戸隠
キイイイイイン。
金属のような高い音を立てて、母が作ったガラスのお守りが
光って宙に浮いた。
同時に砕けて、破片が晃一の顔をめがけて飛んだ。
「うあっ」晃一が力を緩めたのと同時に、
美和は咳込みたいのを我慢して、相手のみぞおちに肘打ちした…
と思ったら、抱えられてふわりと体が浮いていた。
ゲホッ ゲホ ゲホッ。
咳込む美和を肩に抱えたまま、すとんと着地したのは
白銀の髪をなびかせて、黒いマスクをした戸隠だった。
「一撃入れたね。よくできました」
「と…戸隠さん」
「大丈夫?」
「は…はい」と言ったものの、安心して涙が出てきた。
「ギリギリだったみたいだね。間に合ってよかった」
晃一を見ると倒れていた。
「後頭部に手刀を入れたから、しばらく気を失っているはず」
安心してあらためて戸隠をみる美和だったが、
その姿に目をパチパチさせた。
戸隠はいつもの和装ではなく、TシャツとGパンだった。
いったいどこから手に入れたのか…。
それにしても、この姿でバスに?それとも電車?
どちらにしても、外国のモデルみたいで目立っただろうな。
と美和は思った。
「…スカウトとか、されませんでした?」
「いえ、特には」
さすがにちょっと間抜けなことを聞いてしまった。
「あの…助けてくださってありがとうございました」
「いえいえ。 狐の末裔とやらに会いたかったのだけど、
私欲にまみれた人殺しとは、くだらない人間でした」
「あ…母のお守りがすごい事に」
ガラス玉の欠片が首から下がっていた。
「さすがは藤子さんだ。効果抜群です」
*
ユラリ…。
倒れている晃一の上に、黒い影が覆いかぶさった。
影の中に優香が見える。
「優香さん」
「殺されたという女性だね。いるのかい?」
「はい。男の耳元で何か囁いているみたいです」
「何でしょう?どんどん黒くなっていってます」
「邪気が大きくなってきているな」
視えないが、気配を感じることはできる戸隠は、
ゾワゾワと背中の毛が逆立つ感じがしていた。
「優香さんっ。優香さん落ち着いて」
声をかけるが、優香は黒いモヤに包まれていく。
その中から気の塊のようなものが飛んできて、美和の頬を切っていった。
「美和っ」
戸隠が自分の身体で庇うように、美和を抱きかかえる。
気の塊はますます飛んできて、戸隠の腕や肩を切っていく。
「このままだと戸隠さんが…。どうしよう」
と、戸隠は鉄扇を広げて飛んでくる塊を防いだ。
さて、実体がないからどうするか。魂ごと吹き飛ばすと
美和嬢が怒りそうだしな。
と考えていると、美和が手を伸ばした。
黒いモヤは大きくなって、届きそうになっていた。
「優香さんやめて。しっかりして」
そしてつい、モヤを掴んでしまった。
パアアアアア…。
光が広がって、邪気が分散されて消えていった。
握った美和の手から、残骸のような煙が立ち上がっていた。
「消したのか。大したものだ」
「どうなっているんでしょ?知らないうちに消えました」
戸隠は微笑んで、
「さて…。どこの狐の血族かは知らないが、
末裔にわたしからひとつ贈り物をしよう」と
倒れている晃一に近づいた。
「狐族の名を汚した罰を受けるといい」
晃一の額に手をかざすと、掌から青白い光が出て、彼を包んだ。
「これで大丈夫。解決するでしょう」
…ゴホっ。
戸隠が突然せき込んで膝をついた。
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