モブ平民の断罪の石は、悲恋を暴く
「クロエ・リュミエール、ここにおまえとの婚約破棄を言い渡す」
王太子レオンハルトが男爵令嬢クロエに告げる。
「そして王太子殺害未遂により、ここに断罪する!」
観衆が歓声と怒号を上げる……
※
「さあ、ユウマ、スキルを使うんだ」
「断罪結社」のリーダーである宰相ジークフリートが俺に言った。
目の前には王城の小広間に集められた無数の女性たちがいた。
俺、ユウマ・クレイには、断罪見物好きのモブ平民として転生したのだが、転生時に女神から授かったスキルがある。
【スキル:断罪の石投げ】【効果:悪人に必中】
悪人というのは、俺が意識した断罪の対象の犯人で、たとえ真犯人がわかっていなくてもその犯人を石が勝手に見つけてくれるのだ。
本来は俺の趣味の断罪見物に使いたいスキルなのだが、このスキルの性能を知ったジークフリートが、俺を宰相直轄の秘密組織「断罪結社」に引き入れ、隠れた悪を断罪することに利用しているのだ。
俺のスキルを得てから、ジークフリートは真面目に捜査をすることが面倒になって、雑に容疑者を集めるようになった。
スキルを発動すれば確実に犯人がわかるので、そこから追い詰めるのは冷徹で鬼畜なジークフリートにかかれば容易だったのだ。
そして今回の断罪対象の容疑は「王太子殺害未遂」だった。
王太子が王都の大通りを闊歩しているところを、マントのフードを深く被った女性らしき曲者が、短剣を向けて突っ込んできたのだった。
幸い、それに気づいた護衛が立ちはだかり、ことなきを得たのだが、容疑者は取り逃してしまったのだ。
容疑者として集められたのは、過去に王太子が手を出した貴族の令嬢たちということだった。何十人も容疑者がいるので、王太子がクズだということは一目瞭然だった。
しかし殺人未遂犯を自由にしておくわけにはいかない。そして断罪ファンとして、その断罪の見物を早くしたい。
そんな想いを胸に、俺はスキルを発動した。
「断罪の石投げ!」
俺の手から放たれた石が令嬢たちのほうに飛んでいく。
その石が当たって、額を痛そうに抑える女性が……
「クロエ・リュミエール……男爵令嬢……だな」
※
容疑が晴れた他の令嬢たちを解放する。
しかし、王太子が何十人もの令嬢に手を出していることを知った彼女らは、「私たちもあのクズ王太子の殺害計画を立てましょう」と不穏な発言をしているのがちらほら聞こえた。
残されたのは、クロエ・リュミエール男爵令嬢に、「断罪結社」のメンバー、宰相ジークフリート、平民の俺に、公爵令嬢クローデリア——クローデリアも過去に王太子レオンハルトに婚約破棄され、彼を嫌う一人だ。
ジークフリートがクロエに尋問を始めた。
「なぜレオンハルト殿下を殺そうとしたのです?」
クロエは石の当たった額に手を当てたまま、口を開いた。
「待ってください。私はやっていません」
「やっています。彼のスキル効果は『必中』なんです。間違いないです」
「でもレオンハルト殿下が襲われたときに私は王城にいたのです。王城の衛兵の方や殿下の侍女の方に伺えばわかります」
「何ですと? アリバイがあるということか」
ジークフリートが少し狼狽えたように見えた。雑な捜査を少し反省したらいい、と俺は思った。
「はい、私が王城でレオンハルト殿下をお待ちしているときに、王太子襲撃の知らせを受けたので間違いありません」
「……なるほど。それは裏を取っておきましょう」
ジークフリートがいったん引き下がる。
「でも、あなた、レオンハルトを恨んでいるでしょう? あのクズ浮気男を」
ジークフリートに代わってクローデリアが口を開いた。
「いえ、男爵令嬢なんて、王家のお近づきになれることなどないのに、あの方は私に目をかけていただきました。感謝こそすれ、恨みなど……」
