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IF設定-限定SS もしもレギンさんが調査隊として乗りこんできたら

この物語はこのお話のためだけに特別な設定で進んでおります。

どんな可能性を当ててもこの結果にはたどり着きませんが問題ありません。


またこのお話は総合10.000pt突破記念として作られました。

 法国の調査隊が突然、リーングラードの調査に訪れると聞いた時、私ことレギンヒルト・R・ジークリンデはまたヨシュアンが変なことに巻き込まれたのではないかと、ひっそりと心配していました。


 いえ、ひっそりとではなく、焦燥に駆られてと言っても良かったと思います。


 間違いなく何か問題が起きていて、いつものようにヨシュアンはその中心か、解決するための近くに居ます。

 予感よりも正確な想像でした。想像できないはずがありません。


 彼は常にそうして、危険に身を浸しています。


 まるで『死ぬことを望んでいる』かのように。

 まるで『この世と自分を天秤にかけて躊躇いもなく前者を選ぶ』かのように。


 あの『ぬけがらのような姿の時に死ねなかった』から、危険に身を晒すことも厭わないのではないかとさえ思います。


 そうした姿を見るたびに私は冷たい刃で胸を刺されたような気持ちを味わいます。


 私は貴方に生きていて欲しいと願うのに、そんな気持ちは今も理解されません。

 いっそ鎖で縛りつけて、小さな箱に私と共に閉じこめてしまおうかと考えると、ヨシュアンはそういう時だけは私の気持ちを理解して、とても嫌そうな顔をします。


 とても不安です。

 今、目の前にいないことがとてつもなく不安で、たまらなくて、だから――


「ランスバール陛下。此度の王国調査隊に私を加えて頂けませんか?」


 ――そう願いました。

 ランスバール陛下は奇妙な行動ばかりする方ですが、それでも機微に疎い方ではありません。

 それにリスリアの守護職たる【タクティクス・ブロンド】からの正式な願いを無下に扱えはしない、そうした算段がなかったとは嘘になります。


 するとランスバール陛下はとても困った顔で頬を掻きました。


「あー? んー、つってもな、お前の出番ねぇし」

「是非、私に」

「や、だからな? 試練官として行ったろ。持ち回りにしねぇとだな?」

「高位の司祭位を持つ私なら、先方も失礼に当たらないかと」

「そういう話じゃなくてな? お前、絶対、狙いはヨシュアンだろ。わかり易すぎんぞ」

「ヨシュアンはとても大事ですが、此度の件は前例のないことでもあります。そうなればいざという時に守護職の私が向かってもおかしくありません」

「さりげなく本音ぶちかましてんじゃねぇよ。あー、もう面倒だから行け! なんかあったらアレだ、ヨシュアンがなんとかすんだろ」

「ありがとうございます陛下。ご理解いただけて」

「……無理矢理、理解させといてそれかよ」


 これで晴れて私は再び、リーングラードの地に足を踏み入れる運びとなりました。


 きっと彼に私の手助けなんていらないのでしょう。


 今までも何かをするときに相談はおろか、気づかれることすらさせずにいました。

 それに『気遣わせないように何も言わなかった』と自らに言い訳し続けるのも虚しくなってきました。とても虚しかったです。


 だけど、リーングラードで話し合った時に少しは私を想う心があると知り、彼を信じることをもう疑わないと決めました。

 

 だから、今度は――いえ、今度こそは彼の助けとなるために私は向かいます。



 なのにどうしたことでしょう?


 調査隊との情報会を終えた後に私を迎えたのは『膝の上に姫様を乗せたヨシュアン』でした。


 目を何度か瞬きしても夢でもなんでもありません。

 ヨシュアンの家に入ってすぐ飛びこんできた光景のままでした。


「――ヨシュアン?」

「……違うんです」


 驚きよりも引きつった顔で再会した私たちを、膝の上の姫は不思議そうな顔で見比べています。

 せっかくまた会えると思ったのに……。


「うむ。汝が王国側の調査隊の責任者じゃの! 妾はアルファスリン・ルーカルパーラ・ユーグニスタニアじゃ」

「初めまして姫様。私はレギンヒルト・R・ジークリンデです。第十三代【タクティクス・ブロンド】が白銀位を務めております」


 姫様は膝の上を降りずに、当たり前のように名を述べました。


「そして、今まさに姫様が下に敷いているヨシュアンの許嫁です」

「ちょっと待ちましょう、レギィさん。それは不必要かつ不確かな情報です。開示に向きません。考え直してください」


 間違いは何一つ、ありません。


「む! 許嫁がおったのか?」

「色々とありまして……、具体的には知らない間に」

「ジークリンデと言えばリスリアでも有名な貴族じゃろう? 前に貴族ではないと言っておったのに貴族を許嫁に持つのは何故じゃ? 理に合わなかろう」

「理は家出しました」

「なら、仕方ないの」


 何故か妙に息があっている二人でした。

 まるで『見せつけられている』ように見えるのは気のせいでしょうか?


