咆哮する大地 第三話、氷狼と陽光
「はっ……!」
スレインが地面を蹴った。
氷の刃が空気を切り裂く
「キィィィン」という高い音が鼓膜を刺す。
アッシュは咄嗟に身を伏せるが、見るとさっきまで自分がいた地面から巨大な氷の棘が突き出していた。
「なっ、地面から……!?」
「よそ見をしている暇があるのか」
背後。冷気と共にスレインの双剣が襲いかかる。アッシュは無我夢中で古剣を後ろに回し、それを受け止めた。
ガギィィィィッン!
凄まじい衝撃が腕を伝う。鉄と氷がぶつかっているはずなのに、アッシュの古剣の方が砕けそうなほど重い。
スレインは一切の予備動作なく、そのまま独楽のように回転し、二撃目、三撃目を叩き込んできた。
「ぐっ、ああぁ!」
スレインの動きは、流麗な舞のようでありながら、その一撃一撃が確実に関節や急所を狙っている。
アッシュの服が裂け、氷の刃が掠めるたびに、傷口から熱が奪われて感覚が失われていく。
「足が、動かない……!」
気づけば、アッシュの足首は地面に張り付いた氷に捕らえられていた。
スレインが氷の双剣を一本に重ね、真っ直ぐに突き出す。心臓を貫く一撃。
「終わりだ。その痣と共に、氷の底で眠れ」
死の予感。
その瞬間、アッシュの右手の紋章が、心臓の鼓動と共に激しく跳ねあがる。
『――目覚めて』
また、あの少女の声がした。
刹那、アッシュの右手から溢れ出したのは、先ほどとは比較にならない黄金の奔流だった。
「う、うわあああああ!」
アッシュが叫びながら右手を振り回すと、手にした古剣が太陽そのもののような輝きを放ち、膨張した。
スレインの氷の突きと、アッシュの放った無秩序な光の塊が正面から衝突する。
ドォォォォォォォォン!!
遺跡全体が揺れるほどの爆発。
氷は瞬時に蒸発し、白い霧が視界を埋めつくす。
「………今のは、ただの魔力ではないな」
霧の向こうから、スレインの冷静な声が響く。彼は服の袖を少しだけ焦がしながらも、依然として隙のない構えを崩していない。
「本来、私に与えられた任務は調査隊の護衛と、この聖域の不法侵入者の排除だ。だが、貴様はただの泥棒ではないようだな。人間が『属性』を操るなど、看過できん」
スレインは、アッシュを単なる「侵入者」から「排除すべき脅威」へと認識を変え、さらに低い姿勢で剣を構え直した。
その瞳には、一族の規律を守る者としての冷徹な義務感が宿っている。
次の一撃で終わる。
そう確信した時、遺跡の天井から、場違いな明るい声が降り注いだ。
「はーい、ストップストップ! そこまでよ、お二人さん!」
石床に着地すると、にらみ合う二人の間に、ピンク色の煙を吐き出す奇妙な金属球が転がってきた。
「ちょっとスレイン! あなた、護衛を放っぽり出して何やってんのよ! 解析データが乱れるじゃない!」
煙の中から現れたのは、頭に大きなゴーグルを乗せ、そばかすの散った頬を膨らませた少女――リネットだった。
彼女は巨大な工具鞄を背負い、不機嫌そうにスレインを指差している。
「……リネットか。この男、我ら獣人族の秘儀を盗んだ疑いがある。放置はできん」
「そんなの、後で私がじっくり『解剖』して調べてあげるから! それより見てみなさい!
遺跡の反応が最高潮よ。さっきの『日輪』のエネルギーで、扉が開いたわ!!」
リネットはアッシュのことをまるで「珍しい機械」を見るような目で見つめると、不敵な笑みを浮かべた。
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