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咆哮する大地・第四話、解析者の乱入 



「はーい、ストップストップ! そこまでよ、お二人さん!」


 場違いに明るい声と同時に、アッシュとスレインの間に、ピンク色の煙を吐き出す金属球が転がってきた。


「ごほっ、ごほっ…、え、煙幕……!? 誰だ!」


「……チッ」


 アッシュが咳き込む傍らで、スレインが不快そうに剣を引く。

 桃色の霧の中から現れたのは、頭に大きなゴーグルを乗せ、そばかすの散った頬を膨らませた少女――

リネットだった。彼女は巨大な工具鞄を背負い、不機嫌そうにスレインを指差している。


 「ちょっとスレイン! あなた、護衛を放っぽり出して何やってんのよ。私の解析デバイスに異常な熱源反応が出たと思ったら、犯人はあなたたちじゃない!」


「リネットか。……この男、我ら獣人族の秘儀を盗んだ疑いがある。お目付け役として見過ごすわけにはいかない」


「盗んだ? あはっ、面白いこと言うわね」


 リネットはアッシュのことなど「人間」として見ていないかのように、ずい、と顔を近づけた。ゴーグルの奥の瞳が、獲物を観察する猛禽類もうきんるいのように鋭く光る。



「うっ……」



「スレイン、あなたの『氷雪ひょうせつ』と真っ向からぶつかって蒸発させちゃうような熱量……。これ、ただの魔力じゃないわ。ましてや『盗んだ』なんて次元じゃない。細胞レベルで『書き換え』が起きてるわね」


「何の話をしてるんだ……? 俺は、ただこの子を助けようとして……」

 アッシュが困惑して口を開きかけた、その時だった。



 ――ゴォォォォォォォ……ッ!!


 遺跡の最深部から、先ほどまで沈黙していた巨大な石扉が、重低音を響かせて震え始めた。アッシュの右手の紋章が、それに反応するように、激しく黄金色に明滅めいめつしはじめた。



「な、なんだ!? 地震か!?」


「いいえ、違うわ。……『認証』されたのよ」



 リネットが狂喜に近い笑みを浮かべ、手元の端末を叩く。


「アッシュだったかしら?

 あなたが放った『日輪にちりん』のエネルギーが、この遺跡の起動キーになっちゃったみたい。……さあスレイン、仕事の時間よ! 調査対象の扉が開いたわ。不法侵入者の処遇なんて後回し! この『動くサンプル』も一緒に連れて行くわよ!」


「……やむを得ん。貴様、逃げようとするなよ。

私の剣からは逃げられんと思え」


 スレインは不本意そうに氷の剣を消したが、その視線は依然としてアッシュの右手を射抜いたままだ。

 逃げ出す隙も、説明を求める暇もない。


「………うそだろ………」



 アッシュは、気を失った子供を背負ったまま、リネットに背中を押されるようにして、不気味に口を開けた遺跡の闇――「古代の試練」へと足を踏み入れることになった。







━━━━━━━━━━━━━━━━━



〜〜アッシュ視点〜〜







(………どうして、こうなったんだ)



 石床を叩く自分の足音が、やけに遠く聞こえる。

 数時間前までは、俺はただの「アッシュ」だった。

 平和すぎる辺境の町で、じいちゃんからもらった、古剣こけんを腰に下げ、逃げ出した家畜を追いかけたり、酔っ払いの喧嘩を仲裁したりして一日を終える。

 それが俺の日常で、━━それでいいと思っていた。




『グローリア』




 町の人々が、面白半分、皮肉半分を込めて呼ぶ俺の苗字。




 なんでもはるか昔、かつて世界を救っただの、英雄の血筋だのくわしいことはわからないし興味もなかった。


 そんなお伽話とぎばなしは、工業大陸に広がるくすんだ煙と鉄の灰色の空には似合わない。


 俺にとってその名は重いだけで何の役にも立たない、錆びついた看板のようなものだった。

 英雄になんて、なりたかったわけじゃない。

 特別な力なんて、望んだ覚えもない。

 


 なのに、どうして━━━。





 アッシュは自分の右手に目を落とした。

 そこには、今も呪いのように赤黒い紋章があった。




 あの時、肉食獣人から子供を庇った瞬間、俺の中で「何か」が壊れた。いや、無理やりこじ開けられた気がする━━。


 一緒にいたあの黒髪の少女の声。

 手足に流れた、ヤケドするかと思うほどの光。

 そして、この小さな獣人の子供から伝わってくる、魂が直接結びついたような奇妙な温もり。




(……引き返せないんだな、もう)




 前を見れば、不遜ふそんな態度で道を切り開く銀髪の獣人・スレインと、壊れた機械のように喋り続ける少女・リネット。


 自分とは住む世界が違うと思っていた連中に囲まれ、俺は「境界」の内側に足を踏み入れてしまった感覚に陥っていた━━




 『グローリア』――。




 もしこの名に、本当に何かの意味があるのだとしたら━━

 



「……痛ぇな、クソ」



 アッシュは小さく悪態をつき、紋章を隠すように拳を握りしめた。


 かつて英雄たちが愛した世界だか何だか知らないが、今の俺にとっては、ただこの震える子供の手を離さないこと。


 ただ、それだけで精一杯だった。





ここまでお読みいただきありがとうございます。

 ちょっとでも「ワクワク」や「続きが読みたい」、などありましたらご感想、誤字脱字報告なども受け付けております。

また、星の評価もぜひ!

1つでも2つでも………なんならマックス(5つ)でもいいのでつけていただくと、作者、すごくよろこびます。

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