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【不自由を求められた男】

 あのビル火災から一週間経った。

 幸いにも僕ら三人には怪我もなく、猫カフェも人・猫ともに被害はなかったそうだ。一番燃えていた四階はテナントを募集していた空きスペースで、何者かが放火したらしい。

 僕とハルカさんはあのあと屋上からヘリコプターで救出された。最初は放火の犯人の疑いもかけられそうになったが、防犯カメラに怪しい人物が放火した瞬間の決定的証拠が映っており、僕らの疑いは晴れ、現在その人物の行方を調査中とのことだ。

 しかし開かないはずのエレベータが開けられていたところなどは謎のままらしい。まあ、多分科学の力に頼っているうちはその謎は解けないだろうな。


「キイちゃーん! 遊びましょっ! こんどネコ駅長の居る駅に連れてったるから!」

「……ここから何分かかる?」

「バイクで三十分や。オレの後ろに乗ればあっという間やで」

 今日も誘惑に負けて、ドアを開ける。

「おはよう。よっし、今日はマルオカートで勝負や!」


 無邪気に笑うアキトを見て、僕は気付いた。

――やはりこの人は今まで、わざと能力を使わなかったんだ。

 この人にとっての幸せはきっと、金でも血のつながりでも名誉でもない。『家族』と呼べる存在なのだ。僕のような義理の親族から、ハルカさんのような親友まで、この人にとっては『家族』であり、幸せそのものなんだ。だから能力を使って、財や愛をつくる必要もない。超能力は彼にとって幸せではなく、あくまで、便利なツールでしかない。

 ふと、僕にとっての幸せは何か考えてしまった。

 明確な答えはまだ出ない。しかし、この新たに増えた面倒な親族から与えられる「不自由さ」は、少し苛つくけど、なんだか不思議と楽しい。「根拠はないけど、いつか彼の存在から答えが導きだせるんじゃないか」――今はそんな気がしている。




【閉幕】


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