第2話
「むぐむぐ…、ところでちゅーさは?」
美香子はサンドイッチを食べながら、真理に尋ねた。
「まだみたい…あ、来たよ」
すると、同じく若草色の軍服を着た男性が入って来た。
「む、今日は速水が遅刻していない…」
その人物は美香子を見て少し驚いていた。
彼は中山徹、自衛官だったがこの学校が設立された際にスカウトされた。階級は中佐。40歳を過ぎたその風貌は、いかにも軍人と言った具合である。
「ごくんっ、おはようございます」
美香子は口の中の物を飲み込んでから挨拶をした。
「いえ、速水中尉は先ほど来たばかりです」
真理は教室の時計を見て言った。その時彼女の口調が変わっている。目上の者、特に上官に話すときはその人の階級も言う事になっているのだ。
ちなみに時刻はすでに9時を過ぎている。
「そうか…、今日は会議も長かったからな、いても当然か…」
安心したような表情を浮かべ、中佐教室の中央に向かった。この教室では美香子が早起きするときは決まって何か起きるとされている。
「あたしは疫病神か!!」
彼女は天井をにらんで叫んだ。こっちを向くな。
「どうした速水?」
突然叫んだ彼女に中山中佐が尋ねた。真理も不思議そうな顔で美香子を見つめている。
「あ、何でもないです…」
そう言って美香子は鞄を置いた席に座った。真理も彼女の隣に座り、中佐の話を聞き始めた。
今のうちにこの学校の事を軽く説明しておく。
ここ「特設第一士官学校」は士官学校と名のついてはいるものの、防大の一つである。
そこに一般の高校と四年制の大学が入っているような感じの場所である。
そのため在籍期間も長く、15年制と長くなっているが、ある程度単位を取ると7年目にこの学校を抜ける権利が与えられる。その場合、中退ではなく大卒と言う形で扱われる。ただし、一度進学を決めてしまうと後戻りはできず、そこで抜けると今度こそ中退になってしまう。さらにここには留年制度はないため、15年目に卒業できなけなくても中退扱いになってしまう。まさに実力社会なのある。
服装も厳しく、ほとんどの物が男女共通している。まず制帽。これは外では必ず被る決まりになっている。
上の服は指定された若草色の軍服である。下まで男女共通でズボンになっており、ついでに女子もネクタイを身に着ける事になっている。最も、軍服にスカートと言うのもおかしなものであろうが。
靴は当然革靴だが、特定の場所では動きやすい別の靴を履いても良いことになっている。当然指定されているものである。
いま彼女たちが着ているのはフォーマルなタイプで、儀礼用、夏季用、冬季用など色々ある。
一部の者は、それらを全て自費で購入する事が可能、申し出れば支給もされる。
「以上。解散」
中山中佐は手帳を閉じ、教室を出口に向かった。その際、美香子が「あ」と間抜けな声をあげた。
見ると中山中佐が彼女の席にあった最後のサンドイッチをちゃっかり掴んで出て行ったのだ。
「持ってかれたね」
「うん、持ってかれた」
そういうと美香子は空っぽになった皿を鞄にしまい入れた。
「今日って最初なんだっけ?」
「数学だよ」
「あ、そっか。よっし頑張るか」
そして数分後…