 ヨシュアンは私のものなのに。

 私はヨシュアンのものなのに。

 私とヨシュアンを時間と空間は区別するけれど、同じものなのに。同じなければならないのに。私だけのヨシュアンでヨシュアンだけの私なのです。


 ギュルギュルと渦巻く飢餓感が私の胸を締めつけます。

 それは出してはならないものです。だから、抑制法による戒めで封をしながら『どうすれば二人を引き剥がせるか』を考えます。


 一秒足りとも、そこに居させてはいけません。

 そこは私の席です。誰にも譲りません。


「だが、いかんぞレギンヒルト卿! ヨシュアンは妾がもらうのじゃ!」


 ピキリと鳴る音はきっと戒めが砕けそうになった音でしょう。


 ですが、ここで心のままに詰め寄れば、きっとまたヨシュアンの負担になります。

 重たい女であってはいけません。それはエドウィンからも注意されています。


 夫は身軽に、しかし、必ず妻の元に帰ってくるように仕向けるものです。


「えぇ、理解しています。またですね?」

「まるで自分が悪いみたいな言い方、やめてくれません?」


 そんなつもりはありません。

 ただヨシュアンは昔から私をそうしてヤキモキさせます。


 悪気がないことも重々、わかっているつもりです。


 行為で私に気遣ってくれていることも知っています。

 言葉で安心させるようにしてくれていることも知っています。

 時には喧嘩もありましたけど、乗り越えて絆を深めた自信もあります。


 きっとヨシュアンは私のように私の幸せを願うでしょう。

 それでも不安になります。


 何故なら私は一度として『ヨシュアンから好きと言われたことがない』のですから。


 その言葉は決して言いません。

 急かして、強いて、言わせてはいけません。

 殿方から言って欲しいと願う心もあり、ヨシュアンから求めて欲しいと願う心もあり、何よりも負けてしまうようで、でも負けてしまいたいとも願っている心をどう伝えようがありますか?


 そんな矛盾をそっと汲み取って欲しいと願っても罰は当たらないはずです。


「そういえば許嫁がおるのに妾の元に来るのも不憫じゃの。ならば共に来るがよいレギンヒルト卿!」

「「それはいけません」」


 私とヨシュアン、両方から言われて姫様は目をどんぐりのように丸めていました。


 ヨシュアンと心が通ったような気がして嬉しく感じるも、浸っている場合ではいられません。

 姫様はとてつもないことを言いました。


「アルファスリン君? 【タクティクス・ブロンド】の引き抜きは勘弁してください。戦争になりますよ」

「その通りです姫様。序列を考えますと姫様が正妻になってしまいます。いくら姫様と言えども後から来た妻に先を越されては女が廃ります」

「レギィ。主旨が遥か彼方を旅しています。帰ってきてください」

「ヨシュアン。とても大事な部分を話しています。あと、私の元に帰ってくるのはヨシュアンです」

「……話し合いをしましょう。今のレギィはちょっとどころか……、うまい言葉が見つかりませんね。率直に言って黙ってろ」


 あ、今のは少し男らしかったです。

 時々見せる昔の口調や仕草はとても良いです。


 あの時から『ヨシュアンは変わってしまった』ので、そうしたヨシュアンらしい部分を見ると安心します。

 同時にヨシュアンを変えてしまった私にとっては、荒地に水を引くように贖罪を意識させます。


 許されたと思ってしまうのです。

 本当はまだ許されていないと知っていてもです。


「仲が悪いのかの?」

「そんなことはありませんっ。ヨシュアンと私は心が通じています」

「今、まさに通じてなかったような気がしますがね?」


 話は進んでいても、姫様は一向にヨシュアンから降りようとしません。


「とにかく、姫様は一度ヨシュアンから降りてください。男性の上に乗るなど良識のある婦女子のすべきことではありません」

「嫌じゃ。ヨシュアンの膝は乗り心地が良いのじゃ」

「ヨシュアンも何か言ってください」

「モフモフ、助けてください」


 言われてようやく気づきました。

 座椅子の近くにモコモコとした犬がいました。


 ヨシュアンが動物を飼っていただなんて、そんなこと知りもしませんでした。


『――つがいを決めるのは同胞の役目だ』


 しゃべ――言いようのない驚きで私は少し犬から身を離しました。

 どうして犬が喋るのでしょう? ヨシュアンを見ると罰の悪そうな顔をしています。


 ふとヨシュアンの気持ちが理解できました。

 これは、知られては困ることなのでしょう。


 いえ、その前に喋る長毛種の犬、いいえ、狼の神話を聞いたことがあります。

 もしかして『森の大狼』の子供なのでしょうか?


