カザンサススノー国へ 救出その2
側妃と王女達には大事な物だけを身に付けて貰い、エッダと共にコロネの待つ食堂の宿屋へ、先に空間転移して貰った。
残ったのはミカヌレ、スライスト、リオニオン、ネリネ、妖精のラランである。
『じゃあ、やるわよ。大丈夫だと思うけど、一応火傷に気をつけてね。私ってば火力の調節が下手だから』
ラランはミカヌレに話し、ミカヌレはみんなに伝えた。
偽装した側妃と王女達の体は、ラランの能力によりゆっくりと火が包まれていく。服の一部は残されたまま、皮膚の縫い目が分からぬように背部はこんがり焼けて糸も燃え尽きていく。
『こんなものかしら? 後は建物全体も丸焼けにしてあげる。その前にミカヌレ、あんたが雷を落とすのよ。そのせいで火事になった風にするんだから。雷を出す練習は成功したんでしょうね? こう、憎しみを込めて「うりゃあ!」て感じにすれば、いけるから!』
「ええ、練習はバッチリよ。私も全ての力を注ぐわ」
「ありがとう。ネリネの為に力を貸してね♪」
ラランのアドバイスは難解だったが、憎しみと言うのか、負の感情は理解できた。
愛してくれた父母や国が滅ぼされたこと、隠密として引き取られてから共に育った、子供達やお世話になった者達の死、コロネやスライストの危機となる指令が出され、自ら公爵家を出た時のこと等、今までの過去と向き合うような苦しい過去との邂逅で。
城の上空にはバリバリと雷鳴が響き、稲妻が国全体を覆い尽くす。
扉も開けられない程の大嵐で、激しい雨と稲妻が何度も地に響いた。
そして…………。
それは側妃達の住む古い使用人棟にも、強烈な閃光と共に堕ちたのだ。
瞬時で炎が燃え上がり、元より廃墟に近い建物は崩壊した。
燃え上がる建物を見ながら、ネリネは涙を落とす。
「悲しかった思い出は、燃えてなくなったのですね。私達は新しく生き直して良いのですよね?」
泣きじゃくる彼女を、ミカヌレは強く抱きしめて言うのだ。
「当たり前じゃない。私の国もこの国に滅ぼされた。けれど……名前さえ失っても生きていれば、きっと良いこともあるわ。頑張るのはこれからよ。生きて生きて、生き抜いて」
「うっ、うわぁあああ」
同じ思いの彼女らにかけられる言葉はなく、男2人は泣かぬように唇を噛み締めた。妖精のラランもネリネを見て号泣していた。
暗闇の空から稲妻が無造作に落ちまくる、世紀末のような光景。それは彼女達の、辛かった気持ちそのものなのかもしれない。
◇◇◇
監視役の軍人は雷が落ち、炎に包まれた建物を確認して救援を依頼した。
それを受けて少佐のソイズ大尉は、急ぎ側妃棟の管理者である少佐に相談すると、信じられない言葉を聞かされるのだ。
「助けなくて良い。王妃は元々あのような下賤な民がお嫌いなのだ。本当は遺恨が残らぬように、すぐに殺そうとしていたくらいだからな。
敗戦国には事実を知らせず、人質として預かっている前提を崩さぬまま。
だが国王があまりに憐れだと言い、子を孕ませて女達を守るから、仕方なく置いていただけなのだ。きっと王妃は思い通りになり、お喜びになるだろう。
それにこの嵐だ。
既に死んだような者を探す指示は、絶対に出ないだろう。
一応報告はするが、お前達は待機だ。余計な真似だけはしてくれるなよ。良いな。
命令違反はお前だけじゃなく、部下にも罪に問われるからな」
「っ、分かりました。待機致します」
「それで良い。じゃあな」
少佐は宰相に報告し、宰相は国王ではなく王妃に状況を伝えた。
王女は歓喜し僅かな見舞金と、自然災害のせいだから許せなどと、悲しみの欠片もない書状を笑いながら認めていた。
受け取った両親の気持ちなど、考えもしない。国を操る宰相の娘である王妃は、生まれた時から誰にも傅くことがなかった。
国王は悲しみのまま膝を突き、王妃の息子達は美姫達を失ったことを僅かばかり悔やんだ。
ただ寵姫のコゴリだけは、悲しむ訳でもなく何か思い詰めているようだった。
(作戦が狂ったわ。何でこんなことに…………)
◇◇◇
嵐が収まった後、側妃達の遺体は回収されて王妃の書状と共に敗戦国へと届けられた。
彼女の両親達は悲しむ素振りはしたが、心は穏やかだった。
元側妃だった娘達からは、数日前既に手紙が届いていたからだ。
「娘と孫は生きている。でも悟られぬように、表向きは悲しんでおこう。ぐすっ」
「ええ、ええ。生きている、それだけで良かった。うっ、ううっ」
歓喜する敗戦国の国王夫妻と、彼女達の兄弟姉妹達。
そんな感じで、救出作戦は幕を下ろしたのだった。




