追求 その1
翌日。
酒に酔ったクリムと、若い愛人とイチャイチャしていたらしいコーラスは、盛大に寝過ごし昼過ぎになっても起きて来なかった。
まあそれは別段特別ではなく、彼らが公爵邸に来てから4年間のルーチンのようなものだったが。
深夜に帰った彼らが混乱し、寝付けずに夫婦で罵りあった為に就寝が遅れたこと。そして不安にかられ、酒で泥酔したこともそれに拍車をかけた。
あと、よっぽど起きたくないのだろう。
ちなみに彼らの行動など、ワッサンモフ公爵家の隠密が少し調べれば容易に分かることだ。特に昨日は記念すべき帰還日だったので、念入りに調べ上げている。
◇◇◇
帰還と同時に執務室に入ったスライストは、公爵邸からセサミの住む別邸に知らせを送っていた。
まず帰還のこと。
崖からの落下で骨折し、治療の為に本当に療養していたこと。
そしてレイアー達から聞いた、クリムの散財や公爵家で当主のように振る舞っていた事実について。
当然のことながらコロネが、親の次の庇護者となるセサミへ連絡を入れた際にも、一方的に彼女に対応を任せたことについても。
無責任に負傷し、公爵邸を留守にしたことはスライストの責任である。だが、執務能力のないクリムを公爵邸に置いたまま放置したことは、前公爵として無責任ではないかと追記した。
実務についてはセサミの手を借りておらず、謝罪も感謝もするつもりはなかった。
(レイアーと5歳のコロネに任せるとか、我が父ながら終わってるよ)
もし返事が来なくても、スライストは構わないと思っていた。関わらない気なら、寧ろそうして欲しい。中途半端に首を挟まない方を望むからだ。
コロネの仮婚約についても、ヴィーガン・モンテカルロ伯爵は友人なので、解決は彼自身がするつもりだ。
「父上は当てにするどころか、何故だろうか敵に見えるよ。退屈は人を殺すとはこの事だろうね」
スライストはすっかり公爵モードと化し、冷徹な笑みを浮かべていた。それは彼自身の一部であるが、今までのほんわか二度めの新婚ムーブで、半ば封印されていた。
暫くは積極的に社交界に顔を出し、復活を示す必要が出来た。ワッサンモフ公爵家の力を侮られない為には、そろそろ逃げられない時期に立たされていたのだ。
(コロネには選択肢を残したい。公爵家を継ぐにしろ継がないにしろ、もし爵位を親族に渡すにしても、なるべく思うようにしてあげたい。望むなら……嫁に行くことも反対しないつもりだ。今までかなり苦労もかけたしなぁ)
スライストは公爵の責任を取り、ミカヌレと共に生きていくつもりだ。
「彼女のことは、僕の持てる権力と金と腕力で守る。コロネには既に協力な仲間がいるから大丈夫だろう。人質にされるような柔な奴もいないしな。ふふっ」
柔な坊っちゃんだった彼は、市井で暮らした時に資金作りで狩りにも出かけたし、冒険者の集う場所で喧嘩があれば、モロコシの仲間として仲裁にも入った。荒っぽい暮らしの中、自然と体を鍛えていたのだ。
生活資金は、周囲から怪しまれないように現地調達で賄った。チェロスト子爵領でも経理、教会裏の猛獣討伐、大工仕事の手伝いなどをスライストが。
洋品店や果物の出荷などをミカヌレが。
今まで暮らした街では、彼らは平民の働き者として認知されている。不在にしても出稼ぎと思われているだろう。
彼らの街を治める公爵夫妻だと、万が一にも思われていない。勿論それは、モロコシの協力あってこそなのだが。
それはもう、別の場所にも居場所があると言うことなのだ。
ただコロネの場合は、令嬢の立場としていろいろと活動していた為、事情を知る者の前でしか親子らしいことはできないけれど。
◇◇◇
そんなスライストが腹を括り、姿を現した本当の目的は、コロネの未来を守る為だった。
彼の協力者として、エアピゾーラ侯爵令息ともある約束を交わしている。
今まで以上に利益を上げたワッサンモフ公爵家と、スイーツで有名になったチェロスト子爵領は、注目を受けている。
そのハイエナの視線の中には、クロダイン公爵とミズーレン伯爵も含まれていた。
もしセサミが協力ではなく足を引っ張るなら、切り捨てることも念頭に置いている。
今回の連絡は、父子の決別になる可能性も含まれていた。
呑気なのはクリムだけなのだった。




