ワッサンモフ公爵家、隠密達の怒り
ミントジュレとコロネの婚約のことは、すぐに邸の全員に周知された。
そして当然の如く、先ずはタバサから切れ散らかしたのだ。
「あのくそ王子め! 結婚時は愛人同伴だなんて、ずいぶんと馬鹿にしてくれたもんだね」
「天元突破の屈辱ですわ。もう野盗に襲われたことにして……(葬りましょう)」
「ちょっと待て。今現在、詳細を調べているから、勝手に動くでないぞ。良いな!」
「はい…………分かりました」
「……報告を待ちます」
タバサの言葉に、良い笑顔でアンナが不穏な言葉を発し、レイアーが慌てて止めた。
性格にやや癖のあるタバサ&アンナだが、暗殺技術は一流。当主とその家族の護衛と使用人を難なく熟し、秘密裏に事を運ぶ手腕を十分に兼ね備えていた。
すなわち、アリバイ付きの抹殺ができると言うこと。勿論、証拠隠滅も完璧なものにして。
たぶん事を終えた後でも、何もなかったようにコロネ達と楽しく過ごしている筈だ。
それが分かるだけに、レイアーが慌てて制止したのだ。
レイアーは既に、邸内の隠密に調査指示を出していた。
ミディアの師匠であり、毒植物の博士号を持つ庭師のテンメに。
彼の報告を待てと言われ、仕方なく動きを止めた二人なのだった。
(やれやれ。まだまだ若いな、二人とも。殺るならミントジュレじゃなくて、元凶の国王だろう。あのゴミ虫はいつも余計なことしかせん!!!)
左右に首を振りながら、心で彼も叫んでいた。冷静そうに見えても、かなり短気なのだ。9歳の時、メロアンを助ける為に大男(貴族)を蹴り飛ばした彼は、詳細など分からず行動を起こしていた。
たまたま警ら隊の責任者夫人である、チルド侯爵夫人が傍にいたから良いが、これが同格の侯爵か、それ以上の爵位であれば大問題だった。
あの後延々と、危機管理について(スッキリした笑顔のレッドから)講義が行われたのは、忘れられない思い出だ。
怒られはしないが、『ちゃんと覚えとけよ。洒落にならんからな!』と、軽く圧をかけて教え込まれていたからだ。
今は昔と逆の立場になった訳だが、性根は変わらない。自制心がほんの少し育っただけで。
コロネから見ればレイアーは、とても落ち着いた人物だが、付き合いの長いスライストからすると、怒らすと危険だと気付いている。
メロアンが止めたことが何度あったか、少なく見積もっても両手の指では足りない程なのだ。
自分のことは置いておいても、公爵家のことと家族のことを貶されると、とたんに沸点が低くなる。
◇◇◇
テンメからの情報により、ミントジュレの思惑は分かった。
カザンサススノーへの(侯爵家への)婿入りが嫌で、間接的にコロネが巻き込まれたようだ。
婚約をしない免罪符を得る為に、『真実の愛の偽装』を男爵令嬢のモモ・コンポートナへ金銭で協力要請し、彼に甘い国王夫妻がそれを許した。
その背後ではきっと、クロダイン公爵がほくそ笑んでいるだろう。
だが………………。
「モモ・コンポートナ。この女はミントジュレのことを諦めていないようだ。公の計画通りに、彼の愛人になって好き放題したいようだぞ。醜いものよ」
「殺りますか?」
「今は駄目だ。もし彼女が暗殺されれば、嬉々としてクロダイン公爵が動く。そしてない罪まで負わされるだろう」
「じゃあ、どうするんですか?」
「まずは様子見だ。ミントジュレからの話も聞きたいところだし。彼がカザンサススノー国の(侯爵家の)婿になれば、我が国の平和も崩れる可能性があったから、避けられたのは悪くない」
「スライスト様とミカヌレには、何と報告するのですか?」
「今回のことを全て伝える。ただ、コロネお嬢様には何も知らせず、先入観なく彼を見て貰おう。直感は大事だからな」
「そうですね、妖精の導きもあるかもしれませんしね」
「妖精は……(俺は見えないから)分からんが、まあ時間はある。殺気は封じておきなさい」
「はい、了解です」
「はい、分かりました」
何となく応じてくれた二人に安堵するレイアー。その背後でさらに肩を撫で下ろすメロアン。
メロアンは覚悟していた。
もし三人ともが、最悪な馬鹿なことを考えていたら、身を呈しても止めようと思っていたからだ。
メロアンは知らないが、万が一の時は彼女の他にも彼らを止めようとする、志を同じにする者は複数いる。
いつも台風の目の中にいる彼女に、「ご苦労様です。いつもありがとうございます」と心から感謝している者達が。
忠誠の前に愛情が多い、ワッサンモフ公爵家ならではの見慣れた光景なのだった。
(年を経ても、いえ、ますますお嬢様馬鹿は加速してるわね。まあ、そんな愛情深いところも素敵だけど。私は猫のミー子と心配してますよ)
これは声にはしないけれど。
愛する三毛猫のミー子と、黒猫のシャドウを抱きしめるメロアンは、
「私もコロネ様を孫のように思ってますから、相手を殺さない程度ならOKですにゃ♡」と微笑んでいた。
それに応じる猫達の鳴き声も、「ニャアニャ(「そうや)」「ニャニャニャア(やったれ!)」と応じているように聞こえる。
結局みんな、コロネが大好きなのだ。




