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弁えすぎた令嬢  作者: ねこまんまときみどりのことり


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モモ・コンポートナの秘密

 ミズーレン伯爵家の隠密のルーツを遡れば、それはカザンサススノー国のある貴族一家から始まったと言っても過言ではないだろう。


 この国(ユゼフィラン)に亡命した時には数少ない貴金属しか持たず、娘レンゲを年寄り男爵に嫁がせて生活の糧を得たところからのスタートだった。


 一家は平民同様の暮らし振りで、剣の腕の立つ息子ライチは男爵の用心棒となり、邪魔な人間を排除し続けた。

 そのうちにその男爵の用心棒達を纏めて、命令を下せる地位に就く。彼には貴族として受けたきた教育が備わっており、知性も高かったからだ。


 だがレンゲとライチの両親は、いつまでも貴族の生活が忘れられずに働かずに散財していた。子供達が肩身の狭い思いをして、必死に頑張っているというのに。


 そもそもここに流れてきたのも、エルフとの争いで戦力外通知となり、役職を追われたからだった。平民としてなら街で生きていけたのに、プライドが高く他国に逃げたのだ。



 レンゲは美しかったが、後ろ楯もなく亡命してきた貴族の娘だ。それ故に裕福な男爵は娘を虐げ、愛人を多く持った。後継ぎも愛人の子供である。


 ライチは家族を養う為に、どんな仕事でも引き受けた。美しかった(かんばせ)で女性を騙して情報を得たり、自分に惚れている女性を操ってターゲットから書類を持ち出させたり。


 

 他国で生き抜く為に矜持を捨て、いつか大切なレンゲを引き取り、共に暮らすことを夢見ていた。


 けれどレンゲは衰弱して程なく死を迎えた。男爵から詳細は伝えられなかったものの、少し調べれば分かった。


 彼は流行り病にかかったレンゲに薬を与えずに、放置していたらしい。風邪だからすぐに治ると言って、顔も見に来なかったそうだ。


 元より大事にされない妻は、使用人も必要以外に近付かず、碌な看病もされずにある朝冷たくなっていたと言う。


 薬は貴族である男爵なら、すぐに買える金額のものだった。平民になったライチでも、買えるくらいの。



「妹は、苦しんで死んでしまった。俺は、何の為に努力したと…………。あぁ」



 ライチの悲しみは深かった。両親は相場より多めの慰謝料を貰い、訴える事もなく黙った。


 彼には考えられないことだった。


 この国で足場を作る為に、若い妹が40歳過ぎの貴族に嫁いだのに、何も言わないのかと。



 両親はその金で墓を作ることもなく、遊び歩いて散財した。


 ライチは自分だけで教会に赴き、全財産を使って土地を買い墓を作った。それはいつか妹と暮らせるようにと、貯蓄していた資金だった。



「こんなことになるなら、二人で逃げれば良かったな。両親なんて置いて…………」




 彼は墓に花を添えて、悲しげにその街を出て行った。

 本当なら男爵を殺してやりたかったが、残した両親に疑いがかかるのを避けたのだ。


 それが最後の、家族への温情だった。





 その後残された両親が働くか物を売って暮らしたのか、彼には分からない。


 数年後に墓参りに来た時、もう元の場所にはいなかった。


 探す事もしなかった。




 

 彼はその後、手練手管を用いてある未亡人の養子となり、その後ある貴族家の婿に入った。彼の経歴が生かされた、裏家業がある貴族家だった。


 後に最強と呼ばれる隠密集団の基礎を築いたのが、ライチ・ミズーレンなのだ。




 彼は婿に入る前に確りと、調査されていた訳である。


 それでも彼は待遇に満足し、その貴族家に多くの子宝をもたらした。何も考えずに貴族家が富む任務を熟し、表では良い人間を演じた。


 子供にも彼の技術を伝授し、嫡女は貴族家の当主となりそれ以外の子は汚れ仕事を担うのだ。



 当主夫人も、代々娘が家を継いでいくことを教育されている。それは彼らの寄親であるクロダイン公爵の指示であった。



 代々のクロダイン公爵は、自分の親族から優秀な者をミズーレン伯爵家に婿を入れる。


 そうすればミズーレン伯爵家は、クロダイン公爵家を裏切れない。そんな支配の図が作り上げられていたのだ。



 汚れ役を担うミズーレン伯爵家は、よくハニートラップを使う。


 ミズーレン伯爵家の者は、その殆どが血のように赤い瞳を持っていた。まるでピジョンブラッドのように深く鮮やかな赤を。




 その犠牲にあった女性の中に、モモ・コンポートナの母親も含まれていた。名はチェリー・コンポートナ。


 モモはチェリーの年の離れた妹だと届けが出ているが、実は母子だった。


 ミズーレン伯爵家子息に利用された、女性の一人である。



 彼女はあるパーティーで、指示された女性に催淫剤入りのお酒を渡す役目を背負った。その女性は後日ある貴族と婚約発表を行った。


 候補と目された貴族ではない者と。


 金の為に候補者を振ったのではないかと噂されたが、その噂もすぐに消えていった。



 チェリーは苦しんだが、今さらどうにもならない。恋人の言うままに従ってしまい後悔した。


 件の女性はチェリーの友人だった。正気に戻った彼女は、申し訳なさに涙を流すのだ。




 その後。

 恋人だと思っていたミズーレン伯爵子息は、用は済んだとばかりに彼女を捨てた。

 お腹には子供が宿っていたのに。

 

 生理不順で妊娠の発覚が遅れ、堕胎することも出来ずに出産したが、絶望が強すぎて衰弱していくチェリー。


 チェリーは「ごめんね。私は駄目なお母さんね……」そう言って、泣きながら数日後に天に召されたのだ。



 モモの祖父母であり、戸籍上の父母は彼女を大事に育ててくれたが、いつも寂しそうに見えた。亡くなった姉の事が原因なのだろうと、何となく思っていたモモ。




 そしてある日。

 箱の中に片付けてあったチェリーの日記をたまたま発見して、全てを知ってしまった。


「絶対に許さない。ピスタテル・ミズーレン!」



 彼女は亡き母親を騙した、血縁上の父親へ復讐を誓うのだった。




 その傍には誰も気付いていないが、火の妖精が必死に彼女に訴えていた。


『やめなよ! 復讐なんて、チェリーは望んでいないよ』


 一生懸命にそう叫んで。









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