第1話
2035年、東京近郊に「要塞都市」と呼ばれる都市が存在した。無数の砲台と高い防壁に囲まれたその町は、外側から見るとまるで巨大な要塞のように見えることからその名がついた。
それを肯けるように、町の内部には軍用車両専用の道路が敷かれていたり、至る所に銃砲店や射撃場がある。
この都市にはオリジナルの「群隊」を持っている。
一応ここも日本の一つなので、憲法は日本の物が適応されている。だから軍隊は持てない。そこで考え付いたのが「軍隊」ではなく「群隊」と一部名前を変える事であった。何とも間抜けな考えではあるが、中身は軍そのものである。
そんな要塞都市の住宅地にある一軒の家の中から、ガンッ!という鈍い音が響いた。
その家の一室では、長い黒髪をした女が一人、ベットの上でうつ伏せのまま、両手で頭を押さえていた。
「いきなり何すんのよ!明日!!」
彼女、速水美香子は起き上がって傍にいた人物に叫んだ。
「いつまでも起きぬからだ」
明日と呼ばれた、紫がかった髪をした男は当然とばかりに言った。
「だからってそれで殴る必要は無いでしょうよ!!」
美香子は彼の手に握られている物を指さした。そこにあったのは、
「こうでもせぬと起きんと思ったからだ」
「せめて声かけてよ!!」
「かけたぞ?それでも起きぬ貴様が悪い」
約3分前…
『美香子、朝だ』
朝、黒いエプロンをつけた明日が、美香子の部屋の前で呼びかけた。しかし返事は返って来ず、彼はドアを開けて中に入った。
そこにはピンク色のパジャマを着た美香子が、うつぶせの状態で爆睡していた。毛布をふっとばし、手をベットの端からはみ出し、腰にまで届く髪はだらんと垂れて地面についてしまっている。
『おい!起きろ!!』
『…んが?…く~…』
一度は目を開けたが美香子だったが、再び目を閉ざした。
『こやつめ…、はよう起きぬか!』
彼女の肩をつかんで揺すったが、それでも起きる気配がない。
『う~ん…、あと3時間…』
『ふざけるな!』
明日は右の腰にさしていた剣の表面で美香子の後頭部をはたいたのだった。
「それより早う支度せぬか」
「ふえ?」
美香子が壁の時計を見ると、針は8時半を示していた。
「げぇ!やっば!!」
「まったく…」
ベットから飛び降り、あわてて支度を始める彼女に、明日は溜め息を着いた。
要塞都市の中心に近い場所に「特設第一士官学校」と言う学校がある。そこはこの要塞都市の中でも最も大きな学校であり、広大な敷地に加え、戦車・戦闘ヘリ・戦闘機・さらには戦艦に空母等々、さまざまな戦闘兵器を保有しており、対空砲、レーダー基地、トーチカ等々何でも揃っている。
いくら要塞都市と言えども、ここまでそろっている場所はここだけである。
当然校舎も広く、ここには最大で5万人の生徒が通っている。すると、
がららっ!!
と勢いよく教室のドアを開けたのは、
「はぁ、はぁ…、ま、間に合った…?」
ドアを開けた者、それは若草色の軍服に着て、金色の桜の帽章が付いた制帽を被り、手に茶色の鞄とサンドイッチが盛られた皿を持った美香子だった。
「セーフ…」
彼女は近くの空いている席に鞄を置いた。すると、
「おっはよ~、美香子ちゃん!」
元気よくやって来たのは鈴木真理という女子で、茶髪の髪をツインテールにした、少々背が低い人物である。
「おはよ、真理ちゃん」
「またお寝坊さん?」
「あははは…」
「もう、あんまり明日君を困らせちゃだめだよ?」
「へーい。あむっ」
彼女は返事を返し、サンドイッチをかじった。