 何らかの事情でヨシュアンが飼ったのでしょう。

 でも、【神話級】原生生物の神狼を飼って問題が起きないはずがありません。


 ここは黙っていて、後でそれとなく聞いておきましょう。

 こうした細かい気配りも忘れてはいけません。


「とにかく離れてください」


 それよりも姫様です。


「イヤじゃ!」

「イヤではありません。そこは私の席です」

「妾の席なのじゃ! 勝手に割りこむとは何事じゃ!」

「当然の仕事です。ささ、降りてください」

「むーりーじゃー!」


 ヨシュアンにしがみついて、そんな羨ましい格好で意地でも降りないつもりですね?


「レギィ、術式を使ったら怒りますよ?」


 先を制されました。

 こういう時だけ本当に鋭くて困ります。


「ヨシュアンもなんとか言え! この女は妾から安らぎを奪おうとしているのじゃぞ!」

「先生は今、色んな自由を奪われていますよ?」

「それは困ったの。誰のせいじゃ?」

「……誰でしょうね」


 うぅ、どうしてそんなに仲が良さそうなところばかり見せるのですかっ。


「ヨシュアンがそこでちゃんと説明しないから、姫様が理解しないのです」

「どうして自分は責められているんでしょうか?」

「そうやってはぐらかそうとしてもわかっています。大体、ヨシュアンは前々からメリハリが効いていません。甘えられて嬉しいのはわかります。でも、ちゃんと男女を分けることは健全な関係を作る第一歩です。それなのにそうしてズルズルと許してしまうから今、困っているのです」

「いや、今、困ってるのはレギィも含まれ……、なんでもありません」


 わかってください。

 私をわかってください。

 ちゃんとわかるように努力しますから、だから、また聞いたフリをして頭を下げないでください。


 でも、本当はわかっています。

 

 私とヨシュアンの間にあるものはきっと言葉一つでは乗り越えられません。

 本当は煩わせるようなことも、言葉も、言いたくありません。

 本当は嫌われたくない、憎まれたくない、貴方のあるがままであって欲しい。

 でも、そんな私を貴方は嫌うでしょう?


 言いなりの姫なんてイヤだと想うでしょう?


「レギィ、少し静かに」


 なおも動く口はヨシュアンの指で止められました。

 そして、下を指すと姫様が目を瞑り、うつらうつらとしていました。


 姫様はヨシュアンの手を握って、とても心安らいだような顔をしています。


 もう何も言えません。

 そんな困ったような、優しすぎる顔をされたら私は何も言えません。


 ただヨシュアンの手を取り、そっと膝をつきました。

 

 言葉ではなくこの体温が私の言いたいことを伝えてくれると信じて。



 えー、この状況はなんと説明すべきでしょう?

 自分がアルファスリン君のわがままを聞いていると何故か現れたレギィに説教され、終いには手を握られ、体重を預けられています。


 膝の上のアルファスリン君が寝て、隣のレギィもなんか寝始めました。

 足元でモフモフも寝ています。


 自分は身動き一つ取れません。

 どうしたらいいんでしょうね?


 いっそのこと、自分も眠ったほうがいいのかもしれません。


 しかし、嫌な予感がして堪りません。


 例えばそう、近づいてくる小さな気配を理解していても全然、どうすることもできない部分とかです。


「せんせぃ、レギィさまがかえって……」


 扉を開けて社宅に入ってきたセロ君はこの状況に目を丸くして、そして、ぷくぅ~と頬を膨らませました。


「そういうのはずるいのですっ」


 怒られてしまいました。

 何故でしょう。意味がわかりません。

 そうしてセロ君はレギィとは反対側の隣に座り、自分に体重を預けてきました。

 グリグリと頭をすりつけて、そのまま目を瞑り始めました。


 絶対に抜け出せない包囲網が完成した瞬間でした。


 というか逃げられません。


 行き場のなくした視線は自然と天井に向き、そして誰にも聞かれることのないため息は室内に溶けて消えました。


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