夜空の下で
そんな感じで話をしながらてくてく歩き、ラディッシュの店まで着いた。
「いらっしゃい、コロネ嬢。付き合って貰って悪いね、モロコシ」
店の中から外を眺めていたラディッシュは、まだ遠くにいるコロネ達をみつけて、店から飛び出して手を振る。
嬉しそうな顔のラディッシュは、店にあった光を灯す魔法具を片手に携えていた。
店のドアに鍵をかけ、魔道具を作動する。
途端に黒に染まっていた、彼の周囲の景色が色付いていく。
灯り部分の上には取ってが付いており、腕を振りながらコロネの元まで駆けてくるラディッシュ。
まるで光だけが動いているようだ。
遠くにいる者が見れば、持っている人の姿なんて闇に紛れて見えないから、怪奇のように映るだろう。
だって松明の火ではない、直径3m程を照らす光など見たことがない。
それが今、昼とは違う街の様子を照らしていた。太陽がないだけで、なんて幻想的なのだろう。
「こんばんは、ラディッシュ様」
「こんばんは、コロネ嬢。暗い道は怖くなかった?」
「ええ。モロコシさんがいるから平気だったわ」
「そうなの? なら、良かった。ねえ、モロコシ。これ重いんだ、持って貰っても良い?」
「良いですよ。これは移動用には作られていないから、ラディッシュには到底無理だ。そもそもこれ、取ってなんて付いてたか?」
「それは僕が付けたんだ。せめてものお手伝いのつもりで」
「そうか、すごいな。さすがノームの愛弟子。元からのデザインを壊さない綺麗な継ぎ目と、持ち安さだ」
「そうか? ありがとう」
道を照らしながら、3人はテクテク歩いていく。
夜行性の鳥や狐などの目が、灯りに反射し逃げて行く。彼らも魔道具の光に驚いているのだろう。
「動物達に悪いことをしたわね」
「そうだね。きっと大きな獣だと思っただろう」
「二人とも、あんまり大きい声は出すなよ。みんな寝てる時間だからな」
「うん、気をつけるね」
「そうだよね、ごめん」
「別に怒ってる訳じゃないぞ。俺だって冒険みたいで楽しいからな」
「「モロコシ(さん)♪」」
「まあ気にするな。漁港を見たら今日は帰るぞ。お子様に夜ふかしは毒だからな」
「まあ、酷いわ」
「もう、子供扱いは止めてくれよ。僕は10歳になるのに」
「私は……ふふっ、そうね。モロコシさんから見たら子供くらいの年齢ですもんね。早く漁港に行きましょう」
「……何か少し、ダメージが。どうせ俺は爺ですよ。ミカヌレ様より年上だしな。はあぁ~、早く結婚してぇ」
「大丈夫だぞ、モロコシ。いつかきっと、お前の良さに気付く奴もいるから。諦めるな!」
「慰めるなよ。よけい惨めになるっ」
子供達をシュンとした顔から、瞬時に笑顔に変えたモロコシ。彼の声音と優しさには、誰もが安堵を覚える。
結果友人となり、年下からもナメられてしまうことに繋がる。本人は特に気にしない為、問題にもならないけれど。
モロコシだけ多少落ち込みながら、漁港まで到着した彼ら。
◇◇◇
「夜の空はキラキラして綺麗ねえ。たくさんの星が私のところに落ちてきそう」
「そうだね。僕も護衛なしで外には出ないし、普段景色なんか見ないから、空を眺めるなんて久し振りだよ。……確かにね。いろんな種類の宝石を散りばめたみたいだ」
「この空は、ずっーと向こうの国まで繋がってる。こっちは夜だけど、反対の位置にある国は昼だぞ」
「じゃあラディッシュ様。この夜景は、私達だけのものってことね」
「まあ、そうだな。この景色は今、夜の国しか見れないことになる。(順繰り順繰りと流れていくから、結局は同じようなものだが)」
「そんなこと知らなかったよ。国によって昼夜が違うなんて」
「近隣は同じだから、気付かなくて当然だよ。僕達は空間転移魔法を使って移動するから、そんなことがあると認識はしていたけど、普通にゆっくり移動すれば違和感はないからね」
「そうだぞ、コロネ。俺も移動は徒歩か船だから、魔法で他国に行った時は驚いたもんだ。まあさ、俺達にとって魔法自体が不思議なものだけどな」
「うん、不思議。分からなくても困らなかったけど、知るとビックリする。でもラディッシュ様にとっては普通のことなのよね。私が知っている知識なんて、本当に少ないのかもしれないわね」
光を灯す魔道具を消し、夜空を眺める3人。水面に星が映り込み、世界が星に包まれているようだった。時々跳び跳ねる小魚も、月明かりでキラキラと煌めいている。
「ボチャッ、バチャ、バチャバチャ」
そんな彼ら耳に、大きな水音が響いた。
「また魚か? イルカでも迷い混んだか?」
音に近付く3人だが、それが人間だと気付いた。
声も出せず溺れていたのだ。
「大変、助けなきゃ!」
「でもこんな夜に海にいるなんて、怪しいぞ」
「なんでよ。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? 私、行くわ!」
「ちょっと待て。それなら俺が行く。お前らは拐われたりしないように、周囲を警戒して待ってろ!」
「あぁ、モロコシ。気を付けて」
コロネの啖呵で、冷たい海に飛び込んだモロコシ。程無く彼が連れ戻ったのは、赤い髪の少女だった。
「おい、あんた。目を覚ませ、おい!」
ぐったりして目を開けない、彼女の呼吸は止まっていた。
モロコシは必死で、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。
そして……5分後。
「がはっ、ごほっ、くはっ」
少女は水を吐き出し、目を開けた。
「…………ここは、どこ? 私は、どうなったの?」
彼女は、まだ枯れた微かな声で尋ねる。
「溺れていたから、助けたんだが。何であんなところに一人でいたんだ? 他に一緒にいた者はいるのか?」
モロコシの質問に、絶望した表情の彼女は呟いた。
「……乗っていた小船から、突き落とされたの。味方だと思っていた者から………………」
そう告げた後、彼女は意識を失ったのだ。




