ばれるオリハルコンと、イロカネ金属を掛け合わせて造られた特別な名刀である。
実は、打ち合う度に相手の刀は刃こぼれしていた。
そこにあの技“神刃斬業”だ。
あの技は、刀の周囲の空気を薄くして摩擦を少なくすると同時に体を風に押してもらい、音速を越える速さを産み出すと同時に空気圧の違いにより、衝撃波を刀の周囲に閉じ込める技である。
此の二つが掛け合わされば、例え相手の刀が超常の金属だったとしても、これを受け止めることは不可能だ。
但し敵は死んでいない。
ユウが聞いているのは此の刀が生物を斬らないと言うことである。
斬るのは無生物と相手の意識だけだ。
...それがこの刀“守請神”である。
一方たくも、懸命に相手の弱点を探していた。
たくが思ったところには、相手は一見無限に弾を撃っているかのように見えるが、それはあり得ない。
何故なら、自分達の知識の中では、例え科学で解明されていないエネルギーだろうが、此の世界に何らかの影響を及ぼせる以上、物理の法則に反することは出来ず、それが永遠に続くことはあり得ない。
だが、例外はある。
地脈や太陽光、有りとあらゆる物質から、”外気”を取り込み利用する方法である。
この方法はとても難しく、武刀集でさえ、10年ほど前に初めて実践技術として取り込まれたほどだ。
それほど、この技は、レベルが高い。
だが、それ故にこれを極めれば半永久的に力を使うことが出来るとも聞いた。
万が一を考えて、回りの気の状態を探ってみる。
相手の体の外側に、気の流れは余り無い。
有るのは、相手が放つ気迫と銃弾に含まれる気だけだ。
“よし、だったらあれしかない。”
たくは覚悟を決めて突っ込むタイミングを見計らう。
と言っても、勝算は十分にあった。
敵の体から放たれる気迫から、相手が最大で放てる銃弾の射撃時間は予測できた。
...ただ、相手が力を隠している可能性がある。
その場合近づいた瞬間集中砲火にあって即アウトだ。
だが、それ以外に勝てる方法が見当たらなかった。
丁度、後10秒くらいで弾が尽きる。どちらにしろ、チャンスは無駄にしたくなかった。
たくの体の中で気が練られて、槍先にそれが集まって行く。
敵の集中砲火が止み、次の攻撃のための気が練られる。
だが、同時にたくも詠唱を完成させていた。
「風と速さを司りし韋駄天よ、我に至上の速さを“神速来光”」
瞬間、数十メートルの長さを縮めて間合いがゼロになる。
しかし、ちょうどその時敵の身体中の銃口がたくの方を向いた。
どうやら、罠だったようだ。
敵は弾を撃つ力を残していた。
だが、通常攻撃や、ただの遠隔攻撃などとは違い、ユウやたくの使う武術“気刀術”は、かっての忍術や陰陽道の武術をベースにしているため、彼らと同じく呪文を唱えない限り、敵の攻撃を無効化したり逆に相手の装甲を打ち破り敵の本体にダメージを与える攻撃を出すことができない。
しかし、たくはこれをも予想していた。
「“雷来発破”」
彼はいきなり技を発動させた。
予期していなかった敵は、もろにそれを受け止めた。
装甲は弾け飛び、銃は使い物にならなくなった。
敵は、しばらく痙攣していたが、やがて動かなくなり、前向きに膝をつきながらゆっくりと倒れていく。
相手の装甲や残っている気から瞬時に大体の耐久力は予想してあるため、死んではいない。
たくがどうやって技を発動させたか、それはマンガやアニメで最近はやって来た“無詠唱”である。
一見簡単そうに見えるが、実はかなりの無茶である。
現代における、武刀集の秘密研究部門、“神の掟”によって、研究され尽くしてきた最新オカルト技術や昔ながらの“言霊理論”等の様々な技術があの詠唱の中に込められている。
それは、戦いの場においては時に弱点になり得るものだが、使いようによっては強みにもなり得る。
中国に有る気功部隊は確かに強力で、武刀集も何度も苦戦させられたが、彼らの国はオカルトを認めないため、彼らの政府が指定した、“健常な気功”しか認めていないため気功や道教の理論を例え有効に活用できても、他のオカルト理論を全く使っていないため、最終的にはそれが決め手となり武刀集が勝利することができた。
他にも、強力なパワーが必要な場面において、様々な国の多種多様な考え方を事態に応じて柔軟に吸収してきた武刀集の理論がそれを補い勝利に導いた。
たくが行ったのは、強力な陰陽道等に代表される呪術と、古流柔術等に代表される武術理論を組み合わせた、武刀集独特の技である“霊技”をそれらの理論の補助無しに使ったのである。
片方だけでも相当の力が必要なのに、それを使わないと言うのは、無謀と言う他無い。
先程触れた“外気”でも使っていれば話は別だが、当然、そんな余裕はなかった。
だから...