そう言うクロエが、嘘をついているようには見えなかった。
「恨んだほうがいいわ。あの男は貴族の令嬢であれば見境なく婚約しようとするのよ。何だったら改めて殺害計画を立てましょう」
「本気なのか誘導尋問なのかよくわからない質問は控えてください、クローデリア様」
ジークフリートがクローデリアを遮る。
「我々のほうですぐにアリバイの裏を取ります。いったん尋問はここまでにしましょう」
ジークフリートはすぐに法務卿の協力を得て、証言を集めると、クロエの発言どおりのアリバイがすぐに確認された。
「ユウマの石は視界に入った中で、一人にしか当たらない。つまり見落としがあるとすれば……」
ジークフリートが少し考え込み、やがて口を開いた。
「明日断罪を強行する」
ジークフリートはそう宣言した。
※
王城前広場の断罪台の周囲には多くの王都民の観衆が集まっていた。
「王太子殺害未遂」ともなれば、断罪案件としては十分に興味を惹く内容で、俺も昨日の尋問は忘れて、断罪ファンとして見物を楽しもうという心持ちに切り替えた。
ただ、内容が内容だけに、いつもより警備にあたる衛兵や騎士たちが多く、不穏な空気も流れていた。
ジークフリートも何か考えがあるようだったので、お手並み拝見といこう。
断罪台上に、被疑者のクロエに加え、王太子レオンハルトと検察役の宰相ジークフリートが上がり、断罪が開始される。
「クロエ・リュミエール、ここにおまえとの婚約破棄を言い渡す」
王太子レオンハルトの婚約破棄から断罪の火蓋が切って落とされた。
「そして王太子殺害未遂により、ここに断罪する!」
そして殺害未遂の罪状の宣告。
観衆から歓声と怒号が上がる。
「私はやっていません!」
クロエが叫んだ。
「しらを切るな! 低い爵位の令嬢のおまえに目をかけてやったのに、なぜ殺そうなどとしたのだ?」
「だからやっていません! 私にはアリバイがありますし、その確認は取れているはずです」
レオンハルトが横のジークフリートのほうを見た。
ジークフリートは頷き、口を開いた。
「確かに、その通りです。あなたのアリバイは複数の証言から確認できています。しかしながら、クロエ様、それでも私はあなたを断罪しなければならないのです……」
そのとき、ジークフリートが俺のほうを見た。
(スキルを撃て)
ジークフリートの顔がそう言っていた。
このタイミングではないと思うんだけどなぁ、と思いながら、上司の指示に逆らえない前世社畜の性がスキルを発動させる。
「断罪の石投げ」
俺の手から放たれた石は断罪台に向かう……かと思ったら微妙に逸れて断罪台の横に待機していた騎士の顔に当たった。
よく見ると、その騎士は女性で、剣を抜いて断罪台上に乗り込もうとしているところだった。
俺の石に一瞬怯んだところを、近くにいた別の騎士が取り押さえた。
「アデル!」
断罪台上のクロエが叫んだ。
その女騎士のことを知っている様子だった。
「クロエ様!」
女騎士もクロエの名を呼んだ。
ジークフリートが取り押さえられた女騎士のほうを向いた。
「あなたは……確か、アデル・ヴィエンヌ……王国騎士団の女性騎士ですね。平民上がりの騎士のはずだ。
あなたが真犯人……いえ、実行犯ですね」
実行犯……つまり、クロエの協力者ということか! 石がクロエではなく、女騎士のほうに飛んだのは、彼女のほうが罪状により強く関与しているということだな。
「くっ」
アデルは答えず、ジークフリートと、その先に立つレオンハルトを睨む。
「見たところ、あなたとクロエ様はただならぬ関係のようですな」
「……アデルと私は愛し合っています」
アデルに代わってクロエが答えた。
これは……まさかの百合展開に加えて身分差恋愛!
