閑話 レイアーとメロアン
夜が更け、スライストが乗る馬車が王宮からワッサンモフ公爵邸に帰宅した。王太子の側近である彼の仕事は少なくない。
「お疲れさま、スライスト」
「「「「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」」」」
「ただいま、ミカヌレ。みんなもありがとう」
笑顔で出迎えるミカヌレと使用人達。コロネは食堂の2階におり、数日戻っていなかった。それが日常になりつつある。
着替えの為にレイアーを伴い、自室へと足を運ぶ。そこで、今日あった出来事を聞くのだった。
「そうか、ミズーレン伯爵の息子が……。ミカヌレは、それを聞いて辛かっただろうね」
「気丈に振る舞っておられましたが、恐らくは。モモ・コンポートナとも、連絡を取り合うことになりましたので」
「……彼女が決めたことなら、僕は喜んで従うつもりだ。レイアーも助けてくれるかい?」
「勿論で御座います。私の主人はスライスト様とミカヌレ様ですから。なんなりとお申し付け下さい」
「ありがとう。僕は恵まれているよ。信頼できて優秀な仲間が、傍にいてくれるのだから」
「過分なお言葉でございます。ですが……嬉しいですよ、坊っちゃん」
あまりに真剣なスライストの表情に、茶化すように言葉をかけるレイアー。
彼はミカヌレの為に、ミズーレン伯爵やクロダイン公爵と戦う覚悟を決めたのだ。
それに従うのが当然のように、レイアーはあえて砕けた返答をする。それを見たスライストもつられて微笑む。
「そうだね。僕はいつだって、レイアー達から守られてきたものね。協力して貰いながら、いろいろと乗り越えてきたんだ。公爵だなんて言っても一人だけの力では脆いし、過信すれば更に強い力に呆気なく覆されるもの。
僕は今度も全力を出すよ。ミカヌレやコロネだけでなく、みんなにも無事でいられるように」
「お心のままに。私達も全力を尽くします」
礼をして踵を返して行く、レイアーは笑顔だった。
レイアーやメロアン、他の隠密達も同様に、主によりその後の暮らしは変化する。
セサミは周囲から見れば、悪い主ではなかった。当主ならば冷酷な切り捨ても必要なので、誰もがそれを恨んだりはしていない。
当然だと思うだけだ。
だがスライストは別だった。
懐に入った者に優しい。甘過ぎる程に。
でも………………。
さんざん主の命で理不尽を行い、惨状を見てきたレイアー達は、それが心地よかった。
幼い時から優秀で、だからこそ父親の本性に気付き恐れていた。その反面で次期公爵の彼は、大人になっても変わらず優しい儘で。
隠密達は影から、スライストの命を脅かす敵から彼を擁護し、秘密裏に排除していた。
当のスライストも、セサミさえ知らぬうちにひっそりと。
当然今回の決定に、意を唱えることもない。
「優し過ぎるスライスト様が、魑魅魍魎の中で生きるには純粋過ぎて辛いことだろう。市井での彼らは、心から生活を楽しんでいたようだし。
でもだからこそスライスト様のような方が、今のユゼフィラン国には必要なのだ。平和に領民達を守っていく為に。不幸な者を掬い上げて、笑えるように導く為に」
レイアーの理想は果てしないが、スライストの代の次にはコロネもいるのだ。少しくらい夢を見ても良いだろう。
貴族らしくなく素朴で、お人好しで優しい愛すべき家族。
まあ単純に、スライストとコロネ、ミカヌレが大好きなだけの話なのだが。
レイアーの隣には、子猫のミー子とシャドウを抱いたメロアンが意見を同じくしている。
「どうせ頼まれなくても、手は出すのだもの。頼まれたなら盛大に派手にやりましょう」
「派手にって、お前。そこはひっそりだろう?」
「まあ、細かいことは良いじゃないの。この子達も応援してくれているわ。ね、ミー子、シャドウ」
「ン、ニャ~ゥ」
「ニャ、ニャ~ァ」
「気の抜けた声だな。でもそれを可愛いと思うのは、もう俺も取り込まれているのかもな?」
「頑張りましょうね」
「ああ、他への協力も要請しよう。妖精達にもな」
不敵に笑う最強夫婦の頬を、まだ生後3か月の小さな子猫達が「ナァ~」と鳴いてペロリと舐めた。ザラザラの舌がギャップとなり、存在感を強くする。
二人は迷いなく、参戦することを決めていた。




