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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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何も持たなかった私達 ミカヌレの苦悩

 ミカヌレは小国の王女だった。


 しかし…………。

 

 カザンサススノー国に故国は滅ぼされ、多くの領民と、そして彼女の両親は死んだ。唯一生き残った者達は、捕虜としてカザンサススノー国に連れ去られ、(大国同士で決めた最低限守るべき協定があることで)それでも数年の労役後に解放されたと言う。


 彼の国の残酷な実情を知る今となれば、実際はそれがどこまで本当なのかと疑う者も多かったが、それでも生き残りは存在した。


 彼らはきっと今頃、心身ともに大きな傷を背負い生きているのだろう。愛する者、積み上げてきた希望、帰る場所まで奪われながら。

 



 ミカヌレも奪われた側だった。

 両親である国王夫妻の指示で、ミカヌレ(エクレアーヌ王女)は乳母のマルセーユと、護衛騎士のモロコシと共に、現在暮らしているユゼフィラン国に亡命してきた。それは2歳の時のこと。


 カザンサススノー国は様々な国を滅ぼしていた。

 カザンサススノー国に近い位置にある、大国スルファカトレは亡命者の受け入れを制限しており、その流れで近隣にある小国ユゼフィランに人が流れた。


 保護を受けられない難民(亡命者)の多くが、ならず者と化し、上陸したミカヌレ達を襲う。


 腕の立つ騎士モロコシも多勢に無勢で重傷を負い、二人を愛する乳母のマルセーユが彼らを庇い亡くなった。

 金銭を奪われたモロコシは、這う這うの体でミカヌレを孤児院の前に置き気絶。

 虫の息のまま放置されていた彼は、偶然にミルキー(レイアーの隠密の先輩)に救われ、九死に一生を得たのだ。



 貧しくて不正蔓延る時代の中で、ミカヌレ達のような孤児は、金でミズーレン伯爵に売り払われた。


 縋る者がおらず人権も奪われたミカヌレは、多くのことを諦めながら、それでも数少ない愛ある者達に支えられて生き延びたのだ。


 将来へのささやかな夢、純潔など、市井の者さえ持つことを許される矜持。それすら奪われて生きてきた。


 それはミカヌレだけでなく、周囲には同じ境遇の子供がたくさんいた。隠密の任務ではなく、「口答えをした。生意気だ」と先輩から虐待され死んでいった子供も。

 亡くなった子の中には、いつも弱い子を守る優しい少年もいた。生きて欲しかったと、夜間に声を殺し啜り泣くこともあった。

 優しい人から天に召されていく矛盾。





◇◇◇

 だから今、ミカヌレが生きているのは奇跡であった。


 けれど彼女は幸福になり、初めて苦悩していた。


「自分も命令とは言え、多くの人を不幸にしてきた。こんな私が幸せでいて良い筈がない」



 そんなミカヌレの心を癒したのは、スライストだった。


「貴族と生まれた者は、ハニートラップ等にかからない教育を受けるんだ。敵は国内だけではないからね。寧ろ情報の漏洩は国益の流出に繋がるから、自制できない者は他でもやらかしている愚か者の多い。

 僕は貴族はそう言う者だと考えている。市井の者は別として、誘惑に負ける方が悪いんだ。

 だから貴女が悩むことはない。貴女を愛する僕が全てから守ると誓うよ」



「ねえ、スライスト。貴方は今、術中にいるのかもしれないのに、そんなこと言って良いの? 後悔するかもよ」


 (スライスト)は首を横に振り、優しくミカヌレを抱き寄せた。


「良いんだ、それでも。貴女を失って生きるくらいなら、一緒に罪を背負い地獄に堕ちる方が良い。……だから、もう逃げないで…………」


「グスッ、離さないわよ。もう誰にも渡さないから」



 このやり取りは、スライストが崖から転落して生死をさ迷い、ミカヌレと再会した時のことだ。




 だからミカヌレは迷わず、公爵夫人として生きることを選択した。既に魂まで奪ってしまった大切な夫と、愛する(コロネ)を守って生きていくことを。




 何よりも。

 権力もあり部下もいるピスタテルが、抵抗できない若しくは彼に憧れる女性を騙して心や純潔を奪い、全ての罪を着せることが許せない。


 隠密としての矜持にも劣るクソ野郎だ。


 ミズーレン伯爵家は女性が当主になる為、ピスタテルは長男でありながら家を継げない。その鬱積を彼女達にぶつけているのなら、尚更許せない。 



「少なくとも貴方は、貴族として生きているのだから。責任の取れない行動はするべきではないのだ」



 ミカヌレは知っていた。

 クルル・ミズーレン伯爵は、爵位の継げないピスタテルを溺愛していたことを。


 彼もまた正確には伯爵ではなく、爵位を持つ妻の代理のような立場である。いわゆる繋ぎなのだ。だからピスタテルの横暴を許し、彼の名が出ないように尻拭いも行っていたのだろう。被害者の女性や家族を脅す等して。


 それこそモモやニフラ達が、すぐに真実を知ることが出来なかった原因でもある。コンポートナ男爵夫妻も、モモを守る為に口をつぐんだのだ。


 本当なら愛する(チェリー)の為に、死んでも良いからピスタテルを殺してやりたかった。でもチェリーそっくりなモモが生まれ、思い止まったのだ。


「赤ん坊に罪はない。この子を幸せにしよう」


 モモを心から愛する、優しいコンポートナ夫妻だったから。



 他の女性達の家族も同様で、何とか仇を取ってあげたかった。モモの仲間達は同じ志を持っていたのだ。




 だからこそ、ミカヌレは戦う。

 周囲を巻き込み、まずはピスタテルから。



 



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