「クロエ様……だめ……」
「私は、レオンハルト殿下に見そめられたことが本当は嫌でした。殿下のことは……はっきり言って嫌いだったんです。
ですが、男爵の父がこんな僥倖はないと、側妃でも何でもいいから、王太子に取り入れと強く言ってきて……そんなときに、『王太子なんて死んでしまえばいいのに』とアデルに王太子殺害を仄めかしました。それで……だから、悪いのは私なのです。アデルではありません」
「違うんです。私は、他にも王太子が多くの貴族の令嬢に手を出していると知って……クロエ様が騙されていることにあまりに腹立たしくなって、王太子を狙ったのです。決してクロエ様が指示されたからではありません」
観衆はどよめく。
身分差を超えて愛し合う男爵令嬢と平民上がりの女騎士——お互いをかばい合う二人。そしてその状況を生みだしたのはクズの王太子……
俺は断罪場特有のヘイトの流れを読んだ……そして俺のヘイトも高まる。
今こそヤジと石を飛ばすときだ。
「クズ男を許すな! 『断罪の石投げ!』」
俺の放った石は、クロエでもなく、アデルでもなく、レオンハルトに向かって飛んでいった。
「痛い!」
石が眉間に当たったレオンハルトが情けない声を出す。
俺は断罪スキルの断罪対象を「貴族令嬢を弄ぶクズ男」に切り替えたのだ。
他の観衆も次々とレオンハルトに石を投げ始め、「クズ!」「引っ込めゲス男」と罵声を浴びせかけた。
周囲の騎士も気づかぬふりで黙認した。
「な、なぜ被害者で王太子の俺が狙われるのだ……」
実は昨日容疑者候補として招集された貴族の令嬢たちが、断罪の前に手当たり次第に王太子のクズっぷりの噂を流しており、観衆たちは殺人未遂のクロエやアデルよりも、レオンハルトへのヘイトを高めていたのだ。
王太子といえど、一体となった王都民の怒りの前ではひとたまりもなかった。
「ひいぃ」と威厳も何もない声を上げて、王太子は逃げ去った。
どんな王国の権力や法よりも、大衆の怒りは勝るのだ。
※
断罪が終わり、ジークフリートが俺とクローデリアのもとにやってきた。
「ユウマ、よくやってくれた」
「そういえば、ジークフリート様はアデルがなぜ会場にいると思ったのですか?」
俺は、ジークフリートが賭けとも言える断罪に出たことが疑問だった。
「自分のために断罪される恋人の断罪に、立ち会わずにいられるわけがないでしょう」
ジークフリートは自信満々に答えた。
「でも結局、王太子の断罪みたいになってしまいましたね。あの人はこれからどうなるんでしょう」
「国王陛下もレオンハルト殿下の日頃の行いをあまりよく思っていなかったからな。民の反感まで買ったとなれば廃嫡もあり得るかもしれんな」
「それは大変ですね」
と、心にもないことを言う俺は、心の中では「ざまぁ」と大笑いしていた。
「それにしても、あの男爵令嬢と女騎士、結局罪に問われて王都を追放にされたのに、なんだか嬉しそうでしたね」
「結果的には二人でいられることになったからな。彼女らにとってはよかったのかもしれん。こんな断罪もあるのだな」
ジークフリートが遠くを見るような目で言った。
「貴族と平民の恋なんて、甘美な響きだわ」
クローデリアがポツリと呟き、俺のほうを見た。
「ねぇ、もし私がユウマを愛していると言ったらどうする?」
クローデリアが珍しくしおらしい態度で尋ねてきた。
黙っていれば美しく気品のある女性だ。俺は思わずドキリとしてしまう。
しかし……
「嫌ですよ、王都にいられなくなるとか。俺は断罪見物ができなくなったら生きていけません」
あなたは、本来あっち側にいてほしいんです。こんな近くではなく。
クローデリアは不満そうに横を向いたが、その顔もまた美しかった。
だいたい、そんな非現実的なことは起こるわけがない。
少しだけ寂しい気分になった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし少しでも「面白かった」と思っていただけたら、
①ブクマ登録 ②★評価 ③一言感想
のいずれか一つでもいただけると、めちゃくちゃ励みになります。
「【連載版】転生したら断罪の場でヤジを飛ばして石を投げるモブ平民だった」もよろしくお願いいたします。
改めて、ありがとうございました!




