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【不自由を求めた男】

※元が縦書きで書かれた物なので、縦書きモードにするか、PDF形式で読むことを推奨します。PDF形式が一番見やすいです。

 僕はずっと「不自由」に縛られていたい。それが僕の幸せなんだ。


 家から出られない。人とまともに話せない。学べない、働けない、何もできない。そんな僕を置き去りにして何食わぬ顔のまま地球は今日も回っていく。それで構わない。デジタルの世界の底に沈んだまま、廻り続ける他の存在を遠くから眺めるだけでいい。「不自由」という毛布が冷たい世間の目から守ってくれる限りずっと、傍観者であり続けたい。

もう、誰かと関わって傷つくのは嫌だ。


 カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、布団に入りながらパソコンを見詰める。画面に映っているのは生まれて数カ月のアメリカンショートヘアの子猫。猫じゃらしに必死に食らいつく姿が愛おしく、観ていて自然とニヤニヤしてしまう。

 人間にはもう関わりたくない。この子のような可愛い生き物や、アニメやゲームのキャラクターのような作られた存在とだけ接していたい。自分でもこんな考えはおかしいのはわかっている。しかし、この不自由さを手放したくない。

「きーいーちゃーーん」

 だが、僕の毛布をひっぺがしてくる存在が、今日も来てしまった。

「キイちゃーん。キイタちゃーん。あっそびましょー」

 どんどん、ばたばた、こんこん。

 その男は、呑気な声と共に、部屋のドアに対しあらゆるアプローチをしかけてくる。

――なんで超能力を使わないんだろう。

 開けるならさっさと開ければいいのに。煩わしい。

「うっせえなあ、遊ばねえよ! どうせあんたの指す『遊び』は普通の意味じゃないんだろ!」

 僕の叫びに拗ねたような言い方で答えが返ってくる。

「えー、そんなことないで? 今日は一緒に街に出ようと思ってたのに」

「街に行ってなにするんだよ」

「ナンパのレクチャーでも――」

「やっぱり変な意味じゃねえか! 断る! 断固拒否!」

「えーやんかー。年頃なんやから遊んどかんとアカンで。若いっちゅうだけでチヤホヤしてくれるんやぞ? おっちゃんからしたら羨ましくてしゃあないわぁ」

――腹が立つ言い方だ。

「僕は女なんか興味ない。頼むから今日は帰ってくれ」

「ほほう、男になら興味あるんか? ほんならおっちゃんと二人で別の『遊び』しよか」

「断固拒否!」


 迷惑な存在――義理の伯父、炭谷アキトのことだ。

 彼は母さんの再婚相手である炭谷ユウトの兄。ただでさえ立場がややこしいのに、性格までややこしいので本当に困り果てている。

 最近は大体週に二日くらいはこうして僕のところにやってくる。どうにかして僕を外に出したいらしいが、方法が極端すぎる。こないだは「出てこないと部屋に毒蛇放り込むで」と言っていた。もちろん本当には放り込まれなかったが。

「あーあ、ええんかなあ。このままずーっと引きこもり続けとったら、またキイちゃんに『いたずら』してまうで。ええんか?」

 アキトの言葉に背筋が凍り付く。

――あれだけは勘弁してほしい。

 あんな想いはもう二度としたくない!

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。それは困る。分かった、少しは考えるから」

「せやろ。いい加減少しは外に出てやなぁ、いろんなもの見よーや」

「そうだな……変なところじゃなければ、考えてやるよ」

「例えばどんなとこ?」

「……映画館とか」

「ほほう、初デートみたいでええなあ」

 声色が笑っている。姿は見えないがアキトは絶対に今ニヤニヤしているはずだ。

「妙なこと言うなよ、気持ちわりいなぁ。じゃあ……近所のスーパーとか?」

「ふふん、家族みたいでまたええなあ」

「だから変なこと言うなって! うーん……あれだ、ゲームセンター!」

「そうや、ゲーセンでプリクラとるかー。ラブラブカップルみたいやなー」

「だからー! ……はあ」

 もう呆れ果てて、大きくため息をついてしまった。こういうノリは本当に苦手だ。本気で言っているわけではないのはわかっている。しかしそれでも、アキトに迫られるようなことを言われると妙に精神的ダメージを喰らってしまう。

「もういいや。やっぱりどこにも行かない」

「あー……すまん、ちょっとからかい過ぎたな。真面目に考えるから許して」

「もう帰ってくれ」

「……そか。ほんなら、また今度な」

「二度と来なくていい!」

 

 ドアの向こうで、階段をどたどたと降りる音が聞こえた。


――やれやれ、今日もどうにかやり過ごしたか。

 それにしても変なやつだ。

 あの超能力を使えばいつだってあのドアを開くことができるのに。

 なんでわざわざこちらが開けるのを待っていたのだろうか……。


 カーテンを少しだけ開けて外を覗くと、アキトが家から出てバイクにまたがる姿が見えた。

 アキトはヘルメットをかぶりながら、こちらを見てきた。そして小さく、手を振った。

「(またな)」

 口の動きから察するにそう言ったのだろう。諦めの悪さに呆れて、溜息が出てきた。







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