咆哮する大地・第六話、覚醒の産声・土龍の理
砕け散った角の破片が光の粉となって舞い、荒れ狂っていた土煙が嘘のように凪いでいく。
アッシュは古剣を杖代わりに、その場に膝をついた。右手の感覚はまったくない。
ただ、皮膚の下で激しくのたうち回るような熱だけが、自分がまだ生きていることを無慈悲に告げていた。
崩れ落ちた古王の巨躯が、静かに砂へと還り始める。
その砂の渦の中から、先ほどまでの荒々しさを削ぎ落とした、穏やかで重厚な声が響いた。
『……見事なり、人の子よ。我が一撃を受け止め、なおその小さき命を離さぬか』
アッシュが顔を上げると、そこには実体を持たない、透き通った岩犀の思念体が立っていた。
古王はアッシュの右手の紋章を、慈しむように見つめる。
『その痣は呪いではなく、繋がりだ。千二百年の時を経て、大地はお前を認めた。……これを受け取るがいい。それが、共に行く者へのせめてもの餞だ』
古王の姿が黄金の光に溶け、アッシュの胸元へと吸い込まれていく。
瞬間、全身の細胞が総毛立つような衝撃が走った。右手の紋章が赤から黄金へと色を変え、その形をより複雑なものへと変質させていく。
「……っあ、ぐ……ッ!!」
「アッシュ! 大丈夫!?」
リネットが駆け寄り、アッシュの体を支える。その瞳は、手元のデバイスが示す信じられない数値に釘付けになっていた。
「嘘……信じられない。アッシュの生体反応が、遺跡のエネルギーと完全に同期してる。これって、……」
「……『第一段階』の取得、か」
スレインが氷の剣を消し、静かに歩み寄ってきた。その視線は、先ほどまでの軽蔑ではなく、言葉にしがたい戸惑いが混ざり合っている。
「人間が、古代の長に認められた。……あり得んことが起きたな」
アッシュは言葉も出せず、ただ自分の胸に手を当てた。
先ほどまで感じていた、右手の焼き切れるような痛みは消えていた。
代わりに、足の裏から大地の鼓動を感じるような、揺るぎない「安定感」が身体の芯に宿っている。
「……助かったんだな、俺たち……っ?……」
気がつくと、アッシュの腕の中で、ようやく意識を完全に取り戻した子供が、顔を上げる。
彼女はアッシュの顔をじっと見つめ、それから安心したように、その胸に小さな額を預けた。
まだ名前も知らないその子の温もりが、アッシュの強張った心を少しだけ解いていく。
『━━━志ある者よ━━━、その子を……境界の希望を、頼むぞ』
「境界の希望……?」
ふと━━━、古王の残響が消えゆく砂塵の中、不意にその少女はいた。
夜を紡いだような黒髪と、無機質な瞳。
仲間たちの喧騒は遠のき、アッシュの世界だけが「静止」する。
(……誰だ)
少女の唇が、音もなく動いた。
『……芽吹きましたか。ですが、ここはもう長くありません』
彼女はアッシュの紋章を一瞥し、西の空を指す。
『西へ。雲を穿つ連峰、風の遺跡へ。……』
「待て、あんたは――」
問いに答えることなく、少女の姿は陽炎のように揺らぎ、風に溶けた。
アッシュがその名を反芻しようとした時、遺跡の奥からさらに巨大な地響きが鳴り響いた。
古王を失ったことで、この空間そのものが崩壊を始めたのだ。
「ちょっと! 感動に浸ってる暇はないわよ! ここ、あと10分で完全に埋まるみたい!! 全員走んなさぁーい!!!!」
リネットの悲鳴を合図に、一行は出口へと向かって駆け出した。
自分の意志とは関係なく刻まれた紋章。
出会うはずのなかった仲間。
そして、託された「希望」という名の重荷。
『アッシュフォード・グローリア』の、長く険しい旅が、ここから本格的に幕を開けることになった。
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